国立スポーツ科学センター(筆者撮影)
調査対象に「ハラスメントの有無」が含まれていない疑い
そもそも第三者調査が求められる最大の理由は、村田本部長の指導が「パワハラ」にあたるのかどうか、身内でなく、かつ、専門性のある機関によって客観的に調べる必要があるからだ。
ところが、別の記事(スポニチANNEX8月8日付)の記事によれば、今回の法律事務所が行った調査項目は、具体的な調査・処分を行わなかった「協会の対応」と、村田氏を続投させた「新強化体制」のみ。最大の焦点であるハラスメントの有無についてはそもそもきちんと調査していない可能性があるのだ。
さらに本件では、村田氏の指導陣の一員だった男性トレーナーA氏によるセクハラの訴えもあった(A氏は「事実無根」と否定)。将来の選手たちの安全はもちろん、トレーナーの安定的な業務遂行のためにも公正な事実認定と処分がなされなければ、再発防止はおぼつかないが、この点も調査の対象となっていないならば画竜点睛を欠いている。
筆者はあらためて報告書の閲覧を求めた上で、こうした疑問点をぶつける質問を協会に送ったが、期限までに回答はなかった。
ただ、スポーツ庁がこうした日本体操協会の対応を認めたわけでもない。前出の担当者は「一般論」として東京五輪の年の6月に策定したスポーツ団体ガバナンスコードに言及した。
「ガバナンスコードでは、不祥事の際には、事実認定をしっかりした上で対象者の必要な処分、外部への公表や説明を行うよう示してきました。競技団体にはこうしたことを踏まえて対応いただきたいと思っています」
東京五輪が掲げたアスリートファーストの精神は、公表と説明のプロセスを丁寧に踏むことで初めて体現されるものではないのか。
■取材・文/広野真嗣(ノンフィクション作家)