「免許返納」密着取材の際の釜本さん
それでも、返納当日に署内での手続きを終えた釜本さんは「あんだけ手放すのが嫌だったのに、あっけないというか、簡単なもんですわ。担当者が『釜本さん、返納ですか』と言うから『これで市内も騒がしくなくなるやろ』と返したら、笑っていました」と笑みを浮かべていた。
後日、返納後の暮らしについて聞くと「そりゃ多少は不便ですよ」としながらもこう話していた。
「事務所の往復は息子の世話になり、ゴルフに行くのも誰かに迎えに来てもらっている。家族はじめ周りの人の助けが大きい。ただ、家族は万が一のことを心配してくれて、返納を喜んでくれている。それは嬉しい。事故を起こせば大変なことになるからね。ただ、本人はそうは思っていない。“自分は大丈夫”と考える。ボクは今でも“自分は大丈夫”と思っているからね。家族に背中を押してもらわなければ、踏ん切りがつかなかったかもしれない」
高齢ドライバーによる事故は社会問題化し、運転免許返納は釜本さんが実行した当時よりもさらに社会的な課題のひとつとなっている。釜本さんが自身の経験をもとに語ったことは、今も免許返納に悩む誰かの助けになる可能性があるだろうか。
◆取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)