2018年の甲子園で「侍ポーズ」を披露した兄・輝星
百戦錬磨の西谷監督は得点差ほどの実力差はなかった、と振り返る。
「あの大会は吉田君がひとりで投げていて、うちは3人の投手で回していた。吉田君が万全だったら、やられていた可能性もある」
金農アルプスで応援していた大輝は当時小学5年生。この試合がいまも脳裏に鮮明に刻まれていると大輝は述懐する。
「あれだけ輝星が打たれてボコボコにされた試合は初めてだった。野球をやっている時はいつも、ギラギラ輝いている輝星が、落ち込んで泣いたりしていた。僕自身も悔しかったし、自分の中で心が動いたところはあった。自分が兄に代わって甲子園で優勝して、兄を超えたいと思いました」
ちょうど3年前、秋田大会を訪れた時のことだ。野球関係者の間で、輝星の弟である大輝が翌年に金足農業に入学することを決め、兄の時と同じように秋田の有望選手が金足農業に集結するという話でもちきりだった。
そして昨年夏、2回戦で県内のライバルであるノースアジア大明桜に勝利して勢いに乗った大輝と金農は、6年ぶりに夏の甲子園に到達する。大輝は自信にみなぎるコメントを連発していた。
「一度、マウンドに上がったら絶対に譲りたくない。投げる体力とか、マウンドでの気迫の入り方とかは兄に負けていないと思います」
「真夏にスイッチが入る兄弟」
昨夏の甲子園では1回戦敗退に終わったが、大阪桐蔭と吉田家の運命が再び交錯したのが今夏の6月18日だった。金農の新グラウンド竣工記念招待試合として大阪桐蔭を迎えたのだ。
大輝は6回を投げて8安打を浴び、5失点。リベンジは果たせなかったが、西谷監督は先発した大輝をこう評価した。
「牽制の間合いや変化球などは、お兄ちゃんを彷彿とさせる良いピッチャーです」
ただし、1年前と比較しても、MAX146キロの球速には変化がなく、剛柔あわせたような投球術もなりを潜めた。2年夏からの進化は感じられなかったというのが正直な感想だった。この1年間、人知れずケガに苦しんだという情報も入っており、桐蔭戦では不安定な投球を露呈した。
しかし、ノーシードで臨んだ秋田大会準決勝の明桜戦で、大輝はわずか1点のリードを守って完封する。圧巻だったのは、走者を背負ってギアを上げた時だ。球速に大きな変化はなくとも、狙って際どいコースを突き、狙って空振りを奪っていた。大輝は言う。
「ギアを上げた時の投球はこの夏一番だった。泥臭い野球がうちの野球。それを体現できた」