タナカ氏は、公益社団法人日本サウナ・スパ協会が認定する日本唯一の「サウナ大使」だ
新しいサウナと「おじさん」の行方
ライフスタイルの変化とともに人々の「休み方」も変化してきた。サウナもまた、新しい形を模索する施設が増えてきているという。
「佐賀県にある『らかんの湯』という施設は森に囲まれていて、浴室内にも大きな岩や木が鎮座し、張り紙や時計など余計な情報が極限まで少なく、神社みたいな緊張感があるんです。人工的な賑わいもなくて、そんな浄化されるようなサウナ施設が実現していることに驚きました。美しい振る舞いをしなくては、という空気があって、人間としての尊厳を思い出すような……そんな気分になります」
こうした感覚を得ることが今を生きる人々にとって重要だと、タナカ氏は続ける。
「スマホひとつで娯楽などさまざまな情報に触れられる今、疲れているのは脳のほう。映画やゲームなど映像からの単純な刺激ではなく、自然に触れたり、美味しいものを食べたり、お湯に浸かったり、五感全体が喜ぶような、そんな休み方に注目しています。感覚が満たされることで思考が一旦止まって、脳を休められるイメージです。
あとは瞑想のような休み方もいいと思います。刺激を減らし、心身を休めてみると、頭の中が整理されたり、新しいアイディアが思い浮かんだりする。
最近ではメディテーション(瞑想)がテーマのサウナ施設が増えていますが、気持ちを正してくれるような“浄化型のサウナ”が今、世間から求められているんじゃないでしょうか」
そうしたサウナが注目されると、「昭和」を感じさせるノスタルジックなサウナや、スーパー銭湯などの賑わいなど、かつての「自分たちの場所」から追い出されてしまったおじさんの行方も気になるところだ。
「おじさんの居場所、なくならないと思いますよ。女性が増えているとはいっても、やっぱりまだまだ男性のユーザーが多いですよね。男性専用の施設もいまだに作られている。それに、サウナ室のテレビで野球や相撲を見て盛り上がる、不思議な一体感みたいなものも多様な楽しみ方のひとつです。
そういう風景は少なくなっていくのかもしれないですけど、残ってほしいな、とは思います。みんな同じ方向に向かっていく必要はなく、例えばメディテーションの逆張りで、みんなでテレビを見て盛り上がる『テレビジョンサウナ』とか、エンタメに振り切ったサウナみたいなものも出てくるかもしれませんよ」