がん一覧/3ページ

【がん】に関するニュースを集めたページです。

「遺伝子検査」で何がわかるか(イメージ)
がんの発生は遺伝するのか「日本人10万人調査」でわかった最新の研究結果
 がんは日本人の死因の第1位で「国民病」とも呼ばれる。将来のリスクについて気になる人は多いはずだ。よく“がん家系”という言葉を耳にするが、がんの発生と遺伝の相関関係は世界中で長年の研究課題とされてきた。そうしたなか、国立がん研究センターと理化学研究所が発表した大規模研究の結果が注目を集めている。「病院で『中咽頭がんのステージIVです』と言われた時は頭が真っ白になりました。余命はどれくらいかと訊ねたら、医師は『聞かないほうがいい』と言うんです」 そう話すのは、俳優の村野武範(77)。2015年に精密検査を受け、がんが判明したという。「どうせダメなら納得いくまで試してみようと、遠方の病院に入院してピンポイントの陽子線治療を受けました。幸い副作用も少なく約2か月半で無事に退院でき、今も経過は良好です」(同前) 村野は、母が60代で胃がんを患っていた。「がんと診断されて母のことが頭をよぎりましたが、驚いたのは退院後。3人いる姉の2人が過去に皮膚がんと乳がんをそれぞれ患っていたと初めて知ったんです。母と姉2人と自分は部位も違うし何とも言えないが、“がん家系”というやつかなと思いましたよ」(同前)「がん」の主たる原因が「生活習慣」なのか「遺伝」なのかは長年、世界中で議論の的になってきた。東京大学大学院特任教授の中川恵一医師(総合放射線腫瘍学)が語る。「がんは遺伝子が傷つき細胞が不死化して無限増殖する『遺伝子の病気』です。ただし、がん発症の最大の要因は『がんに関連する遺伝子の偶発的な損傷』と言え、その次が『生活習慣・環境的要因』です。『遺伝』が発症原因となるがんは全体の約5%と例外的です。 ただその5%の『家族性腫瘍』には、発症原因となる『遺伝子の変異』が親から子へ50%の確率で受け継がれるものが含まれる。過剰に心配する必要はないが、遺伝が原因となるがんが『存在する』のはたしかです」 中川医師が「親から子へ50%の確率で受け継がれる」と解説したのは、BRCA1/2という遺伝子に起きる変異を指す。その遺伝子変異によって起きる代表的ながんは、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」だ。「女性のがん」だけじゃない 米女優のアンジェリーナ・ジョリー(47)は、その遺伝子変異を持つ1人。母や叔母が若くして卵巣がんや乳がんを患い死亡していたこともあり、遺伝子検査を受けたところ、母からBRCAの変異を受け継いでいることがわかった。変異があっても必ず罹患するわけではないが、2013年、ジョリーは手術を決断。両乳腺を予防的に切除した。 BRCAの変異によるがん発症について、中川医師が解説する。「BRCAは、細胞のがん化を防ぐ『がん抑制遺伝子』として働きます。父母から受け継いだどちらか一方のBRCAが生まれつき機能しなければ、がんを発症しやすくなる。いわば、坂道を下る自転車の前輪のブレーキが最初から壊れているようなものです。後輪のブレーキが利いているうちは問題がないように見えますが、それが壊れた途端に大事故につながります」 BRCAの変異で発症するがんは、女性に多い乳がん、女性特有の卵巣がんが知られていた。「欧米のデータでは、BRCA1/2の変異を持つ女性が80歳までに乳がんを発症する確率は約70%前後とされ、若くして発症しやすい、両方の乳房にできやすいなどの特徴があります」(同前) 最近、日本でも新たな研究結果が出た。 理化学研究所や東京大学などの共同研究グループが、日本人約10万人の遺伝子を疾患情報と合わせて解析、BRCA1/2の変異と発がんリスクに関する研究結果を今年4月に公表。BRCA1/2の変異で「胃がん」「膵臓がん」などのリスクが高まるとの結果が出た。男性の罹患者も多い部位のがんである。 詳しくは別掲の図に示したが、BRCA1/2の変異があると、発症リスクは胃がんで約5倍、膵臓がんで約12倍高まるという結果だった。「これまで日本人を対象にした家族性腫瘍の大規模な疫学調査はありませんでした。今回の結果は衝撃的でしたが、そもそもBRCAの変異の割合は欧米のデータで400~500人に1人程度であることも知っておきましょう」(中川医師)※週刊ポスト2022年7月1日号
2022.06.20 19:00
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 前号に引き続き政界激震スクープ炸裂ほか
「週刊ポスト」本日発売! 前号に引き続き政界激震スクープ炸裂ほか
 6月20日発売の「週刊ポスト」は、前号の「18歳パパ活代議士」スクープの続報、そして参院選の風向きを大きく変える政界スクープが炸裂する。さらに法律のプロ25人が登場する「もめない、損しない相続」の決定版特集、検挙された「浜名湖120人乱交パーティ」の知られざる内情、「国民は値上げを受け入れている」発言の黒田日銀総裁の驚くべき金満ぶりと経歴を明らかにする。グラビアのトップを飾る「最高にカワイイきつねダンス」にも注目!今週の見どころ読みどころ◆<追撃スクープ>パパ活飲酒・吉川議員「18歳と知らなかった」の嘘を暴く決定的証拠本誌スクープで発覚した吉川赳・代議士のパパ活疑惑。自民党は離党でお茶を濁そうとし、野党の辞職勧告決議案にも反対した。そして当の吉川氏は国民への説明もないまま雲隠れして国会閉幕となった。本人は、飲酒させてホテルで過ごした女性について、「18歳とは知らなかった」と言い張っているらしいが、本誌はそれが真っ赤な嘘である証拠を公開する。これでもまだ、吉川氏の「親分」だった岸田首相は我関せずを続けるのか。◆<新着スクープ>維新の重鎮が「橋下徹の出自」で差別演説していた!維新の国会議員団両院議員総会長を務める石井章・参院議員が、吉村文洋・大阪府知事と揃い踏みした街頭演説で、とんでもない差別発言をしていた。維新の生みの親である橋下徹・元大阪府知事をヨイショするつもりで、同氏の「出身地」や「両親の仕事」などについて差別的な発言を繰り返したのである。本誌の取材に部落解放同盟は「許される内容ではない差別発言と考える」と断じ、当の橋下氏も苦言を呈した。◆「浜名湖120人乱交パーティ」は「主催のリンコ(51)のお相手」が参加条件だった浜名湖畔の貸別荘で繰り広げられた乱交パーティが摘発された。主催していたのは、その界隈で「シュン&リンコ」の通り名で知られる54歳と51歳のカップルだった(ともに逮捕)。浜名湖で開かれるパーティは「全国大会」と呼ばれ、同好の士の間では憧れの場でもあったという。参加経験のあるスワッピング愛好家たちの証言で、その乱倫の現場と驚きの“ルール”が明かされた。◆「値上げマフィア」黒田日銀総裁vs財務省「7・20決戦」で「首取り」なるか「家計が値上げを受け入れている」と放言した黒田東彦・日銀総裁の生涯収入は13億円にも達すると試算される。「スーパーで物を買ったこともある」と答弁するくらいの“雲上人”に庶民の懐事情などわかってたまるか。もともと黒田総裁は日銀にばら撒き政策をさせたい安倍元首相の肝いりで抜擢された異色の人事だったため、古巣の財務省とは折り合いが悪い。そこに安倍vs岸田の新旧対立も絡んで、7月20日の金融政策決定会合が天王山の戦いになるという驚きの情報が飛び込んできた。◆<カラーグラビア>きつねダンスほか「踊る球団マスコットガール」交流戦が終わり、ペナントレースはリーグ戦に戻ったが、セ・リーグのファンと関係者が残念がるのは、一世を風靡しているファイターズガールの「きつねダンス」が見られなくなること。