選考委員。左から河合香織氏、森健氏、酒井順子氏

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【受賞者の言葉】河合桃子氏 「パシリ役」の人間らしさに惹かれた

 私は週刊誌記者を生業にしている。性風俗にまつわるトラブルから殺人事件まで多くの事件現場に足を運んできた私が、世を騒がせた「積水事件」の実行犯と出会ったのは、全く別の「ハプニングバー取材」の過程で生じた偶然だった。

 男は積水事件当時「連絡役」と報じられていたが、実際に話を聞くと、他の地面師から指示を受けそれを遂行するだけの「パシリ役」だった。55億円詐取という重大事件に関わった人間のはずなのに、その男は当初、どこか人懐っこい愛嬌と余裕を持って、私に事件の詳細を聞かせてくれた。

“手練れ”たちがチームを組み、華麗に人を騙すイメージがある地面師事件だが、実際には意外と行き当たりばったり。構成員の間に強い繋がりもなく、皆がカネへの空虚な欲望に突き動かされている──事件のそんな新たな側面も見た。

 かねて「いつか男の生き様を描きたい」という夢を持っていた私にとって、この取材はチャンスだった。事件の再検証はもちろん、パシリ男の「更生物語」を描けるかもしれないという手前勝手な期待もあった。

 だが話を聞き続けるうちに、その期待は裏切られることとなった。

 男は約4年の実刑判決を受け、刑事施設で更生と社会復帰を目指したが、事件前と現在で暮らしが変わったかといえば、側から見ている限りそうでないように映った。生まれ持った愛嬌を隠れ蓑にして責任から逃れているように見え、落胆することもあった。しかしその「人間らしさ」に、私が取材者として惹かれたことも事実であり、読者に感じ取ってほしい部分でもある。

「主犯格」とされる他の地面師にも取材した。彼らもまた一様に「俺は悪くない」と声を上げるばかりで、真相や真意に近づくのは困難を極めたが、そこにこの事件の本質があるようにも感じられた。

「パシリ役」の男の無鉄砲な人生が、等身大に伝われば幸いである。

※週刊ポスト2026年1月30日号

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