書くことが“治療”の一環だった

 とはいえ樋口氏は、令和の世に振り返れば全てがコンプライアンスに抵触するような時代を本書で賛美しているわけではない。前書きには〈過去の事実をありのまま描きつつ、現在の批判的視点を反映することに取り組んでいます〉と記されている。これは樋口氏の妻であり弁護士の三輪記子氏のアドバイスによるものだった。確かに寺島氏をはじめ、本書に登場する特定の人物を持ち上げてもいない。元『裏BUBKA』編集長で、現在は本書を発行している清談社Publicoの代表、岡崎雅史氏から、寺島氏のノンフィクション執筆の打診を受けたときから、覚悟を決めていた。

「岡崎代表から『寺島さんは何者だったんでしょう。寺島さんのことについて書いてもらえませんか』と依頼をいただいた時に、僕は言いました。『引き受けますけれど、ただし、寺島さん一人を悪者にするのではなく、僕らの恥もちゃんと晒さないといけない。返り血を浴びる覚悟で、返り血どころか自分たちも斬られる覚悟をしなければならない』という断りはしました。作中でそれは晒しているつもりです。時代のせい、環境のせい、会社のせいだけではない。自分たちもやっていただろう、という視点を持って書きました」(同)

 事実、本書執筆にあたり、当時関わりのあった方々へ取材を打診した際には「寺島さんより樋口さんのほうが嫌なんだけど」と難色を示されたこともあったという。

「加害者は覚えていない、の典型です。自分自身は覚えていないけれども、かつて僕も周囲に嫌な思いをさせてしまっていたことを思い知りました」(同)という。岡崎氏に宣言した通り、自分の身も斬られる執筆作業となった。作中で謝罪もしている。

「悪ノリを賛美することもしないし、あの頃は良かったとも、もう絶対に言わない。武勇伝を誇るようなことも、みっともないからしちゃいけないという気持ちは強くあります。ただ、あったことはありのまま書き留めておかなければいけないだろう。そんな気持ちでした。

 でも、自分でも書きながら辛いと思いながらも、初めて言いますけど、治療の一環でもあったというところはありますね。辛い、と思うことほど、書くことで感情を吐露することにより、自分を治療しているという感覚になるんです。もちろんそれはまだ、かさぶたを一枚剥がせば、血がドクドク出るんですけれども。かつて大島渚が『カメラは加害者だ』と言いましたが、いや、書き手も加害者だよなと思いながら書いてました」(同)

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