もちろん他の11球団のマスコットガールたちも負けてはいない。キレッキレのダンスと美の競演をお届け。◆中日・根尾「球は速いが投手転向は遅すぎた」――経験者たちの嘆き4年目にして投手転向が発表された中日・根尾だが、ドラゴンズ関係者や大物OB、「転向の先輩たち」からは「なぜ今になって」と嘆く声が多い。そもそも甲子園優勝投手を野手として3年間もくすぶらせてきたことが悔やまれるというのだ。転向を決めた立浪監督の起用法にも苦言が……。◆コロナ降格の元大関・朝乃山が「賞金稼ぎ」で330万円「ごっつぁん」か緊急事態宣言中にキャバクラ通いして謹慎処分を受けた朝乃山が名古屋場所で復帰する。番付は三段目まで下がる見込みだが、そのおかげで優勝賞金をがっぽり稼ぐと見られている。三段目、幕下2回、十両と連続優勝すれば総額330万円。そりゃ1年前まで大関を張っていたバリバリの力士だから簡単にそうなるだろう。対戦する力士たちは「さっさと幕内に戻ってくれ」と不満タラタラとか。◆業界四天王「回転ずし」の人気メニュー「価格」と「量」を徹底比較スシローのおとり広告が措置命令を受けて逆風を受ける回転ずし業界。実はウクライナ戦争の余波もあって「ネタ不足」と「仕入れ値高騰」に四苦八苦している。そんな業界の熾烈な競争を人気メニューの完全比較表で一切の忖度なく公開する。業界も苦しいが庶民の懐も苦しいから、安くて大きいネタがあるならそのほうがいい。各社とも看板メニューである「まぐろ」の価格は110円で横並びだが、ネタの重さを量ったら、1位・はま寿司、2位・かっぱ寿司、3位・スシロー、4位・くら寿司という結果に。他のメニューは?◆AV新法成立で「日本のエロ文化が中国に追い抜かれる」の声アダルトビデオの出演被害を防止するための新法が成立した。性の搾取はあってはならないが、厳しすぎる規制は日本のエロ文化を衰退させるという声もある。AVは世界中で当たり前に作られており、もともと日本の業界は自主規制が厳しいと言われていた。そして、規制のなかで創意工夫を重ね世界一のクオリティとも評されている。叩かれやすい業界だけに、本誌はあえて過度な規制に反対する識者たちの声を集めた。◆出川哲郎「抱かれたくない」改め「国民の人気者」になるまで売れない役者から始まり、リアクション芸人、嫌われ者キャラで名を売った出川哲郎が、いつの間にか国民的人気者になり、ついにNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演するという。ネットでは「ドッキリ企画だろ」と温かくイジられているが、いまやレギュラー7本という活躍ぶりを見れば驚くにはあたらない。ウド鈴木や松村邦洋など、古くからの友人や仕事仲間が「てっちゃん」の素顔と苦労人エピソードを語った。◆スワローズより好調「ヤクルト1000」で「安眠できる」は本当なのか1本に1000億個の乳酸菌シロタ株を含むという“濃いヤクルト”が売れに売れている。マツコ・デラックスらがテレビで激賞したこともあって売れ切れ続出の人気だが、その理由のひとつである「よく眠れる」という評判は本当なのか。ヤクルトと研究者らに真偽を聞いた。◆「がんと遺伝」最新研究でわかった「これだけの連関」昔から「がん家系」といった表現はあるが、がんと遺伝の関係はまだ研究途上だ。ようやく日本でも本格的な調査が進み、衝撃的なデータも明らかになってきた。医学的には遺伝によるがんは全体の5%程度とされるから怖がりすぎるのは間違いだが、ある変異遺伝子では部位別に数倍から数十倍のリスクをもたらす可能性が指摘されている。◆プロ25人が登場!「もめない、損しない相続」これが決定版13ページの総力特集。相続が難題であり、多くの人が関心を持っているのは、その手続きや注意点が多岐にわたるからだ。専門の話は専門家に聞くのが一番。特に相続に詳しい選りすぐりの弁護士、税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士25人が「プロのノウハウ」を明らかにする。※全国の書店、コンビニで絶賛発売中!
2022.06.20 07:00
NEWSポストセブン
(共同通信社)
名大名誉教授が指摘、ワクチンによる免疫力低下の可能性 接種サイクルに議論必要か
「もう4回目の接種券が届いたのよ。2回目は40℃近い熱が出たし、3回目は副反応は弱いって聞いていたのに腕があがらなくなったし。それでもやっぱりコロナは怖いから、打たなきゃダメよね……」 60代女性のそんなつぶやきに、友人が答える。「えっ、4回目も打つつもりなの? もういい加減にやめた方がいいんじゃない。私も3回打ったけど、ワクチンを打つたびに体が弱っていくような気がしているのよ」 打つべきか、打たざるべきか。日本中、いや世界中で、それに似た会話がどれだけ繰り返されてきたことだろう。5月25日から、新型コロナワクチンの4回目接種が始まった。3回目接種から5か月以上経過した、60才以上の高齢者などが対象だ。多くの人は、つらい副反応が出ても感染を予防すると信じてワクチンを打つだろう。だが、その大前提を覆す衝撃の分析データが公表された。 医療機関や保健所が、新型コロナの新規感染者のデータを入力する厚生労働省のシステム『HER-SYS』。そこには、感染者の年齢や性別、ワクチンの接種歴が入力され、コロナ対策のための重要で膨大なデータが蓄積されている。ワクチンの接種歴に限って見ると、「未接種」「2回接種」「3回接種」「接種歴不明」に分けてカウントされる。 例えば、オミクロン株の新規陽性者数の高止まりが懸念されていた今年4月4〜10日の1週間では、すべての年代において、ワクチンの未接種者よりも2回目、3回目の接種を終えた人の方が、陽性者が少なかった。このデータが示すのは、「ワクチンを打った人の方が、打たない人よりもコロナに罹りにくい」ということだ。誰がどう見ても、疑いの余地のない至極当然の結果だろう。 だが、厚労省が集計したこのデータに疑いの眼差しを向けた専門家がいる。小児がんや難治性血液病の専門家で、遺伝子治療やワクチンにも詳しい、名古屋大学名誉教授の小島勢二氏である。「海外の多くの研究では、オミクロン株に対してワクチンの感染予防効果が以前より低下したと報告されています。中には、効果は20%という調査もありました。 しかし厚労省の集計データではワクチン接種者の感染予防効果が80〜90%を維持しており、“あまりに高い”と不自然に思ったのです。厚労省の数値は、同じ『HER-SYS』のデータを用いているはずの国立感染症研究所(感染研)の数値と比べても大きく異なり、不審に思いました」(小島氏)数値の“改ざん”に等しい大問題 厚労省の集計データは間違っているのではないか──そう直感した小島氏が、知人の国会議員に伝えたところ、この件が国会で質疑された。すると、厚労省は突如として、データの集計の仕方を変更した。大きく変わったのは、「未接種者」の取り扱いだ。「それまで、“ワクチンは打ったけれど正確な接種日時などがわからない新規陽性者”を、『未接種』に分類していたんです。しかしこの分類だと、“打っているのに感染した人”が、“打っていなくて感染した人”とされてしまいます。つまり、ワクチンの感染予防効果が実際より高く見えてしまっていました」(全国紙記者) 4月11日以降のデータからは、それまで接種歴があるのに正確な接種日時などがわからないため「未接種」とされてきた陽性者が「接種歴不明」に分類されるようになった。実際、集計方法が変わったことでワクチンの「未接種」は7万6877人(4月4〜10日)から、3万3207人(4月11〜17日)に激減。