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【鉄道写真の神様】広田尚敬氏(90)が語る「鉄道写真は絶対に現場が大事」の極意 「写真は無理して作るものではない」と“撮り鉄”への思いも明かす

山陰本線の米子近く、日野川の橋梁を渡る列車。地方の高校生の、微笑ましい朝の通学風景。1978年(C)広田尚敬

山陰本線の米子近く、日野川の橋梁を渡る列車。地方の高校生の、微笑ましい朝の通学風景。1978年(C)広田尚敬

「鉄道写真の神様」と呼ばれる広田尚敬氏(90)。1960年(昭和35年)にプロの写真家としてデビューすると従来の鉄道写真の常識を打ち破る斬新な写真を次々と発表し、「広田調」と呼ばれる独自の表現を確立した。1960年代、1970年代のSL(蒸気機関車)ブームの牽引者の一人であり、今第一線で活躍する鉄道写真家に多大な影響を与えている。ジャンルを切り拓いた「神様」が自身の手法を振り返り、“鉄オタ”が増えてきた現在の状況への思いを語った。

 * * *
「僕が写真家としてデビューした頃の鉄道写真といえば、何よりも記録性や資料性が重視され、フレームの中に型通りに車両の姿が写っていることが求められました。その典型が、走っている列車を横から撮ったような写真です。でも、僕の写真は自然の風景の中に鉄道が写っていたり、SLの動輪や吹き上がる煙をクローズアップで捉えたり、鉄道を従事する人々や鉄道に乗る人々の日常風景を撮ったりしたものが多いんです」(広田氏、以下同)

 そうした独自の「広田調」に至った理由を、氏はこう語る。

「風景を写すのは、自然の中を走る鉄道の姿が美しいから。クローズアップが多いのは、被写体である鉄道の力強さにしびれたから。そして人物が写った写真が多いのは、鉄道は人のためにあり、人こそが鉄道の主役だからです」

 例えば、長崎本線の写真は、木の枝越しに見える、さざ波が立つ美しい海が画面の大半を占めている。画面の隅に、海沿いの築堤に白い煙を吐く蒸気機関車が現れた瞬間を捉えた詩情豊かな一枚だ。

スイスで撮影された、岩肌露わなアルプスの雄大な山を背景に小さな列車が走る写真は、自然の大きさと人間の小ささ、そしてそれでも自然に立ち向かう人間の勇気を感じさせる。

自身が生み出した写真の構成について、「事前に綿密なロケハンをしているのですか」と聞かれることが多いというが、広田氏は「実はロケハンはあまり行ないません」と明かす。

「日本地図を見ながら“次はどの路線を撮ろうかな”と思いを巡らせ、路線を決めたら時刻表に載っている駅名を見ながら“これはいい名前だな”“この駅名からすると山の近くだな。谷もあるな”などとその場所についてあれこれ想像するんです。

 実際に列車に乗ると、窓から風景を眺めながら、逆にその風景の中から列車を見たときの絵を想像します。そして、ここはいいなと思ったら列車を降り、周囲を無心に歩き回ります。そうしているうちに、いい写真が撮れそうな場所が見つかります。じゃあ、ここで撮ろう。立って撮るのがいいか、しゃがんで撮るのがいいか、少し後ろに下がったほうがいいか……などと考え、この風景の中を列車が通過するときのことを想像し、レンズの種類や露出やシャッターを押すタイミングなどを決めます」

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