昨年、秋田で出没したクマを駆除作業する様子
「人間が舐められているんだ」
それが私が野生のクマに最接近した日だけど、その後、2人のクマ関係者に会っている。
ひとりは那須塩原で温泉取材をしたときのタクシー運転手さんだ。
「うちは代々、マタギをやっているんだよ」とバックミラー越しに言うから、思わず身を乗り出した。「マタギってまだいるの?」「いるさ。まぁ、最近のマタギは横着して、クマを追いかけるのにスノーモービルを使っているけど、親父の代までは足で追ったんだよ」と言う。
「じゃあ、山でクマに遭遇したら、とっさにどう思うの?」と聞くと、「そりゃあ、うれしいよ。商売だもの。オレたちはクマの商品価値を下げないように顔を撃つんだ。胆とか内臓を傷つけると値段が下がっちゃう」と、そんな話をしていたときよ。
突然、道沿いにタクシーを止めて、「ちょっとあの木を見て」と指さしたの。一本の大木の皮がボロボロに剝がれて生木が見えている。「クマの爪痕だけど、ここまでクマが下りてきちゃダメなんだよ。人間が舐められているんだ」と、それまで柔和だったドライバー氏の目の色が変わったの。ああ、この人はクマと対峙するときにこんな目をするんだなと思ったら、背筋がゾクッとしたっけ。