綿矢りささん/『グレタ・ニンプ』
【著者インタビュー】綿矢りささん/『グレタ・ニンプ』小学館/1870円
【本の内容】
俊貴は控えめで笑顔が可愛い由依と結婚した。不妊治療を4年続けたがうまくいかず、夫婦ふたりで生きていくと決めた矢先、俊貴が仕事から帰宅すると、由依が珍妙な格好で踊っていた。「ヨウセイダーーーーッ!」。妊娠した喜びで(!?)、由依は内面、外見ともに豹変。髪型はデニス・ロッドマンのように、喋り方は『ドラゴンボール』の孫悟空のようになってしまう。驚きと笑いに満ちた夫婦の妊婦生活と出産後を描き出す「グレタ・ニンプ」と、バレンタインに手作りチョコを! 壮絶な一夜の奮闘を描いた「深夜のスパチュラ」の2編を収録。
丸いフォルムの人がしたら一番面白い格好を考えた
綿矢さんの作品史上、最も“大暴れ”するヒロインが登場する『グレタ・ニンプ』が本になった。女性セブンで連載中から話題を呼んだ作品だ。
苦しい不妊治療を経て自然妊娠した由依は、陽性の結果が出た妊娠検査薬をツノのように手拭いで頭に突き立てた映画『八つ墓村』の殺人鬼スタイルで夫の俊貴を出迎え、彼を困惑させる。その後も、髪を坊主刈りにしてムラサキに染め、パンクロッカーのようなファッションをまとい、話し方まで『ドラゴンボール』の悟空みたいになる。一人称は「ワタイ」。
おとなしく、控えめだった妻の急激な変貌の理由を、俊貴はあれこれ考えるが、どうしても彼女に問いただすことができない。
綿矢さん自身、「今までで一番、遊んだ作品」と言う。いまだかつてないファンキーな妊婦像は、どのようにして生まれたのだろう。
「妊婦になると、ただでさえ身体が大きく変わるのに、さらに生き方まで、保守的に生きたほうがいいみたいな抑圧を感じることが多くて。ペタンコの靴を履き、ふわっとした服を着ておとなしそうな妊婦さん、以外の像がもっとあったほうが、妊婦もリラックスできるんじゃないかと思いました。妊娠すると身体が丸くなるから、そういう丸いフォルムの人がしたら一番面白い格好を考えて、ゴリゴリのパンクロッカーがしそうなファッションを選んでいます」(綿矢さん、以下同)
派手な色のヘアピースをつけると痴漢が寄ってこなくなる、というようなライフハックを何度かネットで見たことも、ヒントになったという。
「守りとしての攻めたファッションということですね。若い女性もやけど、小さい子どもを連れたお母さんも、ちょっとキツめの格好をしたほうが、変な人に絡まれにくくなるんじゃないか。ベビーカーだって、真っ黒でツノを生やしたようなデザインにしたら蹴られることもないかもしれない。そうなってほしいというより、すでに予兆があるというか、世の中が変わってきていると思うんです」
小説は、突然の妻の豹変にひたすらうろたえる、夫の俊貴の視点で語られる。
「由依は前置きなく変貌するので、周りの人は『そりゃ驚くだろうな』と思います。一番身近にいる俊貴の反応を書いているときが一番面白かったですね」
