ライフ

作家・山田詠美 「大阪二児置き去り事件」を題材とした理由

「大阪二児置き去り事件」を新刊の題材とした理由を語る山田詠美さん

 今年1月には千葉県野田市で小学4年生の栗原心愛ちゃんが、6月にも札幌で2歳の池田詩梨ちゃんが虐待死した。今年に限らず、児童虐待事件はなぜ幾度となく繰り返されるのだろう──そんな問いに、真っ向から迫った小説がこのたび上梓された。

 日経新聞連載時より大きな反響を呼んだ山田詠美さんの新刊『つみびと』は、2010年に起きた「大阪二児置き去り死事件」に着想を得た長編小説だ。今から9年前の夏──7月30日に大阪市内のワンルームマンションで、3才と1才の幼児が餓死しているのが発見された。ふたりを灼熱の部屋に放置したのは当時、風俗店で働いていた23歳の母親・下村早苗被告だった(2013年に懲役30年の刑が確定)。本書は罪を犯した蓮音と、その母の琴音、そして死んでいく子供の一人、兄の桃太4歳の視点から描かれる。

幼い子供を置いて男友達と遊んでいた末の事件というかつてない衝撃から、彼女は「鬼母」と呼ばれ、その行状が連日大きく報じられた。しかし、子を放置した母親、その母親を産んだ母親の心理に深く迫り小説を綴った山田詠美さんは問う。はたしてつみびとは彼女一人なのか。本当に罪深いのは誰なのか──と。山田詠美さんに話を聞いた。(インタビュー・構成/島崎今日子)

──誰もが衝撃を受けた「大阪二児置き去り死事件」に着想を得た作品です。35年になろうという作家生活ではじめての事件ものですが、いつ、なぜ、書こうと思われたのですか。

山田:判決が出て、そうたっていなかった頃だったと思います。あの事件は、発覚したときから気になって気になって仕方がなかったんです。なんであんなに関心があったのか。いつもあの彼女のことを考えていました。

 テレビのワイドショーや雑誌を見ていると、絶対正義の側に立って糾弾する報道の仕方に苛立つというか、首を傾げてしまうことが多い。それはこの事件に限ったことではないけれど、「選択を一歩間違えれば、こっち側に落ちてしまう可能性が自分にもある」と、私は思ってしまうんです。万が一にも自分は間違えないなんて、とても思えない。

 でも、メディアで勧善懲悪で物事を語る人って、そこに考えが及んでいない。自分とは違う世界の話だとばかりに、コメントしているでしょ。この人たちは万が一の分岐点があったとしても、その分岐点の存在にすら気づかないんだろうなと考えたときに、そこを書くのが小説家の仕事じゃないかと思ったの。当事者たちの内面に入っていくのはフィクションの仕事ではないか。なぜだか、私の出番だ、って(笑い)。

──なぜこの事件だったのですか。この前年には木嶋佳苗の「婚活連続殺人事件」が起こり、1997年には「東電OL殺人事件」が起こっていて、メディアは騒ぎ立てました。

山田:その2つの事件は、「すごいニュースだな」と思いましたよ。桐野(夏生)さんが、「東電OL殺人事件」を材にとって『グロテスク』を書いているし、柚木麻子さんも「婚活連続殺人事件」で『BUTTER』を書いている。どちらも、とても面白いですよね。ただ、事件そのものは私には響かなかったし、私の言葉で語り直してあげたいという気持ちにはならなかった。第一、私はセレブって自分で言ってるやつは大嫌いだから(笑い)。

関連記事

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン