V9前半の巨人投手陣の柱となった城之内邦雄氏
「打たれると長嶋さんがマウンドにやってきて、“ジョー、ビビるなよ。思い切っていけ。打たれたら取り返してやるから”とね。今はベンチがタイムをかけてマウンドで間を作るけど、当時は長嶋さんと王(貞治)さんが交互にやってきて、間を作ってくれました。
ピッチャーは打たれ出すと一本調子になるんですよ。牽制もしないで、イチ、ニー、サンで投げてしまう。そこで冷静になるように間を作ってくれて、自分のペースで投げられるようにしてくれた。勝ち星のいくつかは長嶋さんのお陰で勝たせてもらったようなものです」
チームメイトとして、「長嶋さんが怒ったのを見たことがなかった」とも語った城之内氏。「中心選手が冷静さを失うとチーム全体がおかしくなるというのがわかっていたんじゃないかな」と分析する。
「とにかく一生懸命だったね。遠征先の旅館では1部屋3人だったが、長嶋さんは試合に行く前も、試合後に帰ってきてからも部屋で素振りをするんだよね。同部屋の者も寝ているわけにはいかないから、同じようにバットを振る。そうして他の選手のレベルも引き上げた。これは計算してできることじゃないよね。すべてにおいて真剣だったから凄かった」
【プロフィール】
鵜飼克郎(うかい・よしろう)/1957年、兵庫県生まれ。『週刊ポスト』記者として、スポーツ、社会問題を中心に幅広く取材活動を重ね、特に野球界、角界の深奥に斬り込んだ数々のスクープで話題を集めた。著書に8競技のベテラン審判員の証言を集めた『審判はつらいよ』(小学館新書)などがある。新著『巨人V9の真実』には、長嶋茂雄氏、王貞治氏、金田正一氏らの貴重な証言の数々が収録されている。