いろんな感想が他の人に見えないかたちで届く理由
『映画を早送りで観る人たち』がベストセラーになった稲田さんだが、1作ごとに作品のテーマを変え、似たようなジャンルで続けて執筆することはほぼない。
「この本の場合は高橋源一郎さんのラジオに出たことがきっかけです。ぼくのこれまでの本まで読んでくださって『考現学ですよね』って言われました。『映画を早送りで〜』のあとがきに子どもが生まれたとぼくが書いていたので、『男の子育ては考現学としていけるよ』と言われ、そこからスタートしています。
それまでも『イクメンパパ的な連載やればいいじゃん』みたいなことを軽い感じで周りから言われてて、ぜんぜんピンときてなかったんですけど、子育ての葛藤を普通の人に聞いてみればいいんだ、と」
本を読んだ人からさまざまな感想が届くが、SNSで公開されるかたちではなくメールやメッセージで個別に送られてくるそう。
「いろいろな感想をいただくんですけど、他の人に見えないかたちで届くんです。公に感想を書いた瞬間に、『お前はこういうやつに共感するんだ』っていうのがバレるじゃないですか。言ったらどういう反発が来るかもわかっているからこそ、個別の感想になるんでしょうね」
夫婦の間でもなかなか本音をさらけ出すのが難しいテーマではあるが、子どもを持つか持たないか考えているという編集者が、「2人で読み合っている」と丁寧な感想をWordの添付ファイルで送ってくれた。
「自分の本をどういうふうに読んでもらいたいかというと、まさにそんなふうに、酒の肴として語り合ってほしいですね。『あの人のここはすごくよくわかった』『この人のこの発言は自分には絶対無理』といった感じで、読んで話してもらえたらうれしいです」
【プロフィール】
稲田豊史(いなだ・とよし)/1974年愛知県生まれ。ライター、コラムニスト、編集者。横浜国立大学経済学部卒業後、映画配給会社ギャガ・コミュニケーションズ(現・ギャガ)に入社。その後、キネマ旬報社を経て2013年に独立。2022年に刊行した『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ ─コンテンツ消費の現在形』が新書大賞2023で第2位に。ほかの著書に『ぼくたちの離婚』『こわされた夫婦 ルポ ぼくたちの離婚』『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』『このドキュメンタリーはフィクションです』など多数。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2025年12月18日号