国内

《戦後80年》「絶対国防圏外」極限のソロモン諸島から生還した元海軍大尉の証言「補給はしないが降伏は許さない」 犠牲者4万3000名のうち戦死者は約9000名にすぎなかった

昭和17年11月、兵科予備学生の頃の福山孝之さん。アルバムが戦災で焼失し、これが手元に残った海軍時代唯一の写真

昭和17年11月、兵科予備学生の頃の福山孝之さん。アルバムが戦災で焼失し、これが手元に残った海軍時代唯一の写真(提供)

 太平洋戦争の激戦地となったソロモン諸島。そのひとつブーゲンビル島は、多くの犠牲者を出し「墓島」とも呼ばれた。ノンフィクション作家の神立尚紀氏が、常に死と隣り合わせのサバイバル生活について生還者が語った、貴重な肉声を紹介する。

国に見殺しにされた兵士たち

 太平洋戦争の戦況が悪化した昭和18(1943)年9月30日、日本政府は、戦線縮小と作戦方針の見直しをふくめた「絶対国防圏」構想を発表する。これは、北は千島からマリアナ諸島、西部ニューギニアにいたるラインを絶対国防圏として死守するというものだが、それは同時に、その圏外にある日本軍将兵を、国が見殺しにする、ということと同義でもあった。

 当時、ブーゲンビル島(現・パプアニューギニア)トリポイルで対空砲台指揮官を務めていたのが、福山孝之・元海軍大尉(故人)だ。

「絶対国防圏の外側には、東部ニューギニア、ラバウル、ソロモンを中心に、約30万もの将兵がいたんですよ。その30万名に対して、今後補給はしないが降伏は許さない、死ぬまで戦えと、そんな無茶な命令を出したというのは、世界史上にもあまり例を見ないんじゃないでしょうか。この構想を聞かされたときは、とんでもないことだとみんな憤慨していましたね」

南太平洋ビスマルク諸島、ソロモン諸島要図。福山さんは、丸印をつけた左端のラバウル、右端のコロンバンガラ島を経て、中央のブーゲンビル島に移動、トリポイルで終戦を迎えた

南太平洋ビスマルク諸島、ソロモン諸島要図。福山さんは、丸印をつけた左端のラバウル、右端のコロンバンガラ島を経て、中央のブーゲンビル島に移動、トリポイルで終戦を迎えた(提供)

 福山さんは大正7年、島根県の生まれ。昭和16年12月、東京帝国大学法学部を繰り上げ卒業し、海軍の初級指揮官を養成するため新設された「海軍兵科予備学生」を志願。翌年1月、1期生として横須賀海兵団に入団し、千葉県の館山砲術学校で陸上戦闘指揮の猛訓練を受けた。

 そして昭和18年1月、予備少尉に任官すると、横須賀鎮守府第七特別陸戦隊に配属され、ソロモン諸島の激戦場に送り込まれていた。

「絶対国防圏」構想発表からほぼ1か月後の11月1日、米軍はブインから約80キロ離れたブーゲンビル島中南部のトロキナに上陸。みるみるうちに飛行場を建設し、島全体の制空権を完全に掌握する。同時に、日本軍陣地に対する空襲も激しさを増していった。

「見捨てられても降参は許されない。敵機が来たら戦わなければなりません。私の砲台では、偽陣地をつくって敵の攻撃をそらすなどの工夫を重ねながら、戦闘に明け暮れました。あるとき、銃座が直撃弾をくらって5名が一度に戦死したことがありましたが、班長の下士官は、頭に負傷して血をしたたらせながらも手ぬぐいで鉢巻をして、一生懸命に機銃を修理していた。そういう責任感の強い部下に恵まれたことは、あの酷い戦争のなかでの唯一の救いでした」

 福山さんが指揮官を務めるトリポイルの対空砲台は、143名の隊員からなり、12センチ高角砲4門、25ミリ連装対空機銃3基、20ミリ機銃3挺、ほか高射器、測距器、探照灯などを装備していた。

関連記事

トピックス

おぎやはぎ・矢作兼と石橋貴明(インスタグラムより)
《7キロくらい痩せた》石橋貴明の“病状”を明かした「おぎやはぎ」矢作兼の意図、後輩芸人が気を揉む恒例「誕生日会」開催
NEWSポストセブン
豊昇龍
豊昇龍が8連勝で単独首位なのに「懸賞金」は1敗の大の里のほうが400万円超も多い!? 指定本数の増加で「千秋楽までにさらに差が開く可能性がある」の指摘も
NEWSポストセブン
イベント出演辞退を連発している米倉涼子。
「一体何があったんだ…」米倉涼子、相次ぐイベント出演“ドタキャン”に業界関係者が困惑
NEWSポストセブン
エドワード王子夫妻を出迎えられた天皇皇后両陛下(2025年9月19日、写真/AFLO)
《エドワード王子夫妻をお出迎え》皇后雅子さまが「白」で天皇陛下とリンクコーデ 異素材を組み合わせて“メリハリ”を演出
NEWSポストセブン
“CS不要論”を一蹴した藤川球児監督だが…
【クライマックスシリーズは必要か?】阪神・藤川球児監督は「絶対にやったほうがいい」と自信満々でもレジェンドOBが危惧する不安要素「短期決戦はわからへんよ」
週刊ポスト
「LUNA SEA」のドラマー・真矢、妻の元モー娘。・石黒彩(Instagramより)
《大腸がんと脳腫瘍公表》「痩せた…」「顔認証でスマホを開くのも大変みたい」LUNA SEA真矢の実兄が明かした“病状”と元モー娘。妻・石黒彩からの“気丈な言葉”
NEWSポストセブン
世界陸上を観戦する佳子さまと悠仁さま(2025年9月、撮影/JMPA)
《おふたりでの公務は6年ぶり》佳子さまと悠仁さまが世界陸上をご観戦、走り高跳びや400m競走に大興奮 手拍子でエールを送られる場面も 
女性セブン
起死回生の一手となるか(市川猿之助。写真/共同通信社)
「骨董品コレクションも売りに出し…」収入が断たれ苦境が続く市川猿之助、起死回生の一手となりうる「新作歌舞伎」構想 自宅で脚本執筆中か
週刊ポスト
インタビュー時の町さんとアップデート前の町さん(右は本人提供)
《“整形告白”でXが炎上》「お金ないなら垢抜け無理!」ミス日本大学法学部2024グランプリ獲得の女子大生が明かした投稿の意図
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ハワイ別荘・泥沼訴訟を深堀り》大谷翔平が真美子さんと娘をめぐって“許せなかった一線”…原告の日本人女性は「(大谷サイドが)不法に妨害した」と主張
NEWSポストセブン
須藤被告(左)と野崎さん(右)
《紀州のドン・ファンの遺言書》元妻が「約6億5000万円ゲット」の可能性…「ゴム手袋をつけて初夜」法廷で主張されていた野崎さんとの“異様な関係性”
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)の“過激バスツアー”に批判殺到 大学フェミニスト協会は「企画に参加し、支持する全員に反対」
NEWSポストセブン