緊張感漂う現場付近の様子
判決言い渡しの後、まばたきを繰り返していた
また、事件を起こしたのちに自宅に立てこもるなかで、母親から自首を勧められた際に「絞首刑になるのは長く辛く苦しいので、そういう死に方は嫌だ」と答えたことも裁判所は注目したようだ。「自身の行為の重大さや見込まれる刑罰の重さを正しく認識していたからこその言動にほかならない」と判決で分析している。
裁判所が信頼性を評価した検察側鑑定によれば、青木被告は、散歩中の女性二人に対する殺人に関しては「ぼっち」「キモい」と言われている……という“妄想”がその動機形成の要因となったが「被告人が実際に怒るかどうか、怒って攻撃するかどうか、どう攻撃するかについては、その妄想が決定しているわけではなく、その影響は及んでいない」とされている。悪口を言われているという妄想があるからといって、相手をいきなり殺害するという選択に妄想は影響していないという意味合いだ。
妄想を持ちながらも、父親から任された農園やジェラート店を切り盛りし、猟銃やバイクなどの趣味に勤しんでいたことも「それ以外の日々の生活や行動は十分まとまりを維持していた」と言及されていた。その上で、判決は青木被告が起こした事件についてこう断じている。
「短時間のうちに4名もの人々の尊い命を奪ったのであり、強固な殺意に基づく残虐極まりない犯行である。殺人行為を重ねてもなお淡々とし、人の生命を軽視してはばからない様子には、戦慄を覚えずにはいられない」
散歩中の二人の女性に対する殺害行為の背景には「ぼっち」「キモい」と言われている……という妄想があった。判決では「被告人が妄想症に罹患したことはその責めに帰すべき問題ではなく、また被告人にとって悪口を言われているという体験は現実そのもの」であると、被告自身の内面にも目を向け、そのうえで「妄想は、日頃から悪口を言われているといったものにとどまり、少なくとも、他者を殺害することを思い立たせるような内容では決してなかったのであるから、かくも残虐な凶行に及んだのは、基本的に被告人自身の意思、判断によるものとして厳しい非難を向ける必要がある」と続いていた。
約40分の判決言い渡しが終わり、弁護人の横の席に戻った青木被告は目を開け、まばたきを繰り返していた。閉廷後に弁護人と短い会話を交わしている様子もあった。弁護人は控訴の意志を示しているが、被告は弁護人に対し「控訴したくない」と語っているようだ。
青木被告の父親は「供養のため」として、自宅の敷地内に観音像を建てたという。被告や家族から遺族への被害弁償は現段階で行われていない。
(了。前編から読む)
◆取材・文/高橋ユキ(ノンフィクションライター)
青木被告が卒業文集につづった文章
騎馬戦では騎馬役を担当(中学の卒業アルバムより)
議長だった青木被告の父は事件を受けて辞任した
高校時代の青木被告(集合写真)
自宅前には規制線が
被告が立てこもった、青木家の邸宅
事件現場の近くは騒然となった
事件現場近くでは規制線がはられていた
被告はここで立てこもっていた
立てこもりの警備にあたる警官(時事通信フォト)
事件現場付近の様子
事件現場付近には、警察とメディア関係者の姿が
地元では名士として知られていた