任意聴取では、どんな理由であっても、いつでも好きなタイミングで部屋の外に出られる
「では、偶発的な性交があったことは認め、相手の腕や手については一切触っていないと主張してください」
依頼者の会話のテンポが遅くなった。
「すみません。ちょっとメモさせてください。やっぱり、不安で……あれですよね、狭い部屋に閉じ込められて」
「大丈夫です。任意聴取で閉じ込めることはできません。トイレ以外にも、どんな理由であっても、いつでも好きなタイミングで部屋の外に出られるので、不安になったり、調書にサインを求められたりした時には、署名をする前に『弁護士と電話で話したいので、外に出ます』と言って、外に出て、私に電話をください。
それから法律上、ノートとペンは持ち込めます。メモを禁止する明確な規定はありません。もし警察官からダメと言われたら、『メモを禁止する規定はないでしょう』と主張してください。それでもダメなら、一度部屋を出て外でメモしてください」
「よかった」
依頼者が安心した様子で、私もよかった。
「こちらの主張はどこまで言えば?」
「最初にはっきり言ってしまってください。『本番行為は否定しないが、私が誘ったのではなく、向こうが入れた。美人局にあったという認識です』と」
「刑事の人とか、怒りませんか?」
「机を叩いたり、怒鳴ったりするかもしれませんが、その時はノートに、何をされたかをメモしてください。過去に私が担当した依頼者の中には、呪いの言葉をかけられた人までいらっしゃいます。『お前は悪魔だ』とか、なんとか。そういう行為は違法なので、もしそうしたことがあったら、私がすぐ抗議します。いずれにせよ、不快なことがあったら退出して、私に電話を」
この呪いの言葉の話は本当にあった出来事だ。当時、依頼者から聞き取り調査を行った時はびっくりしたが、経験を積むうちに、数多くの“奇人変人”刑事に出会い、最近では驚くことも少なくなってしまった。
翌日、依頼者は沖縄へ飛び、水田刑事の任意聴取に協力した。私はその後、もう一度水田刑事に電話を入れ、念を押した。
それ以降、依頼者のもとには、沖縄県警からも店からも連絡はない。それこそが、この手のトラブルの解決の証なのだ。
(了。第1回から読む)