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《専業主婦から47歳で再就職し社長も経験》薄井シンシアさんの仕事術「一つのことを基礎から徹底的に学んでプロフェッショナルになる」「“新しいことを習得するスキル”を習得する」 

NPO法人のアドバイザーとしても活動する薄井シンシアさん(撮影/黒石あみ)

 出産を機に専業主婦となり、子育て後の47歳に再就職し、時給1300円のパートから年収1300万円の管理職に就き、現在は ICCコンサルタンツの Chief Empowerment Officer(最⾼エンパワーメント責任者)としても活躍する薄井シンシアさん(66歳)。シンシアさんはどのようにして、キャリアアップをしていったのだろうか。シンシアさんの仕事に対する理念が詰まった著書『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』(KADOKAWA)では、「一つのことを基礎から徹底的に学んでプロフェッショナルになる」ことや「新しいことを習得するスキル」について解説している。同書から一部抜粋・再編集し、シンシアさんの仕事術を紹介する。 

* * * 

求められているのは、「新しいことを習得するスキル」 

 子どもの教育が投資であるように、自分自身が学ぶこともすべては未来への投資になっている。だが、そのことをどこまで意識できるだろうか? いまでこそ、過去に学んだことの多くが投資であったとはっきりと自覚できるが、それが本当に五十代からの仕事復帰にここまで生かせるとは、私も予想しなかったことである。 

 このように言うと、では具体的に仕事ではなんの勉強が役立っているのですか?と聞かれそうだが、答えは素っ気ないが「何も」である。もちろん、学んだことは数々ある。料理、テーブルフラワー、刺繍、インテリア……。しかし、私が習得して役立っていると思うのは、「何を」以上に「どうやって」というプロセスだ。言い換えると「新しいことを学ぶスキル(技術)」である。そして、仕事においては、このスキルがすべてといっても過言ではない。 

 私はどんなことも土台作りから入る。学ぶことも同じだ。どんな勉強もまず、初心者向けの基礎本から入る。 

 料理がそのよい例だ。結婚前、包丁を握ったことすらなかった私は、さてどうしようかと考えて、最初に頼ったのが料理本だった。当時、初心者のバイブルともいわれた分厚い料理のムック本で、ありがたいことに、野菜の切り方から調味料の量り方まで、写真入りで丁寧に説明されていた。大根の面取りはこうやるのか。調味料はすりきりで量るのか。そのとき徹底して覚えたやり方はいまも身体に染み込んでいて、三十年も経とうというのに、いまだ私はすりきりで計量している。 

 レシピは片端からやり尽くし、その次は少し難しいクッキングスクールの和食と中華の料理本、さらに専門的な料理本でレパートリーを増やし、そこまで行って、ようやく私は本を手放した。というのは、その頃には雑誌やネットをちらちらっと見れば、どんなレシピでもすぐに再現できるようになっていたからだ。 

 この経験があったので、私は娘にも料理を教えたことは一度もない。基本的な料理本を一冊渡せば問題なく、少なくとも毎日の食事を作れる程度にはマスターできると、私自身が実証したからだ。 

「新しいことを習得するスキル」のポイント 

 学んだ料理の知識や技術はもちろんとてもためになったが、それ以上に私が得たことは、「新しいことを習得するスキル」を習得できたという自信だ。これは、仕事に復帰したときに間違いなく役に立つ。どんな仕事も、まずはそのやり方を覚えなければならないからだ。ポイントは三つある。 

新しいことを習得する三つのポイントとは(撮影/黒石あみ)

 一つ目は、基礎を徹底的にマスターすることだ。やったことのない新しいことは、マニュアル(本)どおりに、一つのプロセスも飛ばすことなく順に学んで基礎を繰り返したたき込む。料理本一冊分のレシピも、最初に学んだやり方にしたがって忠実に作ることを繰り返すうち、基本がたたき込まれた。 

 見よう見まねで学んだことも、もしそのスキルを確実なものにしたいなら、基本からやり直してみることをおすすめしたい。自分のやり方の問題点を発見し改善するよいきっかけになる。 

 そして、どうせ学ぶなら、プロフェッショナルを目指す。この意識を持つだけで、成果のほどが違ってくる。 

 二つ目は、テキストを決めることだ。基礎の段階で、あれこれいろいろな本に手を出すと、内容や表現もいろいろあるので混乱する。これと思った一冊に絞り込み、一ページ目からひと通りやってみることだ。学校や教室もいいと思う。ただし、学校の場合は次に述べる三つ目の「目的」をよく考えなければいけない。私もテーブルフラワーの教室へ数カ月通ったことがあるが、教えてもらったのは趣味としてテーブルフラワーを楽しむセンスのようなもので、私が求めていたパーティーなどで実践的に使える基本ではなかった。私の目的とは合わなかったのだ。 

 三つ目は、目的と期間を決めることだ。運転免許など免許や資格の必要なものを考えるとわかりやすいが、目的と期限を設定して集中的にやらないかぎり、スキルとして身につかない。その点、学校やカルチャーセンターは目的や目標、期間を設定しているので、使いやすいかもしれない。 

