昨年福島県のとある自宅に侵入したクマ。周囲の物が散乱している(2024年12月)
勇ましいハンターもひと皮めくれば人の子
もうひとりは10年前に婚活で出会ったTさん(当時59才)だ。大手メーカーを定年退職間近のバツイチ氏で、婚活の方はともかく、彼の趣味の猟の話がめちゃ面白くて、二度三度と会った。何が面白いって、猟師界のグチ話よ。猟友会に入っていると行政から害獣駆除の依頼が来るんだけど、その手当は数千円。猟仲間も高齢化が進んで、ベテラン連中はキツいことはやりたがらない。
「クマが出た、なんて聞くと『腰が痛い』『血圧が高い』と言って出て来やしない」と。一見、勇ましいハンターもひと皮めくれば人の子よね。撃った鹿はその場で解体するのが決まりだけど、何十kgの生肉を里まで持ち帰るのがまた重労働。都会ではジビエ料理とかいってもてはやされてても、彼の住む多摩地域では売れるどころかもらい手すらいないのだそうな。
「あと、キツいのは世間体だよね。要請があって害獣を撃つのは、人の役に立ちたいって気持ちがあるからだよ。それなのに、30代半ばの娘は、ママ友たちから『あんたのお父さんが生きているクマとか鹿を殺しているって信じられない』って言われたって」と肩を落としていた。ちなみに、住宅地に出没したクマは警察の指示がなければ撃てないのが決まり。行政と警察の担当者がクマの危険を理解している人ばかりとは限らないので、目撃してから何時間も手をこまねいてしまうこともあるんだって。クマ被害、なくなりそうもない気がしてきたわ。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2025年8月14日号