伊集院氏は「週刊ポスト」で1998年から美術紀行を連載し、『美の旅人』スペイン編・フランス編として刊行。未完の遺稿も収録された今回のイタリア編をもってシリーズ三部作が遂に完結
未完の遺稿となった物語が示唆するもの
伊集院氏はダ・ヴィンチ以外にも、ボッティチェリ、ラファエッロ、カラヴァッジョ、ミケランジェロらの作品と生涯を通じて、ルネサンスの本質に近づこうとする。
新著の冒頭には、伊集院氏が「物語」という形式にこだわって書き下ろした未完の遺稿が掲載されている。貴婦人とその甥がダ・ヴィンチのパトロンになるストーリーでは〈芸術はそれらを支える富、力、運命がなければ何の存在でもない〉と綴られている。
この「ルネサンスとは何か」の答えに迫るために書かれた物語は、作品を支える・鑑賞する側の覚悟や心構えも示唆しているのではないか。名画は作品だけでは成立し得ない。伊集院氏の残した言葉は、現代を生きる私たち“美の旅人”一人ひとりの羅針盤でもある。
【プロフィール】
伊集院静(いじゅういん・しずか)/1950年生まれ、山口県防府市出身。1981年に作家デビュー。『受け月』で直木三十五賞、『機関車先生』で柴田錬三郎賞、『ごろごろ』で吉川英治文学賞、『ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石』で司馬遼太郎賞受賞。2016年に紫綬褒章受章。2023年11月24日逝去。2005年にスペイン絵画読本『美の旅人』、2007年に『美の旅人 フランスへ』を上梓。11月19日発売の『美の旅人 イタリアへ』はシリーズ三部作の完結編となる。
写真/太田真三
※週刊ポスト2025年11月28日・12月5日号
新著『美の旅人 イタリアへ』(2025年11月19日発売)