一方、正しく振り分けられた「接種歴不明」は3万7146人から7万8488人に激増した。「未接種」での新規陽性者が大幅に減ったことで、ワクチン接種歴と新規陽性者の関係は一変した。前述の通り、従来の“間違った”集計方法では、未接種の方が2回目、3回目の接種を終えた人より10万人あたりの新規陽性者が多かった。 しかし正しい集計方法に改められたことにより、未接種と2回接種の新規陽性者数にほとんど差がなくなった。むしろ、「40〜49才」「60〜64才」「65〜69才」「70〜79才」では、未接種よりも2回接種の方が、10万人あたりの新規陽性者が多くなる逆転現象が生じたのだ。「端的に言えば、“2回ワクチンを打った人は、打っていない人と感染のしやすさは変わらない”という結果が導かれました。 それだけではありません。新たな集計方法で『接種歴不明』に分類されるようになった人たちも、詳細がわからないだけで、接種したことは間違いありません。その人たちは本来ならば『接種歴不明』ではなく、『接種者』としてカウントする必要があります。改めて独自に試算したところ、ワクチンを2回接種した人の感染予防効果がマイナスになって、かえって感染しやすいという結果になったのです」(小島氏・以下同) ワクチンの効果は時間が経過すると薄れることは以前から説明されてきた。効果が完全に消えたら、未接種者と同じスタートラインに戻るはずだ。それは問題ない。だが小島氏の試算から見えてきたのは、「2回接種者の方が未接種者よりもコロナに感染しやすくなる」という、衝撃の結果だったのである。「感染予防効果がなくなるだけならまだしも、ゼロでとどまらずマイナスに陥ったのは憂慮すべき事態です。厚労省は、指摘を受けなければ集計方法を変えなかったかもしれないし、過去にはこの集計データをもとに“ワクチンの効果の高さ”を謳っていたこともありますから、さらに問題です」 同様の“誤った”集計方法は、ドイツのバイエルン州でも行われており、昨年末に現地新聞の指摘で見直されたケースがある。「そうしたことも把握していながら、実態に即していない集計を続けていたのだとしたら、厚労省による数値の“改ざん”に等しい大問題だと言っていいでしょう」「ワクチンは切り札」だったはずなのに フランス在住のジャーナリストの羽生のり子氏が、デンマークの事例を挙げる。「昨年12月、デンマーク当局が公表した資料によると、2回接種者の感染リスクが、未接種者の1.3倍だったと指摘されています」 コロナを防ぐはずのワクチンを打つと逆にコロナに感染しやすくなる──なぜそのような“想定外”が起きたのか。「ワクチン接種後は気が緩むので、マスクを外して大声を出したり、夜の街に繰り出すなどハイリスクの行動を取りやすくなる」 よく聞かれるのが、こうした「気の緩み論」だ。だがウエブサイト「Think Vaccine」がワクチン接種者と未接種者それぞれ408人に行ったアンケートでは、感染対策の取り組みに大きな違いはなかった。「接種者、未接種者とも三密回避などの感染対策を緩和したのは3割ほどで同程度でした。この結果からは接種後に気が緩んで感染したとは考えにくい」(小島氏・以下同) そうなると、「ワクチンそのものが悪い」という疑念は拭えなくなる。日本で使用されるファイザーやモデルナのワクチンは「mRNAワクチン」と呼ばれるタイプで、人間の細胞内に「スパイクたんぱく質」を産生する遺伝子の設計図を打ち込む。このスパイクたんぱく質に体内の免疫系が反応すると、新型コロナの感染を予防する「抗体」がつくられるというメカニズムだ。 ウイルスの一部のたんぱく質を体内に投与する従来のワクチンとは異なり、mRNAワクチンは体内に数日しか残らず、増殖しない遺伝子情報を打ち込むタイプなので、比較的安全といわれてきた。一方で、本格的なワクチンとして「mRNAワクチン」が使われるのは人類史上初めてであり、人体への影響すべてが詳らかになっているわけではない。「mRNAワクチンは従来と異なる特別なワクチンです。遺伝情報を打ち込み、いわば『人工のウイルス』を感染させることが最大の特徴ですが、産生されるスパイクたんぱく質が人体に与える悪影響にまでは充分配慮がされていなかった。血栓症や自己免疫疾患の発症などのデメリットが海外の論文で指摘されています」 そもそも日本のワクチン接種が本格化したのは昨年5月だった。当時の菅義偉首相が「ワクチンは切り札だ」とハッパをかけて接種が進んだ。今年6月13日時点で2回目の接種を終えた人は国内の全人口の8割。3回目も6割の人が接種を終えた。特に65才以上の高齢者は9割が3回目まで打ち終わっている。「はしかや水ぼうそうのワクチンのように、子供のときに打っておけば効果が一生続くタイプのものもあります。しかし、コロナワクチンは想像以上に早く効果が弱くなっています。 ワクチンメーカーはウイルスの変異が発生しても、そのたびに対応するワクチンを生産すると言います。しかし免役学には『抗原原罪』という理論があります。免疫システムの反応は最初に接したワクチンやウイルスの記憶に固執し、その後の変異株への対応力が低下するというものです。仮に変異株に対応したワクチンを開発し、それを接種しても、期待した効果が得られない可能性は充分あります」 ワクチンは切り札ではなくなっているかもしれないのだ。帯状発疹や口腔カンジダの患者が増えた mRNAワクチンにはさらなる不安がある。接種後に血小板が減少する副反応があることは厚労省が認めている。海外の研究者からは心筋症の発生が増えることも指摘されている。小島氏は、接種後の「免役力の低下」による疾患の発症を危惧する。「私は臨床医として、感染症である帯状疱疹の患者が増えていることを実感しています。子供の頃に水ぼうそうを起こすウイルスに感染した場合、そのウイルスは大人になっても神経に沿って潜伏しています。免疫力が下がると体内に潜んでいたウイルスが再活性化し、神経に沿って痛みのある赤いぶつぶつが出ます。これが『帯状疱疹』です。 そのほか、カンジダという真菌(カビ)が口の中で繁殖する口腔カンジダも免疫力が低下しているときに生じやすい。帯状疱疹や口腔カンジダの患者が増えているということは、ワクチンを打ったことによって免疫力が下がっている人が増えている可能性が高いと思います。 当然、免疫力が落ちていれば、コロナに感染する可能性も高くなる。2回接種者の感染予防効果がマイナスに転じていたのは、ワクチンによる負の影響も考えられるのです」 負の側面はそれだけに留まらない。心配されるのが、命にかかわる病気の増加だ。「免疫の大きな働きは、ウイルスや細菌などの異物を排除することです。体内では、異常な増殖をする『がん細胞』も異物であり、免疫が働かなくなれば、がんも防げません。免疫力がワクチン接種で低下すると、それまで抑えられていたがんが急速に進行することも、理論上はないと言い切れません」 過去の統計から見込まれる国全体の死者数の推定値を、実際の死者数がどれだけ上回ったかを示す数値を「超過死亡」という。感染症がないときの平年の国の総死亡者の推定値と、感染症が流行したときの総死亡者数を比べれば、「感染症によってどれだけの人が亡くなったか」を導き出せる。厚労省の人口動態調査(速報値)によると今年2〜3月の超過死亡は、前年同期に比べて約3万5000人の大幅増となった。「超過死亡は昨年1年で約6万人も増え、今年の2〜3月になってさらに急増しています。コロナにより医療が逼迫し、適切な医療行為が受けられなかったとする意見もありますが、コロナ発生から3年目を迎えた今年の2〜3月はそんな状況ではありませんでした。 長いスパンで見ると、昨年4月12日にワクチンの高齢者接種が始まりましたが、その1週間後から、日本の超過死亡は突如プラスに転じました。