6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
9年連続日本一(1965~1973年)という巨人の打ち立てた大記録は、今後も破られることはないだろう。今年6月3日に89年の生涯を閉じた長嶋茂雄氏が中心となって築いたまさに“不滅の記録”である。生前の長嶋氏を含む多くのV9戦士に取材してきた『巨人V9の真実』(小学館新書)の著者・鵜飼克郎氏(ジャーナリスト)が、V9前半の巨人投手陣の柱となった城之内邦雄氏に、「長嶋氏とV9の思い出」を取材した。
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“エースのジョー”と呼ばれた城之内氏に、長嶋氏の訃報のあとに改めて話を聞くと、「ファンを大切にする人だったね」と話し始めた。
「どうすればファンが喜んでくれるかを常に意識していた。普通は試合中にはそんな余裕はないもの。凄い人でしたね。見えないところで努力もしていた。オフの伊豆での山籠もりは有名ですよね。だから長嶋さんは故障が少なかった。キャンプでみんなと練習が始まる時には、すでに体が出来上がっているからどんどんペースが上がる。ランニングだって全体練習の前を走る。みんなの倍やるんだから、スタミナがあるし、スランプがなかったよね」
城之内氏がいちばん驚いたのは、キャンプでの長嶋氏の個人ノックだったという。
「通常、ノックで捕球するとボールを後ろのカゴに入れるんですが、長嶋さんは飛び込んで捕球しても必ずファーストやセカンドに向かって投げる動作までやる。そこまでやる選手はいないのですが、長嶋さんは捕球して素早く送球するまでが練習。送球の時に手を“ヒラヒラ”とさせる独特のパフォーマンスまで見せるから、ファンも大喜びする」
試合中にはマウンドでも助けられたと振り返る。