PTSD(心的外傷後ストレス障害)であったことを公表した渡邊さん
「加害者を擁護するサイトばかりが出てくる」現実
痴漢の被害に遭うのは女性だけではない。大学時代に衝撃を受けたのは、同級生の男子学生が痴漢にあったことだ。満員電車の中で、中年男性から下半身を触られ、ズボンのチャックを下された。
身体の大きい彼が、「何が何だかわからなくて、頭が真っ白になって何もできなかった。早く目的地に着いてと願うしかなくて、抵抗すらできず、女の子って毎日こんな目に遭ってるの? 本当に大変だ」と話してくれた。
一見屈強そうに見える男性でも、被害に遭うと何もできないことを知って驚いたし、ホッとした自分もいた。ホッとしたというのは、高校時代、痴漢されても何もできなかった自分を情けなく思っていたからだ。
自分が被害に遭うなんて思ってもいない状況では、頭が真っ白になって、どうしていいかわからなくなるものなのだ。それは女性でも男性でも、年齢が上でも若くても、関係ない。
2023年に不同意わいせつ罪が施行されたものの、痴漢や盗撮、卑猥な言動の多くは、迷惑防止条例違反にしかならない。
ネットで“不同意わいせつ”と調べると、加害者を弁護するサイトばかりが上位に出てくるし、“盗撮罪”と調べたら「バレたらどうなるか徹底解説」だとか「盗撮の刑事事件化や前科を回避するには」なんてまとめ記事が大量に出てくる。
本来、被害者のケアや保護が最も優先されるべきだが、そういった情報にアクセスすることさえ容易くない。実際にこれも、“不同意わいせつ 被害にあったら”と検索しても、支援センターの連絡先よりもまず、「逮捕もされず起訴もされず誰にもバレずに解決します」という弁護士事務所のスポンサー広告が出てくる。
そんな世の中、おかしいに決まってる。うっかり痴漢をしたり、仕方なく性犯罪をする人はいないのに、加害者に手を差し伸べて守る社会に幻滅する。
私がこういう内容の記事を書くたびに、「そんなわけない」「自意識過剰」「お前が言うな」なんて暴言を吐かれるのだが、そういう言葉が投げかけられる時点で、現状がわかるだろう。犯罪や不法行為におかしいと声をあげるのは、当たり前のことだ。
痴漢や盗撮の被害に遭うことを、仕方のないことだと受け入れる必要はない。痴漢も盗撮も性犯罪と認められ、断罪される社会になるまで、どんな批判の言葉が飛んでこようとも、私はこれからも間違っていることに間違っていると書き続ける。
【プロフィール】渡邊渚(わたなべ・なぎさ)/1997年生まれ、新潟県出身。2020年に慶大卒業後、フジテレビ入社。『めざましテレビ』『もしもツアーズ』など人気番組を担当するも、2023年に体調不良で休業。2024年8月末で同局を退社した。今後はフリーで活動していく。1月29日に初のフォトエッセイ『透明を満たす』を発売。6月には写真集『水平線』(集英社刊)も発売。渡邊渚アナの連載エッセイ「ひたむきに咲く」は「NEWSポストセブン」より好評配信中。