その増加傾向は現在まで続いています。死者数の増加とワクチン接種の関係を否定するには材料が足りません。 また、感染研が、日本の超過死亡のデータを毎月公表しています。この6月に入ってから、突然、集計方法を変えました。その変更は、過去に発表されたデータの数値にも影響しました。変更前のデータと比べて、変更後は、高齢者のワクチン接種が始まって以降の『1週間あたりの超過死亡』の増加が観察された週数が、大幅に増えています。 さらに、新型コロナ感染症以外の死因で超過死亡が起こったとも発表しています。これまで感染研は、超過死亡の要因としてワクチン接種の関与を否定していましたが、変更後はどのように説明するのか気になります」 ワクチンが死を招くことは起こりえない話ではない。ワクチン戦略が広まり始めた当初、ワクチンには「95%の感染予防効果がある」とされた。だが、接種した多くの人が感染した。その後、「人口の7割が2回接種すれば集団免疫ができてコロナは克服できる」と、社会生活を平常化させるために接種が推奨された。だが、7割が接種完了してもコロナは消えるどころか、さらに猛威を振るった。 接種後に感染するブレークスルー感染が増えると、接種の目的はいつの間にか「コロナに罹らない」ことから、「重症化を防ぐ」ことにすり替わった。 現在、政府は「重症化予防に意味がある」との理由でワクチンの4回目接種を推奨している。だがワクチンの重症化予防効果も感染予防効果と同様に、早晩効果がなくなるのではないかと小島氏は主張している。「オミクロン株の流行とともに重症者が激減したのは、ワクチンの効果よりもウイルスそのものが弱毒化した結果である可能性が高い。海外のデータでは、3回接種から1か月はワクチンの高い効果が望めますが、その後急速に効果が落ちるというものもある。 重症化率が低下し、感染しても“ただの風邪”である可能性が高いオミクロン株に対し、むしろ免疫力の低下や自己免疫疾患の増加など、さまざまな悪影響が懸念されるワクチンを、接種のサイクルをいま以上に早くしてまで打ち続けるかどうか、立ち止まって議論する必要があると思います」 血液内科医の中村幸嗣さんが指摘する。「感染率や重症化率が高いデルタ株までは、ワクチン接種の効果に専門家の異論はほぼありませんでした。しかしインフルエンザウイルスほどに弱毒化するなか、リスクのあるワクチンをどう扱うのか。接種する側の国民も、政府の“接種推奨”に流されるのではなく、そのメリットとデメリットを天秤にかけて選択すべきです」 ワクチンにも“出口戦略”が求められている。※女性セブン2022年6月30日号
2022.06.19 07:00
女性セブン
高齢になってからの生活習慣をどう考えるか(イメージ)
和田秀樹氏が提言 70歳からは…「健康診断、減塩、お酒控えるのをやめていい」
「80歳を超えて元気で過ごすには、“我慢をやめる”ことが大切です」と指摘するのは、高齢者専門の精神科医としてこれまで6000人以上を診察し、近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)や『老いが怖くなくなる本』(小学館新書)が話題となっている和田秀樹氏だ。 和田氏がまず、やめていいと指摘するのが健康診断だ。健康診断で数値が悪いと医師から生活指導を受け、正常値に戻す治療を促されるが、和田氏は「70歳からは結果を気にしなくていい」と言う。「健康診断の結果は現代人には合わないと考えられます。例えば、1980年まで日本人の死因の1位は脳卒中で、当時は血圧が150程度で脳の血管が破れていました。そのため血圧を下げる生活指導が盛んになったのですが、栄養状態が良くなり、たんぱく質を多く摂取するようになった現代の日本人の血管は丈夫になった。今では血圧が200あったとしても破れることは少なくなりました。 もちろん、脳に動脈瘤がある人はくも膜下出血のリスクが高まるので血圧を下げる治療の効果はありますが、一律に血圧を下げなければならないと考える必要はありません」 同じく、生活習慣病予防のために血糖値やコレステロール値を正常値に戻そうと減塩したり甘いものやお酒を控えることにも和田氏は疑問を呈す。「脳内出血が少なくなってきたために、健康診断の目的は“動脈硬化予防”にシフトしました。動脈硬化は血管の壁が厚くなることを指しますが、生活習慣病によって進行していくため、血圧や血糖値、コレステロール値のコントロールが推奨されています。 ただし、動脈硬化の最大の要因は加齢です。それを無理に薬で数値を下げることにはリスクもある。脳に酸素やブドウ糖を巡らすためには、70歳を過ぎたらむしろ血圧や血糖値はある程度高めのほうがいい。食事制限による低血糖に陥るより、好きなものを食べて血糖値を保ち、脳などの血流を良くしたほうが元気に過ごせます」 旧来の常識である食事制限や体重制限の考え方はアメリカを手本にしており、「そもそも日本人には合っていない」と和田氏が続ける。「アメリカでは、肥満を忌避しダイエットを推進する健康志向が強い。ただし、それはアメリカ人の死因の1位が心疾患で、その背景に肥満が多いことがあると考えられているからです。がんが死因のトップである日本でアメリカ型の健康法は合理的とは言えません。 例えば、コレステロール値が高いと心筋梗塞を起こしやすく、低いとがんになりやすいという疫学調査があります。さらに、がんの予防には免疫力を高めることが重要で、血圧や血糖値、コレステロール値を薬で下げて免疫機能を落とすことは、がんのリスクを高めることにもなりかねません」 それを回避するために、積極的な肉の摂取を和田氏は勧める。「コレステロールを多く含む肉は免役機能を向上させ、男性ホルモンの素にもなります。男性ホルモンが充足すると記憶力や判断力、意欲が湧き、筋肉を作ってくれる。そもそも日本人は肉を1日100gしか食べていないので、150gくらいは食べても平気です」 減塩やダイエットといった節制は心筋梗塞、脳梗塞などのリスクを下げるとされるので、「血管系の疾患とがんなどその他の病気の予防のどちらを優先するかはその人の考え方次第でもある。ただ、何も考えずに“とにかく我慢しなくては”と思い込むことはやめたほうがいい」と和田氏。もちろん、薬を減らしたりする際には自己判断は禁物。信頼できる医師に相談しながら進めるのが必須だ。※週刊ポスト2022年6月24日号
2022.06.18 07:00
週刊ポスト
がんステージIVの坂本龍一、パートナー女性との“覚悟の入籍”を決断か
がんステージIVの坂本龍一、パートナー女性との“覚悟の入籍”を決断か