 こうして、いったん揺るぎない土台を作ったあとは、たとえば料理を例にとれば、味つけや手順を多少変えることも、アレンジすることも、ほかの素材と組み合わせて創作することも、自由自在だ。基礎を中途半端にしてしまうと、これほどの自由さは手に入らないどころか、妙なクセがついてしまい、アレンジしようとして失敗する。 

スキルをバージョンアップし続ける 

 ケーキ作りも本で基礎から学び、チーズケーキとチョコレートケーキが私の十八番になった。子どもたちのバース デーパーティーなどで喜ばれたが、十年以上経って、味も形も随分変わった。というのは、基本の作り方をマスターしたあと、いろいろなレシピにトライして、さらにおいしいと思ったものに変えていったからだ。 

バージョンアップしていくことを常に意識していた(撮影/黒石あみ)

 たとえば、雑誌などでチーズケーキのレシピを読んで、自分の作り方と違えば試してみる。それでスポンジの膨らみ方がアップしたら、その日から新レシピに更新する。 

 このバージョンアップを、私はほかのことでも常に意識してやっていた。掃除のやり方も基本は本で学んだが、効率が上がる方法や掃除グッズを見つけると、試してよければすぐ変える。仕事でも、どうすればパソコン業務の効率が上がるだろうかとか、どうすればこの煩雑な手続きをひと手間省けるだろうかと、改善点を常に探してしまうのだ。 

 しかし、バージョンアップをしないまま最初のやり方を続けている人も少なくないようで、料理ならそれを家庭の味と重宝されもするけれど、仕事では通用しない。仕事は問題を発見し、それを改善するという繰り返しだ。 

 また、パソコンが進化し続け、それについていかなければ仕事にならないように、スキルは古くなっていく。どんなスキルでも一度身につけたものに満足せず、バージョンアップしていく。いつも作っているその料理を、たまにはネットでも検索して、新しい作り方にトライしてみてはどうだろう? 私もこの間、長年作り続けてきた我が家のひじき煮を変えてみた。スーパーで売られているのを見て思いつきでやってみたのだ。油揚げをさつま揚げに変えただけだが、うまくいった。これからしばらくは、さつま揚げのひじき煮が我が家の定番になる。 

どんな仕事も、すべてはゼロから始まる 

 仕事を探しているのに、やったことがないからと、目の前にある仕事のチャンスをみすみす捨ててしまう人がいる。専業主婦にはありがちだ。やったことがないから、怖いのか? もしそうであるならば、いつまで経っても仕事には戻れない。 

 たとえ覚えのある事務仕事だろうと、“いまは昔”で十年前のスキルなど間違いなくガラパゴスだ。どんな仕事もすべてはゼロから始まる。新しいことが始まると覚悟して、やったことがないからやってみるという意識へ転換すべきだと思う。 

 仕事とは、就職して働き始めるときだけでなく、学ぶことの連続である。だからこそ、「新しいことを習得するスキル」を持っていると強い。転職すればなおさらで、同じ業種で同じような仕事をする場合でも、新しい職場のやり方を新たに習得する必要がある。どんな場合にも対応できる適応力が、「新しいことを習得するスキル」なのである。 

 私自身、会員制クラブの電話受付もイベント企画も、どちらも初めての仕事だったし、バンコクのカフェテリアのマネージャーはまったく未知数の世界だったけれど、それほど不安に思わなかったのは、それまでに何度も新しいスキルをゲットする経験を重ね、新しいことを始めるトレーニングを積んでいたからだ。知らなくても、勉強すれば必ずできるという自信は、就活するあなたを強くする。 

目標達成するまでのプロセスが重要になる(撮影/黒石あみ)

 ところで、それを具体的な仕事に結びつけようと思うならば、一から始めて目標達成するまでのプロセスに注目してみるといいかもしれない。というのは、プロセスのなかに仕事があるからだ。 

 たとえば、専業主婦の人からよく聞くのは、「好きな料理で仕事をしたい」というような希望なのだが、シェフや料理研究家を思い浮かべてのことだろうか? 料理好きといっても、いろいろある。調理そのものが好きなのか、テーブルセッティングをするのが好きな のか? 実際、料理は、レシピを考える、材料を揃える、調理する、盛りつける、テーブルセッティングをするといったいくつかのプロセスでできていて、極めていけば、この一つ一つに異なる職種のスキルがあり仕事がある。 

 調理が好きなら学校や病院の給食調理の仕事があるだろうし、盛りつけが好きならテーブルコーディネートの資格を取る道もある。あるいは、食べ歩きが好きなら料理について書く仕事もある。レストランの仕事も選択肢の一つになるだろう。料理だけでなく、これが好きというものがあるのなら、そのプロセスを意識して、関心のあることからどういう仕事の可能性が広がるのか、道が開けるのかを調べてみるとよいのではと思う。

◆薄井シンシアさん
1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、セールスフォース・ジャパンに入社し、その後、退社。現在ICCコンサルタンツの Chief Empowerment Officer(最⾼エンパワーメント責任者)として活躍。著書に『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』(KADOKAWA)『ハーバード、イェール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたか ママ・シンシアの自力のつく子育て術33』(KADOKAWA)『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)がある。@UsuiCynthia

→シンシアさんのサイト「CAREER BREAKS by 薄井シンシア」はコチラ 

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