「自分の想像力の欠如をめちゃめちゃ反省しました」
「りりちゃん」に懲役13年の求刑が出たとき、「他の事件に比べて重すぎるのではないか?」ということがワイドショーで話題になった。「居場所がなかった」と言うりりちゃんに同情的だった宇都宮さんだが、被害に遭った男性にも会って話を聞くことで、少しずつ事件への思いが変わっていく。約3800万円を騙し取られた男性の肉声は、彼が受けた傷の深さを感じさせる。
「メディアに報じられた『りりちゃん』と、自分が実際に会った渡邊真衣という女性の風貌が違い過ぎるということもあり、『まさかそんなことをやっているとは』となかなか信じられなかったみたいです。
彼女が『(精神的ケアもし、肉体も提供した)対価だ』と言っていたこともあり、私自身、そういうストーリーを当てはめて見ていたのかもしれないと、自分の想像力の欠如をめちゃくちゃ反省しました。私は被害者の方とはいまも連絡を取っていて、8月頭、被害弁済プロジェクトからは、『弁済できるのは42万円ほど』という連絡が来たそうです」
騙し取った1億5000万円を渡邊受刑者は、ほぼホストクラブで使い果たし、逮捕時の所持金は1万円だった。かといってホストに対して恋愛感情も執着心もなく、彼らの「仲間になりたかった」だけだという。
母親も含め、「りりちゃん」を知る人に話を聞いて回るが、何が彼女のほんとうなのか、わからない。おそらく彼女自身にもわからないその輪郭を、宇都宮さんは誠実に描く。
ノンフィクション大賞応募時には「極彩色の牢獄」だったタイトルを、単行本化にあたり、『渇愛』と改めた。
「彼女は『何かが欲しい』『こうしてほしい』と自分から言ったことがない、と繰り返していました。その彼女が、面会をかなり重ねた後に『何か欲しいものありますか?』と聞いたとき、1回黙ってから、『会いに来てほしい』と言ったんです。人を騙して得た金をホストに使い果たした一連の行動の根底にあるのが、この『自分を見てほしい』気持ちだったんじゃないかとそのとき思いました」
帯文を作家の町田そのこさんが寄せている。町田さんが女性事件記者を主人公にした『月とアマリリス』(小学館)を書くとき、宇都宮さんに話を聞いたそうだ。
「私はただ、聞かれたことに答えただけなんですけど、『こんな風に小説になるのか!』と驚嘆しました。仕事の仕方のディテールもそうですけど、私が感じた苦悩だけじゃなく、仲間の女性たち、辞めていった人たちの顔がぜんぶ思い浮かんで、彼女たちの過去も報われたんじゃないかと勝手に思いました。本は、家の一番いい場所に飾ってます」
小説のネタバレになるので詳しくは書けないが、女性記者が自分の今後を考える展開が、宇都宮さんが実際にやろうとしたことだったらしい。
「心を読まれた!と思いました。『私、この話してないですよね?』と町田さんに確認したら、『こういうことを考えながら記者を続けてきた人は、こんな風に行動するんじゃないかと思って書いた』って。小説家すごい、と思いました。というか町田さんがすごいんですね」
【プロフィール】
宇都宮直子(うつのみや・なおこ)/1977年千葉県生まれ。多摩美術大学美術学部を卒業後、出版社勤務などを経て、フリーランス記者に。現在も「女性セブン」「週刊ポスト」などで事件や芸能スクープを中心に取材を行う。著書に『ホス狂い 歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る』がある。2025年、本作で第31回小学館ノンフィクション大賞を受賞した。
取材・構成/佐久間文子 撮影/篠田英美
※女性セブン2025年9月4日号