 白髪の男性がピアノの鍵盤にゆっくりと両手を乗せる。頬は心なしかこけ、鍵盤をたたく指にはしわが増えた。演奏は体力を使う。短時間しか弾けない日もあるが、何かに導かれるように連日ピアノに向き合うという。 男性は坂本龍一(70才)。6月7日に発売された月刊文芸誌『新潮』(7月号)で始めた連載で、自身のがんがステージIVであることを明かし、包み隠さず病状を綴ったことで、日本中に衝撃を与えた。同誌は発売直後から売り切れの書店が続出しているという。 連載のタイトルは、『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』。一見、悲観的に読める言葉だが、坂本は別の思いをこのタイトルに込めているのかもしれない。現在の坂本は音楽漬けの日々を送っている。それはいままでにないほどに──。 坂本を病魔が襲ったのは2014年のことだった。病名は中咽頭がん。坂本は予定していたコンサートやアルバム制作などを中止して治療に専念し、放射線治療によってがんは寛解した。 だが復帰から5年後の2020年6月、再びがんが見つかる。病院での検査を受け、直腸がんと診断された。帰国後に診てもらった病院で、坂本は衝撃的な事実を告げられた。「何も治療をしなければ余命半年」「強い抗がん剤を用いても、5年生存率は50%」 セカンドオピニオンでは、がんが最も進行した段階を示す「ステージIV」であり、両肺にも転移していることが判明。坂本は昨年1月に手術を受けた。 手術は無事に終わったものの、両腕には点滴、腹には5本の管を入れた闘病生活が始まった。さらに、傷口が回復するにつれて別の問題に悩まされた。1週間ごとに新たな合併症が見つかる状況に陥ったのだ。食事も喉を通らずに、体重は10kg以上減少した。体力の回復を待って、その年の10月と12月には、2回に分けて両方の肺に転移したがんを摘出する手術を受けている。「手術によって、いま取り除ける腫瘍はすべて切除できたようです。ただ、病巣はまだ残っていて、増殖を続けている。今後は薬による治療を続ける必要があるそうです」(坂本の知人)4人の子供とパートナーに 坂本は現在、日本の自宅マンションで生活している。そして坂本は、プライベートでも大きな決断を下していた。 過去に2回の結婚と離婚を経験している坂本には、現在、4人の子供がいる。東京藝大在学中に結婚した一般女性との間に長女。1982年に結婚した矢野顕子(67才)との間には矢野の連れ子と、ミュージシャンの坂本美雨(42才)。そして、現在のパートナーであるA子さんとの間には息子が生まれている。「A子さんとの出会いは1987年。彼女は舞台美術を手がけるアーティストで、坂本さんがツアーコンサートの美術担当に抜擢したことがきっかけでした。1990年には2人の間に子供ができましたが、矢野さんは2人の交際を認めつつも、離婚はしなかった。 矢野さんと別居したのは1992年、正式離婚は2006年ですが、その間もA子さんとの関係はずっと続いていました。2014年のがん判明からこれまで坂本さんの闘病を支えてきたのはA子さんです」(芸能記者) もし未婚のまま自分が死ねば、遺産の相続などさまざまな問題が発生しかねない。そのため坂本は、近々A子さんとの入籍を考えているという。A子さんとも子供たちとも、少しでも長くいたい。曲作りのためにも、1分でも長く生きたい。だが葛藤もある。 医療の発達により人間の寿命は画期的に延びた。日本では「人生100年時代」と当たり前のようにいわれるようになったが、人類の長い歴史からみれば、ごく最近のことにすぎない。「坂本さんはつらい治療を行ってまで、無理して命を延ばす必要があるのか。自然に任せて、最小限のケアだけで最期を迎えることが人間の生き方なのではないかという考えも持っています。その一方で、自分は外科手術や化学療法など、あらゆる手段を尽くしてきた。現実を受け入れて達観しているとはいえ、死に方に関する考え方の矛盾に悩むこともあるようです」(前出・坂本の知人) がんと闘うのではなく、がんとともに生きる──覚悟の中で坂本はどんな音楽を紡ぐのだろうか。※女性セブン2022年6月30日号
2022.06.17 16:00
女性セブン
近著『80歳の壁』、『老いが怖くなくなる本』が話題の和田秀樹氏
和田秀樹氏「80歳を超えて元気で過ごすには“我慢をやめる”ことが大切」
 100歳以上の人口は8万6000人を超える。国立社会保障・人口問題研究所によれば、現在65歳の人の4分の1が95歳まで生きると予測されている。まさに「人生100年」が当たり前の時代となった。 長い人生を輝かせるには「健康寿命」が重要になる。そのために節制や病気の予防に努める人は少なくないが、これまでの“常識”を考え直してみることも必要だ。「80歳を超えて元気で過ごすには、“我慢をやめる”ことが大切です」。そう指摘するのは、高齢者専門の精神科医としてこれまで6000人以上を診察し、近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)や『老いが怖くなくなる本』(小学館新書)が話題となっている和田秀樹氏だ。「食事やお酒の制限、年に一度の健康診断、多種類の薬の服用といった“健康志向”の効果はあっても60代まで。多くの患者さんを見てきた結果、70歳からはそうした我慢をやめ、好きなように生きたほうが80歳以降の人生が健康的になると考えています」 日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性は87.74歳だが、自立して健康的な生活を送れる健康寿命は男性が72.68歳で、女性は75.38歳。男性は9年間、女性は12年間のギャップがある。 もちろん、健康状態は人それぞれで、平均的な健康寿命を超えても元気な人は少なくない。そうした「80歳の壁」を越える人になるには、「70代まで続けてきた常識を捨てるのがよい」と和田氏は説く。「80歳を超えたら老いに抗うのではなく、老いを受け入れ、残った能力やその時にできることを大事にする。60代までは節制や運動に励んで生活習慣病を予防し、老いに抗うことも必要でしょう。 ただ、80代になればがんや認知症といった病気は誰でも発症します。ならば、がんにならないための我慢は意味がないと考えてもいいでしょう。過度に我慢をしてストレスを抱えて生きることは、むしろ身体にダメージを与えることに繋がります。それよりも老いを受け入れて我慢や無理をしない生活を送るほうが健康的です。そして、高齢者ではなく『幸齢者』を目指しましょう」※週刊ポスト2022年6月24日号
2022.06.17 07:00
週刊ポスト
坂本龍一、がんステージIVでも消えぬ情熱 『戦メリ』に苦しめられた過去からの解放
坂本龍一、がんステージIVでも消えぬ情熱 『戦メリ』に苦しめられた過去からの解放
「音楽の父」と称されるドイツの偉大な音楽家バッハ。彼の遺作『フーガの技法』は未完のまま終わっている。制作中にこの世を去ったからだ。坂本龍一(70才)は、そのバッハのように「死の直前まで曲を作り続けたい」と強く願っている。がん闘病の最終局面に差し掛かった彼を突き動かすのは、最愛の人たちだった──。 坂本の人生は、順風満帆にみえた。東京藝術大学大学院修了後に、スタジオミュージシャンとしてキャリアをスタート。1978年には細野晴臣(74才)、高橋幸宏(70才)とともに『イエロー・マジック・オーケストラ』(YMO)を結成し、それまでになかった新しい音楽を生み出して世界にセンセーションを巻き起こした。 映画『戦場のメリークリスマス』(1983年公開)の音楽で世界的に評価を受け、『ラストエンペラー』(1987年公開)ではゴールデン・グローブ賞作曲賞、アカデミー賞作曲賞などを日本人として初受賞。この2本の映画には俳優としても出演し、重要な役柄を演じた。その後も国内外で音楽にまつわる賞を受賞するだけでなく、環境・平和活動にかかわるなど、音楽に留まらない存在感を示していった。そんな中、2014年に最初の病魔が襲った。中咽頭がんだった。「坂本さんは予定していたコンサートやアルバム制作などを中止して、当時、生活の拠点を置いていたアメリカ・ニューヨークの病院で治療に専念しました。幸いにも放射線治療によってがんは寛解し、2015年8月には吉永小百合さん(77才)主演の映画『母と暮せば』(山田洋次監督)の音楽制作で復帰を果たしました。その後は、がんによくないとされる肉を食べることを完全にやめ、野菜中心の食生活を送るなど人一倍健康に気を使っていたようです」(音楽関係者) だが復帰から5年後の2020年6月、坂本の体に再びがんが見つかる。病院での検査を受け、直腸がんと診断されたのだ。「5年前と同じ病院で、放射線治療と並行して抗がん剤治療を受けたようです。