周囲には破られたコンドームのパッケージが散らばっている
茂みの奥から現れた「男」
会話の途中、茂みの奥から物音がした。姿を現したのは20代前半と見られるアフリカ系の若者だった。スニーカーにダウンジャケット姿、片手にはスマートフォン。彼はまっすぐ、先ほどエレナと一緒にいたもう1人の女性のもとへと歩み寄っていく。エレナはふと記者の腕を軽く引き、テントから少し離れた場所へと促した。ほどなくして、女性と若者は静かにテントの中へと入っていった。
「昼間でもこうして客は来るの。フランス人、ロシア人、ルーマニア人、トルコ人……。韓国人や日本人もいる。日本人は中年が多い」とエレナは淡々と話す。記者が「危険」とされる状況について尋ねると、彼女は少し口調を強めた。
「客じゃない。怖いのは、私たちみたいな移民の男たち。観光客を襲うために森にやってくる。私たちに対してもバッグを奪おうとしたり、暴力を振るってきたりする」
彼女は身振りを交えて、夜の森の状況を説明した。「日が暮れてからは、特に注意が必要」だと言う。
この森では2018年、ペルー出身のトランス女性が仲間を守ろうとして、強盗団に殺害される事件が起きている。また、森は薬物売買の場所としても利用されているという。森のなかでは、散歩している裕福そうな地元民とは雰囲気の違う男が、目的もなく、何度も同じ場所を往復している姿が見受けられた。
記者が警察に窮状を訴えたことがあるかと尋ねると、「警察は何もしてくれない」とエレナは肩をすくめた。
「私たちは周りから見えていないの。ここにいるのは、あの子と私だけ」