土の香り、風の匂い、かけがえのない命。女性達で営む動物病院からの誠実な贈り物
年の瀬で忙しい時期だからこそ、頭のリフレッシュが必要。そんなときには、読書でもしてみてはいかがでしょうか。おすすめの新刊4冊を紹介します。
『しっぽのカルテ』村山由佳/集英社/1980円
信州の森の一画にあるエルザ動物クリニック。不思議な喋り方をする北川梓院長の下、動物看護師の雅美や絵里香、受付の深雪と、20~40代の女性4人で切り回すここには、瀕死の子猫、死期が近い愛犬などが運び込まれてくる。人と動物との間に通い合う愛情を描く筆は、驚くほどきめ細やか。梓の謎めいた来歴が明かされ、深雪が恋の予感に頰を染める最終話は特にハートフル。
将棋の最善手を知るAIも、小説の勝利 条件は知らない。面白さの秘密はそこに
『言語化するための小説思考』小川哲/講談社/1210円
就職が嫌で小説家になった著者が創作における思考の道筋を公開する。小説は作家と読者のコミュニケーションの場。エンタメの読者はご都合主義罪に寛容で、純文学の読者は起承転結逃亡罪に寛容という見立てに笑う。文体とは? 伏線回収とは? 情報を出す順番の重要性に触れる箇所では大いに頷く。美文や名文を説く文章読本とは一線を画す稀な書。何度も読み返したくなる。
リタイア生活など夢のまた夢。時給に見合わぬ労働で疲弊するシニア達
『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』若月澪子/朝日新書/957円
ここでいうシニアとは60歳以上のこと。日本は今60代前半で8割、後半で6割、70歳以上では半数が働く時代になった。背景には様々な理由がある。自立しない子供がいる8050問題、教育ローンの残債、低年金や貯蓄ゼロ。しかし高齢者が就ける職は限られている。著者は病院清掃をしてみたが、過酷な肉体労働に見合う時給ではなかったと言う。彼らの姿は明日のワタシと肝に銘じる。
別の登山口から事件解決という山頂を目指す4兄弟と3姉妹
『ぎんなみ商店街の事件簿 Sister編』井上真偽/小学館文庫/803円
本書には、Brother編とSister編がある。焼き鳥店の娘達にまた会いたいとSister編のつもりでピンクの表紙を手に取ると逆。女子はピンク、男子はブルーという思い込みにまんまとやられた。事件解決に至るルートもまた一つではない。交通事故、楽器破壊事件、誘拐事件など、同一事件で4兄弟と3姉妹が別視点で行動。Brother編とSister編、各編の交互読みが刺激的。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年12月25日・2026年1月1日号



