トラとミケ 7 ~まぶしい日々~』/ねこまき(ミューズワーク)/小学館/1540円
【書評】『トラとミケ 7 ~まぶしい日々~』/ねこまき(ミューズワーク)/小学館/1540円
【評者】鈴木砂羽/俳優。1972年生まれ。静岡県出身。テレビ朝日系の人気ドラマ『相棒』シリーズなど、出演作品はドラマ、映画、舞台など多岐にわたる。俳優業のほか、舞台演出、マンガの執筆など幅広い表現ジャンルで活躍中。
50歳を過ぎたあたりから、やけに物思いに耽ることが多くなった。すると一人でいる時間ががぜん増えていく。もう少し若い頃は、たくさんの友達がいることが密かに自慢だった。いつも多くの人に囲まれている自分が好きだったし、幸せだと思っていた。
それがこの歳になって、一人の時間をこの上なく贅沢に感じるようになった。でもそうは言っても完全に「独り」ではない。活動がソロになったという意味だ。ワタシのソロ活動は主に食事、それから飲みに出かけること。気づけば一人で酒場に出向くことに抵抗がなくなっていた。一人で店に入るのは勇気がいる女性も少なくはないと思うが、ワタシの場合、年齢の後押しもあってか、最初の一歩さえ踏み出せれば、あとは自動でお一人様の世界に突入できることを知り、ぼっちにさっさと馴染んでしまった。
自分にとって居心地のいい場所を見つけてしまった時の高揚感ったらない。友達や誰か誘っても味わえるのでは? むしろそんないい店、誰かと共有したくない?という声も聞こえてきそうだけど、もちろんそれも素晴らしい。ちょっと前のワタシはそこら辺を至上としていた時代もある。
けれど今はソロなのだ。せっかくのソロなら、お店の人と交わりたい。ちょっとだけ常連さんたちと顔見知りにもなってみたい。マスターやママさんのお出迎え、大将の掛け声、女将さんの笑顔、ソロで入ってきたワタシだけに向けられる「いらっしゃい」。最高に贅沢な時間の到来だ。
「トラとミケ」、実際にあったら迷わず入ってしまうお店。最初はそっと入り口に佇み、トラさんに指示された席に座る。そして周りを見渡して、みんなが頼んでいるどて煮とビールを注文する。運んできてくれたミケさんとは必ず目を合わせる。そしてできるだけ、初めてだけどここに座れて光栄感を目と笑顔で表現。ここまでできていれば、ソロ活ファーストステップはOK。
まずは冷たいビールを喉に流す。「ハァうんめぇ」
熱々のどて煮を一口。
「ウオッサイコー」
左や右隣の常連さんと思わしきおっちゃんたちの真似っこをして串カツを頼む。
あとは好きなだけ好きな物思いに耽るとする。仕事の一人反省会もよし、今日会ったあの人のことでも、何日か前の未消化な出来事でもいいし、次の楽しみな計画や妄想に浸ったり、とにかく自由なのだ!
その頃にはビールも二杯飲み終わり、次は何にしようかと考えていると、ミケさんがタイミング良く声がけしてくれるであろう。女一人のワタシにトラさんも付かず離れず気遣いをしてくれる。そうして程よく腹も気持ちも満たされたワタシは、お会計を済ませ「また来ます」とお二人に挨拶して、店を出る。
「ああ、いい店だった。また来よう」。そしていつしかワタシも「トラとミケ」の常連に。その頃には「女優 鈴木砂羽」のエピソードが「トラとミケ」に登場したりして。今夜もそんな妄想をしながらワタシは飲んでいる。
※女性セブン2025年9月4日号