「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏
「今すぐ取引するなら、6000万円で買い取りましょう」
数時間後に目を覚ました時、同じ部屋にいたのは美咲ではなかった。怒りの形相をたぎらせた国本や平山、哀れみの視線を投げかける佐藤、困惑する我孫子。そして、自称弁護士の国本が切り出した。「美咲は、自分の妻だ。お前は不貞行為の現行犯だ」と。実際には、美咲は平山の交際相手だ。国本の言葉は、用意周到な奴らの台本にあるセリフだった。
それから起きたことは、典型的な劇場型犯罪である。「愛の手帳」を交付されている小栗さんに対して、自称弁護士の国本は「不貞行為の賠償金」を請求した。その横には、これまで2年間にわたって、自分を殴り続けてきた平山。小栗さんは混乱と恐怖のあまり、失禁してしまった。
国本は不貞行為の賠償金として3000万円を要求した。口座にあった約5000万円をすべて奪われてしまった小栗さんにはとても支払える金額ではない。だが、このニセ弁護士は、でたらめな法律を盾に、払えなければ刑務所にブチ込まれるのだと脅した。小栗さんはパニックだ。
さらに平山が畳みかけた。あのアパートと土地を売れば、賠償金が払えるんじゃないか。賠償金さえ払えば、警察には逮捕されない。刑務所に入らなくて済む。ちょうど、ここに不動産取引のプロである我孫子もいるじゃないか。
「本当は5500万円の価値しかありませんが、今すぐ取引するなら、6000万円で買い取りましょう」
不動産の価値を適正に計るつもりなど毛頭なく、我孫子が言った。
パニックに陥った小栗さんは、我孫子が用意していた契約書にサインせざるを得ない。我孫子は小栗さんの口座に6000万円を振り込んだ。その大部分は、もともとは小栗さんからせしめた金だった。小栗さんは土地建物を売却して得た6000万円のうち、3000万円を「不貞行為の賠償金」として国本に支払った。