「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏
現在、歌舞伎町を中心とした一帯には、たくさんの女性向け風俗店(女風)がある。新宿に拠点を構え、これまでに3000件以上の風俗トラブルを担当してきた「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏は、女風をめぐるトラブルを解決した経験がある。その実態を、歌舞伎町のお膝元にある紀伊國屋書店新宿本店の「新書部門(6月4週)」でランキング第1位を獲得した若林氏の著書『歌舞伎町弁護士』より、一部抜粋、再構成して紹介する。
「裏引き」「裏オプ」の罰金として、店から200万円を要求された女風のセラピストの丸山さん(仮名)は、「歌舞伎町弁護士」のもとへと駆け込んだ──。【全4回の第4回。第1回を読む】
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丸山さんが、私のところに来たのは、翌日の朝だ。店に知られている自宅アパートには、怖くて帰れなかったという。眠れないまま、ネットカフェで検索を繰り返し、グラディアトル法律事務所にたどり着いた。
彼ほど酷くはなくとも、似たような目に遭った依頼者は少なくない。日本人は真面目なので「契約書にサインしてしまった以上、そこに書かれている約束は守らなくてはならない」と考えがちだ。
では、少しだけ文言を変えてみたい。丸山さんが結んだ業務委託契約書には《裏引きをしたら、罰金150万円》と書いてある。この文言がたとえば《裏引きをしたら、片腕を切り落とす》だったとしたら、それでも「約束は守らなければならない」のだろうか。
実は契約には「常識」が伴っていなければならない。たとえ同意や署名をしたとしても、「極端に常識から外れた文言」は、法的には無効なのである。以下は民法の第九十条に明示されている。
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
「公の秩序又は善良の風俗」──すなわち「公序良俗」とは、平たく言えば「常識」である。その常識に沿って言えば、《裏引きをしたら、片腕を切り落とす》は明らかに非常識なので無効だ。