史上初の女性総理大臣に就任する高市早苗氏(撮影/JMPA)
自民党総裁選で、高市早苗氏が新しい総裁に選ばれた。高市氏は史上初の女性総理大臣に就任する見込みだ。「高市総理」に異を唱えるのが作家の甘糟りり子氏だ。甘糟氏が緊急寄稿した。
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弱者への視線をいかに持つかが必要な資質のはず
全員に馬車馬のように働いてもらう。
高市早苗氏が自民党の総裁に選ばれ、所属議員に挨拶した際の言葉です。私は戦時中の「欲しがりません。勝つまでは」を思い出してしまいました。コツコツと足音を立てて、新しい戦前が近寄ってきた気がいたします。いろいろな面で時代が逆行したような総裁選の結果だったと思います。女性初という事実だけをのぞいては。
馬車馬発言の後、自分も「ワークライフバランスという言葉を捨てる」ともおっしゃっていました。そりゃあ自民党総裁(ひいては総理大臣)ともなれば、がむしゃらにやらなければならない場面が次々と出てくるでしょう。そこでワークライフバランスを捨てるのは彼女の自由だとしても、SNSではこの発言を褒め称える発信が多々あって、「24時間戦えますか」がよみがえった気がします。 SNSでこの発言に対して「よくいった!我々もワークライフバランスなんて捨ててがむしゃらに働こう」というような書き込みをたくさん見ました。ああ、いわんこっちゃない。決して、美徳にするものではないはず。父親が過労死をした友人はやりきれない気持ちだといっておりました。今は昭和じゃない、令和ですよ、令和。
生活保護の受給者について「さもしい顔をして、もらえるものはもらおうとか、少しでもトクをしようと、そんな国民ばかりいたら日本が滅びる」という彼女の発言が忘れられません。困っていたら、もらえるものはもらいたいと思うのは当然です。不正受給者についての発言でしょうけれど、そのために生活保護受給者の人たちを傷つけていいわけがないです。きっと彼女にとって国民は「疑って、取り締まるもの」なんでしょうね。自分たちは支配する側で。
政治家にとって一番大切なのは人権への意識だと思います。見栄えや押し出しや語学力、スーツの着こなしや家柄、ましてやルックスなんかより、弱者への視線をいかに持つかが必要な資質のはずです。弱者を「さもしい顔して〜」といい切ってしまう高市さんが日本のリーダーとは、暗い気持ちにならざるをえません。
決戦投票では麻生派の票が決め手となったそうです。そもそもその前の段階から、彼女を総裁にすべく麻生さんが策士となって立ち回ったのだとか。派閥がまだ幅を利かせていることに驚きです。そういうのやめたんじゃなかったのか、自民党は。どうしていつまでも85歳の長老の思うように物事が進むのか、本当に不思議です。そこにうまく取り入らないと、女性初の自民党総裁にはなれないのでしょうけれど。
なんとも皮肉。待望の日本初の女性総理大臣が、女性の人権や社会進出にほとんど関心がなさそうなあの人なんて。
SNSでは、普段女性の社会進出を望んでいる層がどうして高市早苗を推さない、喜ばないといった意見もいくつか目にしました。自分たちと意見が合わない女性を排除して、だから女はダメなんだ、的な。言葉は悪いですが、ばっかじゃないのか。こんな幼稚な意見に反論するのもめんどうくさいですが、別に「女性」というシールの貼られた人を望んでいるわけじゃない。女性の人権が向上されるように願っていて、そうなるように動いてくれる人を推したいのです。女性の人権っていうと大げさに聞こえるかもしれないけれど、普通に一人前の人として扱って欲しいという、それだけなんですけれども。女性かどうか以前に、国民の弱者を「さもしい顔して」と切り捨てる人は望みません。