“青春は恋愛”という型を突き抜け、多くの共感を得たシリーズ、堂々の完結編
忙しない年末を終えて、ゆったりと過ごしたいお正月。そんな時間を豊かに過ごすためには読書でもいかがでしょうか? おすすめの新刊を紹介します。
『成瀬は都を駆け抜ける』宮島未奈/新潮社/1870円
主人公・成瀬あかりは京都大学理学部に進学。入学式には祖母の着物(表紙)で臨む。大学や大学町の面白さは地方出身者たちのサラダボウルであること。片思いの君の東大進学で失恋した神奈川出身の坪井さくら、京大出身の作家・森見登美彦マニアが集う「達磨研究会」、成瀬が文通していた広島出身の西浦航一郎など要素も俄然カラフルに。完結で、しばし成瀬ロスに陥りそう。
「うけにいる数はなヽとせ何事もわらふてくらせ ふヽふふヽふヽ」(南畝の狂歌)
『雀ちょっちょ』村木嵐/文藝春秋/2200円
希代の狂歌師・大田南畝(1749~1823年)の生涯を描く。恥ずかしながら狂詩と狂歌の違いを知らなかった。狂詩の母体は漢詩、狂歌は和歌。後者は有名和歌を換骨奪胎し、風刺や滑稽で笑わせる。田沼意次の失脚で南畝は狂歌を遠ざけ有能な“公務員”として生きた。“魔”を持つ嫡男に愛を注ぎ続けた南畝の家族愛がたまらない。不寛容の現代だからこそ、寛容の人品が輝く。
時の為政者から民間のパトロン実業家までリスクとリターンで見直す有事の日本史
『危機管理の日本史』島崎晋/小学館新書/1100円
“その国家プロジェクトのリターンは?”という視点で日本史が蘇る。大和政権が鉄と人材を確保した朝鮮進出、江戸・大坂の米手形による先駆的先物取引。北海道はロシアの脅威から開拓が急がれ、移住者を税制面で優遇した。リターンが大きければ国家運営はまずまず成功。現政権下での台湾有事のリターンは、軍需産業のボロ儲け以外に何があるの? と考え込んでしまった。
一瞬もよどまない至高の読書体験。読売文学賞受賞にふさわしい
『黄色い家』上・下巻/川上未映子/中公文庫/各924円
語り手の花はネットで被告名を見て昔の知人黄美子だと確信。花は回想する。1990年代末、黄美子以下女4人で暮らした一軒家。花は疑似家族のために犯罪に手を染め共同幻想は瓦解する。20年前「一緒にくる?」と言った黄美子に「いく」と応えた高校生の花。20年後「一緒にいこう」と誘う花に「いかない」と応える老婆の黄美子。ブックエンド的問答がこの哀切な犯罪叙事詩を包む。
文/温水ゆかり
※女性セブン2026年1月8・15日号