しかし、がんは消えてくれなかった。当時、坂本さんはがんとは別に物忘れに悩んでいて、その年の12月に帰国したときに脳の病気を疑って人間ドックを受けたんです。すると脳には異常がなかったものの、直腸がんが肝臓やリンパにまで転移していることがわかった。 治療を受けていたニューヨークの病院では、転移していることを告げられていなかったため、病院側の“見落とし”の可能性も否定できない状況でした。坂本さんはニューヨークには戻らずに、東京で治療を受けることを決めました」(坂本の知人) 帰国後に診てもらった病院で、坂本は衝撃的な事実を告げられた。「何も治療をしなければ余命半年」「強い抗がん剤を用いても、5年生存率は50%」手術は20時間、腸は30cm切除した 突然の余命宣告。ショックを隠し切れない坂本に、セカンドオピニオンがさらなる追い打ちを掛けた。がんが最も進行した段階を示す「ステージIV」であり、両肺にも転移していることが判明したのだ。当時の心境を坂本は、6月7日発売の月刊文芸誌『新潮』7月号で始めた連載『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』の中で《はっきり言って、絶望的な状態です》としている。そんな絶望の中、坂本は昨年1月に手術を受けた。「直腸と肝臓を2か所、リンパに転移したがん細胞を摘出しました。手術時間は20時間にもおよび、腸を30cmも切除する大手術だったようです」(坂本の知人) 手術は無事に終わったものの、両腕には点滴、腹には5本の管を入れた闘病生活が始まった。さらに、傷口が回復するにつれて別の問題に悩まされた。1週間ごとに新たな合併症が見つかる状況に陥ったのだ。食事も喉を通らずに、体重は10kg以上減少した。体力の回復を待って、その年の10月と12月には、2回に分けて両方の肺に転移したがんを摘出する手術を受けている。「手術によって、いま取り除ける腫瘍はすべて切除できたようです。ただ、病巣はまだ残っていて、増殖を続けている。今後は薬による治療を続ける必要があるそうです」(前出・坂本の知人) 坂本がこれまで公表したがんは、昨年1月の摘出手術までだ。しかも当時、所属レコード会社はステージなどの詳細を明らかにせず、手術を受けて入院加療中という内容に留めた。坂本本人も公式ホームページに、《残念ながら、新たに直腸がんがみつかりました》とのメッセージを掲載し、詳しい病状には触れなかった。 自らの連載で詳細を明かすという心境の変化は、覚悟の表れだった。「当初、坂本さんはがんに関する詳細は、公表しないでおこうという考えでした。隠そうとしていたわけではなく、治療すれば治るのだから公にする必要はないと思っていたんです。 ですが、昨年末に2回の大手術を終えても闘病が続くことがわかった。両肺に転移していたことや、がんが全身に回っていることを考えると、がんそのものを受け入れるほかない。死を身近に感じたとき、自分の言葉で詳しく病状を明かそうと決めたのです。それが今年の2月頃です。現実を受け入れるまでには、涙を流したこともあったようです」(前出・坂本の知人)代表曲『戦メリ』への葛藤 坂本は現在、日本の自宅マンションで生活している。「現実を受け入れてからの坂本さんは、創作活動に力を注いでいます。体調が優れないときもありますが、動揺するわけでもなく達観している様子です。最後の音楽の追究に時間を割いているようです」(前出・坂本の知人) 昨年12月の手術後、新しく作った楽曲の披露の場に選んだのは、今年の3月、坂本が近年の活動のなかでもっとも力を入れている「東北ユースオーケストラ」のステージだった。自身が音楽監督を務め、東日本大震災の被災地の子供や若者で構成されるオーケストラだ。 当時は12月の手術は公表していなかったが、術後わずか3か月での復帰。坂本は新曲『いま時間が傾いて』をオーケストラをバックにピアノで披露した。同公演には、親交の深い吉永小百合も出演し、東北にゆかりのある作家の詩を朗読。坂本の復帰に花を添えた。新たな楽曲の制作にも取り組んでいる。坂本の代表曲といえば『戦場のメリークリスマス』を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、この楽曲が坂本を苦しめた過去がある。「坂本さんは世界中どこに行っても、『戦メリ』を弾いてくれと言われることに嫌気がさして、コンサートで封印していた時期もあります。いつしか、『戦メリ』を超える曲を作ることが、坂本さんの目標になっていました」(前出・音楽関係者) だがその考えも、ここ数か月で変化しているようだ。今年3月、坂本は『家庭画報』のインタビューで《「『戦メリ』が一番よかったで終わりかよ」っていう、自分の中でそういう気持ちがある》と話している。しかし、4か月後の『新潮』の連載では、《「坂本龍一=『戦メリ』」のフレームを打ち破ることを終生の目標にしたくはない。そのゴールに向かって、残された時間を使うのはアホらしい》と綴った。 代表曲にまでなった『戦メリ』だが、メロディーはわずか30秒程度で思いついたという。それゆえに、坂本は1分でも命が延びれば新たな曲が生まれるという考えを持っている。体調が優れずとも、たとえ短い時間でもピアノに向かうのはそうした理由もあるのかもしれない。 実際『新潮』での連載を始めるにあたり、坂本は《せっかく生きながらえたのだから、敬愛するバッハやドビュッシーのように最後の瞬間まで音楽を作れたらと願っています》とコメントした。がんと闘うのではなく、がんとともに生きる──坂本は人生の集大成のときをどう迎えるのか。※女性セブン2022年6月30日号
2022.06.16 11:00
女性セブン
「抗がん剤」治療の制度変更でどんな影響が?(イメージ)
「抗がん剤」治療 制度変更で化学療法ができなくなるクリニック続出の懸念
 日本人の死因第1位である「がん」。医療の進歩により、「不治の病」から「治せる病気」に変わりつつあるが、新たな治療法の登場に伴って、国の制度も大きく変わっている。そうしたなかで、制度が変わったことで“今まで通り治療が受けられない”という声が聞こえてきた。一体何が起きているのか。10月がタイムリミット 東京近郊に住む70代のAさんは今年初めに多発性骨髄腫で医大附属病院に入院し、抗がん剤による化学療法と免疫療法を受けた。退院後は月1回、自宅近くのクリニック(診療所)に化学療法に通っている。経過は順調でホッとしていた。その矢先のことである。 主治医から突然、こう告げられた。「この秋からうちでは治療ができなくなるかもしれません。その時はどうされますか」 いきなりのことで言葉が出なかったという。 医師から聞いた話によると、きっかけは今年4月の「診療報酬改定」だ。厚労省は、がんの化学療法を行なっている医療機関に対し、患者からの副作用に関する相談や問い合わせに即対応できるように「専任の医師か看護師、薬剤師」を院内に常時1人配置し、24時間対応できる体制を整備しなければならないと定めた。経過期間である半年間のうちに24時間体制が組めなければ、診療報酬改定で新設された「外来腫瘍化学療法診療料」の適用とならず、今年10月1日からは事実上、化学療法ができなくなるというのだ。Aさんが語る。「通っているクリニックには入院設備がないから、当然、宿直はいない。『入院患者がいないのに毎日、相談のために夜勤シフトを組むのはスタッフが足りないし、費用がかかりすぎる。最悪、当院では化学療法はできなくなる』という説明をされました。だからといって、最初に入院治療を受けた病院に通うには1時間半もかかる。治療をやめられたら途方に暮れてしまいます」 医療ガバナンス研究所理事長で医学博士の上昌広氏(血液内科)が指摘する。