第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞した河合桃子氏
「積水ハウス地面師詐欺事件」──長編ノンフィクションをはじめ、小説やドラマでも描かれてきたこの著名な事件には、いまだ知られざる舞台裏があった……。第32回を数える小学館ノンフィクション大賞に、事件関係者たちの“実像”を丹念に追いかけた労作が選ばれた。昨年末に催された最終選考会では、3人の選考委員が最終候補4作品について様々な角度から議論を重ね、圧倒的な取材力を評価された同作が大賞となった。受賞作は今春にも刊行予定。
【受賞作品のあらすじ】
『地面師は笑う積水ハウス55億円詐欺事件、ある実行犯の告白』 河合桃子(ライター/48歳)
2017年に不動産大手・積水ハウスが詐欺集団に55億円を騙し取られた「地面師事件」。小説化、ドラマ化もされ、大きな注目を集めた事件だが、週刊誌記者である著者は2024年、別件の取材中に偶然実行犯の1人・カトウと出会う。カトウは事件後に「連絡役」と報じられたものの、実際には「ただのパシリ」に過ぎない中年男性だった。
同い年の実行犯に興味を抱いた著者は、事件についての取材を始める。犯行に関わる人数が舞台の劇団員のように多く、役割が多種多様に分かれる地面師事件。巧妙な手口が駆使される印象があるが、実際は対面での交渉を通じて他人の土地を売りさばくアナログで古典的な詐欺だ。意外と愛嬌のある実行犯の男が当初協力的に取材に応じたこともあり、「パシリ」の視点から見たこの事件の新たな側面が描き出されていく。
事件の全貌を知るため、著者は少しずつ主犯格とされる地面師たちへと取材対象者を広げた。しかし、どの地面師も「主犯は別にいる」「自分は無罪だ」と主張し、全貌に近づくのは容易ではない。彼らは一様に、人を騙す前に自分を騙している様子だった。
著者は「パシリ」の男カトウが事件に関わった経緯を探るため、彼の過去を追う。田舎の野球少年として育った彼は、生まれついての愛嬌を武器に、人を頼りながら無責任に生きていた。罪を犯したことを反省するような言葉を語り、事件のことを正直に話しているように思えた彼だが、著者はあるきっかけから、男が人生の要所で偽りを重ね、責任を逃れる人生を送っていたことに気づく──。
世を騒がせた積水事件を新たな視点で再構成しつつ、それに参加した中年男の生き様が描かれる。
