『カウンセリングとは何か 変化するということ』/東畑開人・著
【書評】『カウンセリングとは何か 変化するということ』/東畑開人・著/講談社現代新書/1540円
【評者】川添愛(言語学者・作家)
「他人は変わらないんだから、まずあなたが変わらなきゃ」「そんなに嫌なら、きっぱりやめてしまえば?」「普通に生きていられるだけでも幸せなことだよ」。世の中には、そんなアドバイスが溢れている。私も悩める他人にそんなことを言った経験があるし、辛いときに自分にそう言い聞かせることもある。
本書を読めば、そういったありふれた助言がいかに大ざっぱで、ときに暴力的になりうるかがよく分かる。私は本書で紹介されている「自己─心─世界モデル」を見て、心に対する解像度がグンと上がった。私たちの「心」は、自分の外にあって思いどおりにならない「世界」と、自分の内にありながらもままならない「自己」との間にあり、それらを調整している。
一口に「心の問題」と言っても千差万別で、自己、心、世界のどこにどのようにアプローチするかが変わり、やり方を間違えると毒になる。著者が、カウンセリングにおける問題の見極めと介入の判断を「ふぐ料理」にたとえているのは絶妙だ。
個人的に有り難かったのは、自分の中にあるわだかまりや執着に気づくきっかけをもらえたことだ。幼少期に固まってしまった家族との関わり方を他人との間でも反復してきた女性の事例を読んで、自分の中にも小さいながら「反復し続けている古い物語」があることを自覚した。こういった古い物語を終わらせることが、カウンセリングにおける心の変化の根源にあると著者は述べている。
さいわい、今の私の心は「非常時」ではない。しかしそれがやってきたときに、自分に対してどんな声をかければいいか、またどのタイミングでカウンセリングに頼ればいいのかが、前よりも明確になった。プロによるカウンセリングは、現代社会の貴重なリソースだ。必要な人に届くよう、本書が広く読まれることを切に願う。
※週刊ポスト2026年1月16・23日号
