入場無料のチャリティーイベントに出場し、ザ・グレート・サスケ(左)を攻めるプロレスラーの長州力(時事通信)
なぜ、藤原は「関節技」をひたすら研究したのか
道場での練習を大学の授業でたとえるならば、寝技のスパーリングは、新入生にとっての数ある必修科目の一つ。大半のレスラーは、必修の単位を取得したあとは、よりビジネスに直結する勉強をしていく。そのなかで藤原は、関節技というマイナーで、お金にならない(と思われていた)、それでいて新日本という団体にとって大事な研究をひたすら続けていた研究者だった。
「一つのプロレス団体には、それぞれに役割があるんだよ。お客を会場に呼ぶ役割の人間がいれば、道場で腕を磨いて何かあった時に出ていく役割の人間もいる。そのなかで俺は、猪木さんの言う『プロレスは闘いである』という基本的な部分を担当していたわけでね。どの部署が偉いとか、そういう問題じゃないんだ。
また、『闘い』一つとっても人によって考え方が違う。長州力なんかはオリンピックに出ているくらいだから、レスリングに自信とこだわりがある。関節技に関しても『自分はテイクダウンされないんだから必要ない』っていう考えだろ。それはそれで長州の正義だから、いいんだよ。
逆に俺はアマレスの実績なんか何もないけど、長州の知らない人の殺し方を知っている。俺に言わせればテイクダウンする方法はタックルだけじゃない。パンチもあれば蹴りもあるし、いろいろあるからね。それぞれが自分なりの考えや技術、そして自分なりの正義を持っているからプロレスは面白いんだ。
だから長州は、オリンピック選手として鳴り物入りで新日本に入ってきて、俺はべつにテレビや雑誌に出る人間じゃなかったけど、あいつがうらやましいとも思わなかったし、仲は良かったよ。よく野外の興行の時なんかは、『おい、余ってるか?』って言って二人で客から見えない場所に行ってタバコを吸ったりな(笑)。
長州といえば、こんなこともあった。昔の地方巡業での宿泊先は旅館が多くて、俺ら下っ端は大部屋で雑魚寝だったんだよ。そしたらある日、夜中の2時くらいに長州が寝ている俺の横にドカッと座って、『藤原さん、起きてください!』って言うから、『なんだよ?』って聞いたら、『ちょっと近所まで付き合ってください』って言うんだ。
『なんだよ、こんな夜中に……』と思いながらも着替えて、近くのスナックに行って酒を飲んだら、あいつが愚痴をこぼすんだ。それで俺も『うん、そうだな』って話を聞いてやってね。そういう間柄だったんだよ」