「今回のケースだと、院長と非常勤の医師で回しているところは大変。24時間シフトを組むために医療スタッフを雇うとなると、コストが大幅に増えるから採算が合わなくなる。たとえばアルバイトのドクターを一人雇うだけでも、1日10万円近くかかってしまうんです。 厚労省が院内常駐と決めたことで化学療法ができる医療機関は間違いなく減るでしょう」 中小のクリニックだけではなく、すでに夜勤体制がある病院でも新基準はハードルが高い。 ある地方の病院はベッド数300以上で救急救命センターを持ち、外来(通院)患者にがんの化学療法を毎月100件以上行なっている。しかし、夜勤の看護師がいても、化学療法の経験がなければ副作用などの相談に応じるのは難しい。 そのため、この病院では救急対応と化学療法の両方の経験がある医師や看護師で24時間対応のシフトを組むことになるが、それだけの人手は足りないことから、外来腫瘍化学療法診療料の届け出を見送ることを検討しているという。 現在、外来化学療法を行なう医療機関は病院、クリニックを合わせて全国1653にのぼる。そうした医療機関が、がん治療にあたる場合、いずれも化学療法の患者専門の24時間相談体制を迫られる。がんの化学療法専門のドクターがこう警鐘を鳴らす。「タイムリミットの今年10月に向けて、全国的にがんの化学療法を敬遠したり、扱わなくなる医療機関が増え、治療を受けたくても病院が見つからない“がん治療難民”の発生が懸念されます」「こんなに助かっているのに…」 どれだけの患者に影響が出るのだろうか。がんは日本人の「国民病」といわれる。 男性の約65%、女性の約50%が生涯のうちにがんに罹患し、死者のうち3人に1人、年間38万人以上ががんで死亡している。 国立がん研究センターのデータによると、日本のがん患者数(有病者数)は約341万人(2015~2019年。男女計)、2021年に新たにがんになった人(罹患数)は約101万人にのぼると推計されている。 ちなみに年齢別のがん罹患リスクは、60歳男性が10年後までに「がん」と診断される確率が約16%、70歳男性になると約32%にハネ上がる。 しかし、今では、がんは「不治の病」ではなくなった。早期発見や治療法の進歩によって治癒率(5年生存率)がどんどん上昇し、「半分程度は治る」といわれるようになった。 がんの治療法には手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤)、免疫療法などがあるが、治癒率改善に大きく貢献しているのが「化学療法」だ。化学療法を行なっている澤野豊明・ときわ会常磐病院外科診療副部長が語る。「化学療法にはいろんな使い方がある。手術の効果を上げるために事前に抗がん剤でがんの勢いを小さくする方法や、切除手術後に再発を減らすためにも抗がん剤を使う。そして最後が、切除できなかったがんや、再発した人の症状を和らげて患者さんのQOL(生活の質)を高めるために使うケースです」 そのため現在はがん患者の8割が「化学療法」を受けているという調査もある。とくに、最近は免疫療法に抗がん剤を組み合わせた化学療法が大きな成果をあげているという。「オプジーボを代表とする免疫チェックポイント阻害剤が数種類出てきて、様々ながんに効果があるとわかってきた。現在では、膵臓がんや胃がんなどに抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤を一緒に使えるように適応範囲が広がり、治療が本質的に変わってきた。本当にがんが消える人もいるほどです。消えなくてもよく効いていて、すごく長く生きられる人も出てきている。今までの抗がん剤だけではこんなに生きられる人はいなかったなという印象です」(澤野氏) がん患者やその予備群にとって「化学療法」は“命綱”ともいえる治療法だとわかる。 それとともにがんは「通院で治療する」時代になった。 都市部を中心に、大病院が次々に通院専門の外来化学療法センターを設置したり、駅前近くに開業する独立系の専門クリニックが増えた。大病院に入院して手術や治療を受けた患者が、退院後、通院に便利な近くのクリニックで化学療法を受けるパターンが増えている。 化学療法の治療を大病院で受けると非常に時間がかかる。婦人科のがんの治療で都内の大病院に通院する40代の医療関係者の話だ。「朝病院に着いたらまず血液検査です。そして結果が大丈夫であれば抗がん剤の準備の点滴をする。それが終わると本番の抗がん剤治療の順番待ち。私の場合、白血球を増やす薬の点滴もあるので、全部終わるのは夕方、丸1日がかりになります」 その点、冒頭のAさんが通院するような駅前型の専門クリニックの場合、「事前の準備から、抗がん剤の点滴まで3~4時間。午前中に治療を受けて、午後から出社するサラリーマンもいます」(Aさん)という。前出の上氏が背景をこう語る。「大病院はもともと外来はあまり利益が出ない。利幅が出るのが手術。そのため、外来は減らしたほうが収益は改善する。外科医に外来を診させるなら手術をさせたい構造がある。患者にすれば執刀医に診てもらいたいと思うものの、病院側からしたら、手術後の患者は地元に返したい。そこで、リタイアした勤務医などががんの専門クリニックを開業するといった流れが起きた。東京のように医師が多い都市部を中心にそうした選択と集中が行なわれていった」 厚労省はそうした事情をよく知っている。同省が昨年10月に診療報酬改定を審議する中央社会保険医療協議会に提出した資料にも、「悪性新生物(がん)の治療のため、仕事を持ちながら通院している者は増加傾向にある」として、2010年の32.5万人から2019年には44.8万人に増加したことが強調されている。「病院が見つからない」 通院による化学療法のニーズがどんどん高まっているからこそ、制度変更によって治療継続が困難なクリニックが出てくることの影響を懸念する声があるわけだ。患者側のニーズを把握しながら、厚労省はなぜ、診療報酬改定で24時間相談体制を義務化したのか。 医療問題に詳しいジャーナリストの村上和巳氏は、前述の「免疫チェックポイント阻害薬」の普及がきっかけだと話す。「免疫チェックポイント阻害薬は、がんに直接作用するのではなく、がんがストップさせている免疫の働きを活性化させるもの。間接的にがんを倒す薬ですが、大きな効果が見込める半面、投与すると自分の免疫が自分の身体を攻撃するという副作用が出ることがある。しかも、この副作用は多種多様で、いつ誰にどの副作用が出やすいかは今のところ全く不明で、手遅れになれば命にかかわることがある。この薬を使った治療を行なっている病院のなかには院内に対応チームをつくり、患者に緊急連絡先を渡して、“深夜でも連絡ください”と努力している病院もあるが、診療報酬に加算がなかった。そこで今回の改定で24時間相談体制を義務化することになった」 当然ながら、24時間体制の相談窓口があれば、治療を受ける患者にとっては安心である。新しい治療法の副作用リスクに向き合うためにコストをかけている医療機関が評価される仕組みにするという趣旨もうなずける。 一方で、専門家の間でも今回の改定に賛否が分かれているのは、化学療法を行なう全医療機関に一律に適用することで、患者が難局に直面するリスクがあるからだろう。 24時間対応ができない病院に通院している患者の“難民化”を懸念するのは、首都圏で化学療法のクリニックを経営する医師だ。「化学療法といってもがんの種類によって専門科が違う。当院は主に悪性リンパ腫などの患者さんを扱っているが、最近、『治療してくれる病院が見つからない』と皮膚がんや肺がん、乳がんの患者さんが訪ねてくるようになりました。