依頼してもらえたからこそ続けられた25年の作家生活

 今回、単行本に収録されたもう一編「深夜のスパチュラ」も、綿矢さんがふだん書くことの多い文芸誌ではなく、小説誌の「オール讀物」に掲載された作品である。

 媒体によって、書くものの内容やスタイルが影響されたりするのだろうか。

「すごい意識しましたね。『女性セブン』も『オール讀物』もどちらも歴史のある雑誌なので、その歴史に乗っかるような感覚がありました。連載媒体に内容が影響されることがある、っていうのが今回、発見したことですね」

 当初、出産をゴールのつもりで書いていたが、連載していくうちに、出産で区切りをつけるのは違うと思うようになり、現在の結末になったそうだ。

 今回、小説に登場するのは武蔵小杉(神奈川)と水戸(茨城)という対照的な場所である。武蔵小杉は綿矢さん自身が暮らしたことがあり、水戸は遊びに行こうと調べたことのある土地なのだそう。

 かつては、小説のための取材をする気持ちで新しい場所に行き、何かを経験していたそうだが、「自然な反応が自分の中に入ってこなくてつまらない」と思うようになり、小説のことはまったく考えず、いろんな経験をするようになったそうだ。

 17歳でデビューし、2026年で作家生活25周年を迎えた。

 振り返ってこの25年はどんな印象ですか。

「8年目ぐらいまでは長い感じがしたけど、それ以後はあっという間でしたね。依頼してもらえたからこそ続けられた25年だったと思います。

 作家はものをつくる仕事ですけど、仕事の始まりは受け身で、『こういうものを書いてほしい』という依頼がきっかけになります。依頼してくださる方たちの想像力やパワー、面白い雑誌や本をつくりたい気持ちをだいぶ吸収させてもらって今まで続けてこられたのかなと思います」

 作家の宇野千代が好きで、自身のインスタグラムでは眼鏡に和装の宇野千代コスプレを披露することもある綿矢さん。

「朝ドラ(宇野千代をモデルにした『ブラッサム』が今秋放送予定)の影響で講演に呼ばれることも多くて、『この格好で行きましょうか?』と聞くと『ぜひぜひ』と言われるんです。2026年は宇野千代イヤーになりそうです(笑い)」

【プロフィール】
綿矢りさ(わたや・りさ)/1984年京都府生まれ。2001年『インストール』で文藝賞を受賞しデビュー。2004年『蹴りたい背中』で芥川賞受賞。2012年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞、同年に京都市芸術新人賞、2020年『生のみ生のままで』で島清恋愛文学賞受賞。ほかの著書に『勝手にふるえてろ』『ひらいて』『私をくいとめて』『オーラの発表会』『あのころなにしてた?』『嫌いなら呼ぶなよ』『パッキパキ北京』『激しく煌めく短い命』など多数。1月27日に自身の経験を注ぎ込んだ最新小説集『グレタ・ニンプ』が刊行されたばかり。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2026年2月12日号

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