実家の最寄り駅には寂れた看板があった
父親がみせた“謝意”
取材班が男の実家を訪れると、手入れが行き届いた広大な敷地に、古風な邸宅が立っていた。敷地内には、確認できるだけでも車が5台停められている。
両開きになっている玄関のガラス戸を叩くと、扉越しに大津容疑者の父親が現れた。はじめは取材を拒否するようなそぶりを見せたが、次第にか細い声でこう漏らしたのだった。
──いまのお気持ちだけでも。
「何回も警視庁の捜査員の方から、調べを受けています。おたくに話したことと、捜査員に話したことが違っては大ごとですので、うかつに話すことができません」
──陽一郎さんはどういうお子さんでしたか。
「わかりません。普通……普通の子でした」
──逮捕はショックでしたか。
「そうですね……(数秒沈黙)、ごめんなさい」
──被害者の方には。
「本当にお気の毒に、申し訳ないと思っております」
取材を終えて実家の最寄り駅付近を歩いていると、そこには経年劣化で色落ちした〈自衛官募集〉と書かれた古い看板があった。まだ青年だった大津容疑者は当時、この看板を見て国を守る自衛隊に思いを馳せたこともあったのだろうか──。
(了)
