2025年2月7日の日米首脳会談。前列左から石破茂、ドナルド・トランプ、J・D・ヴァンス(getty images)
昭和の日本はアメリカの同盟国となることで国際秩序のなかで生き延びてきた。しかし戦後80年を迎える今、覇権国家の道を歩んだアメリカがその役割を放棄し始め、「西洋の敗北」も露呈しはじめている。昭和からの地続きで現代社会を見渡し、歴史の教訓を未来につなぐ━━元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏と思想史研究者の片山杜秀氏が「昭和100年」を振り返り、徹底討議した。対談内容をまとめた書籍『生き延びるための昭和100年史』より、一部抜粋、再構成して紹介する。【全3回の第3回。第1回を読む】
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佐藤優(以下、佐藤):冷戦崩壊後に誕生したジョージ・ブッシュ大統領は、元CIA長官で冷戦の後処理を表と裏を両方使って見事に実行したとは思いますが、湾岸戦争で禍根を残しました。
息子のジョージ・W・ブッシュ大統領が9・11を受けてアフガニスタンに攻め込み、大量破壊兵器がないにもかかわらずイラクに言いがかりをつけて第二次湾岸戦争へ突入します。ポスト・ポスト冷戦時代を象徴する最悪の大統領で、事実よりも価値観を戦争の口実にする嚆矢でした。
片山杜秀(以下、片山):同感です。「テロとの戦い」を標榜しますが、その言葉自体にネガティブな評価を含んでいる。「世界の警察官」としての宣言だったのでしょうが、破綻を含んでいた。
佐藤:そして黒人初の大統領、バラク・オバマが誕生しますが、黒人大統領の登場が早すぎたように感じます。アメリカ社会に黒人大統領を迎える準備ができておらず、その反動がトランプ大統領を生み出したとすら思います。
片山:オバマは2009年1月の就任後、10月にノーベル平和賞を受賞します。4月に核廃絶に向けた思いを語ったプラハ演説に象徴される、核なき世界を目指す姿勢が評価されてのことでしたが、一方ではウサマ・ビン・ラディン暗殺のような狼藉をしでかしてしまう。
佐藤:あの暗殺は国際法上、正当化できるものではありません。ただ、プラハ演説を聞くと核廃絶への思いが強いことは分かりますし、2016年にはアメリカ大統領として初めて広島にも訪問しています。しかし、そんなオバマも原爆の投下責任すら認めなかった。