動物言語学者の鈴木俊貴さん
AIに書かせるなんて、もったいない!
鈴木さんの最新の研究の紹介を経て、話題は言葉をつむぐことに移っていく。
鈴木:俵さんのご著書(『生きる言葉』)にも書かれていましたが、息子さんを石垣島に連れて行くと、自然の中でいきいきしていく、という話がありましたよね。ゲームとは違い、自分自身が主人公であることに気づいて。でも、今は、そういう体験が軽んじられている気がするんです。僕もたまに中学校や高校で講演をするんですが、虫取りをしたことがある生徒が15%くらいしかいないんです。僕なんて、一歳のときのベビーカーに虫取り網が挿さっている写真があるくらいなのに……。
俵:(笑)。子どものころの愛読書が『月刊むし』(むし社)だったと書かれていますね。
鈴木:僕は中・高と男子校だったんですが、周りが青年漫画を読んでいるのに、僕は『月刊むし』を読みながら登校(笑)。放課後はすぐに林に行って、旬の虫探しです。そういう体験が、今につながっている感じはすごくしますね。
俵:今は体験なしで、スマホやAIで情報を手軽に手に入れられますからね。
鈴木:自然と関わった体験から得られるものが、今の子どもたちには欠けているような気がして。僕の本は子どもたちにも読んでほしいんです。
俵:小学館がやっていた『僕には鳥の言葉がわかる』感想文コンクールは素晴らしかったですね。最近、学校の先生と話す機会があったのですが、今は感想文をAIに書かせる子がいるらしいんです。すると、とても子どもが書いたと思えないような立派な感想文が提出されるというんですね。
鈴木:なんと……。
俵:でも、私も教員をしていたことがあるのですが、教師は立派な感想文が欲しいわけではないんです。そうではなく、自身の体験を自分で振り返って、拙くてもよいから、それを言葉にする経験をしてほしいんです。だから、そこをAIに任せてしまうのはもったいないですね。
鈴木:わかります。感想文コンクールの最優秀賞は小学3年生の子が受賞したのですが、それが素晴らしいんですよ。言葉巧みというのではなくても、小学3年生なりの語彙で、僕の本を読んだ体験をつづってくれている。その子はフクロウが好きらしいのですが、「すず木さんは、失敗してもめげない人だと思った」「すず木さんのようにあきらめず、楽しく研究をしているやさしい研究者になりたいな、と思った」と書いてくれて、涙が出そうになりました。応募してくれた子、みんなありがたいですね。