患者の難民化はすでに少しずつ起きています」厚労省は「答えようがない」 専門クリニックに診てもらうのが難しくなれば、患者は多少通院に時間がかかっても、最初に手術などの治療を受けた大病院に頼らざるを得ない。だが、前述のように大病院はもともと利益が出ない外来患者を外部のクリニックなどに出してきた経緯がある。「私が勤務していた大病院でも外来の化学療法患者用のベッド数はわずか。大量の患者を治療するだけのキャパシティがないケースが多い」(同前) クリニックで“治療はできない”といわれ、大病院に通おうにも“患者がいっぱいで受け入れは無理です”と断わられる―そんな事態を危惧する声である。 前出の上氏がいう。「2人に1人ががんで死ぬ時代。この24時間化というのを一刀両断にやると確かに、がん難民の受け皿がなくなるという可能性はある。患者にとって治療してくれる医療機関がなくなることは大変なショックのはずです」 患者の副作用リスク対応のためのルール厳格化によって患者が大変な思いをするのであれば、本末転倒になりかねない。厚労省はどういった現状認識になるのか。 保険局医療課の課長補佐との一問一答だ。──24時間相談体制が組めない医療機関は「外来腫瘍化学療法診療料」を全くもらえなくなるのか。「そうなりますね。でも9月までバトンタッチ期間がありますので、そこで体制を整えることができれば大丈夫です」──相談体制を組むのが難しい病院やクリニックには、外来の抗がん剤治療はやめてしまおうという動きがある。そうなると10月以降に“がん治療難民”が増えるという指摘がある。「そういうことについては……ここではお答えしようがありませんので」 改定にあたって24時間体制を取れている病院・クリニックがどれだけあるのかといったデータを把握しているのかという問いには締め切りまでに回答がなかった。 あなたの病院は大丈夫か。タイムリミットの10月1日まで、残された時間は少ない。※週刊ポスト2022年6月24日号
2022.06.15 16:00
週刊ポスト
渡邉医師がこれまで執刀した大腸がんの腹腔鏡手術・ロボット支援下手術(ダ・ヴィンチ手術)は約4500件
大腸がん手術の“ゴッドハンド”渡邉純医師が追求「再発させない質の高い手術」
 がん以外の良性疾患の手術も含めて週に平均10件、年間約500件の手術を手がける。このうち大腸がん(直腸がん、結腸がん)の手術は年間約300件。横浜市立大学附属市民総合医療センター・消化器病センター准教授の渡邉純医師(46)は、大腸がん手術の“ゴッドハンド”として国内外で知られる。「“手術の質”で術後にがんが再発しやすくなるか、再発しにくくなるかが決まります。特に直腸がんは、膀胱や尿管、前立腺、子宮などの臓器が集まる骨盤の奥の非常に狭いスペースの中での執刀となり、難易度が高い。他臓器や血管、直腸そばに張り巡らされる排尿や性機能を司る自律神経を確実に温存しながら、直腸や転移の可能性があるリンパ節を極薄の膜に包んだまま剥離していく、安全域が狭い手術です」 電気メスで直腸部分を剥離する際、付近の神経にまで切り込んで傷つければ、排尿障害など機能障害が出てしまう。再発させない質の高い手術に最大限努めると同時に、その他の臓器の機能の温存も徹底して図らなければいけない。ミリ単位で鉗子の位置や動きを調整する高度で繊細な技術が求められる手術だが、渡邉医師は滑らか、かつスピーディーに進めていく。 午前7時30分、この日執刀する患者2人の病室に向かう。「患者さんが緊張しないように」と、白衣は着ない。気さくに話しかけ、患者の笑い声が時折、廊下にまで聞こえる。 午前に70代女性の直腸がん手術、午後から40代女性の結腸がん手術を、手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」で“執刀”。通常半日かかるとされる手術を、どちらも約2時間10分で終えた。前者の直腸がん手術は肛門機能を温存する「低位前方切除術」だったが、この執刀を2時間程度で終えるのは驚異的な速さだ。手術時間が短いほど、体への負担は低減する。「下部直腸がんに対し、90%の症例で肛門温存手術を行なっています。手術では直腸がん付近部分を切離した後の腸管を、肛門側の腸管と吻合し、再び便が通じるように再建しますが、腸管のどこを切ってつなぎ合わせるかが大きなポイントです。血流が多い部分でつなぎ合わせると術後の回復がよく、その血流のよい場所を見極める『ICG蛍光法』を手術で採用しています」 血流が少ない部分で腸管を吻合すると、合併症の“縫合不全”を起こす原因になる可能性があるという。「実は日本全体では現在、直腸がん手術後に縫合不全を起こす患者が10%にも上る。1000人手術すれば、100人が縫合不全で再手術や術後に苦しんでいるということです。当院の縫合不全は1.9%と少ないですが、全国の縫合不全を減らし、日本全体の治療成績を上げるための新たな治療開発や研究、若手医師への手術教育にも力を入れて取り組んでいます」 医師を目指したきっかけは、高校3年生の時に「気胸」を患ったことだった。「当時は胸腔鏡手術が普及しておらず、1か月入院し、開胸での手術を覚悟していました。しかし、胸腔鏡手術を受けられる病院が見つかり、手術は小さな穴だけ開けたような傷口で済みました。5日間で退院と回復も早く、手術はすごい! と感激。医学部に進路変更し、外科医を志しました」 消化器外科を選んだのは、切除だけでなく、再建までできるからだった。腹腔鏡手術を始めてから一貫して追求しているのは、高校生の時に自身も救われた手術の「低侵襲性」(身体に負担が少ないこと)。さらに、いま注力しているのが、進行直腸がんに対する「術前治療」(術前放射線化学療法、術前化学療法)だ。「30%の患者さんから直腸がんが消失したという臨床的なデータもあります」 手術の技術力を磨きながら、手術をしない“究極の低侵襲性”治療にも挑む。撮影/太田真三 取材・文/上田千春 図版製作/タナカデザイン※週刊ポスト2022年6月24日号
2022.06.13 19:00
週刊ポスト
大腸がんを早めに見つけるための方法は?
大腸がん早期発見に 検査不安を解消する鎮静剤と快適な「次世代型大腸内視鏡」
 がんの臓器別罹患数トップは大腸がん。早期発見・治療で治るが、死亡者が多いのは内視鏡検査を嫌がる人が多いからと推察されている。そこで第3世代の鎮静剤を用い、眠っている間に検査が終了する快適な大腸内視鏡検査が人気だ。超高感度カメラ搭載の内視鏡を使って4Kの拡大画像で見えにくい場所の病変まで見つけ、小さなポリープは検査時に切除可能だ。 大腸がんは50代で患者が増え、高齢になるほど男性の罹患率が高くなる。早期発見・治療すれば治るがんだが、大腸内視鏡検査を嫌がる人が多い。理由は検査前の下剤服用の面倒や羞恥、検査時の痛みと不快感があるからだろう。それらを解消し、“快適な大腸内視鏡検査”を目指す医療機関が誕生した。 昭和大学江東豊洲病院消化器センターの浦上尚之准教授に詳しく聞く。「検査に伴う痛みと不快感を減らすため、欧米先進国では約20年前から第3世代の鎮静剤を一般的に使っています。しかし、日本では健康保険での使用が認められていません。そこで大学の倫理委員会で承認を受け、保険適用外使用として大学が費用を負担しながら第3世代鎮静剤を使った検査を実施しています」 第3世代の鎮静剤では体重から使用量を割り出すことで、検査終了時に合わせ、すっきりと目覚めることができる。一方、従来の第2世代の鎮静剤は帰宅途中に眠くなるなど事故に繋がるケースもあった。そのため、先月開催された内視鏡学会では事故を減らす目的で、内視鏡検査における適切な鎮静剤の使用についても話し合いがもたれている。 検査で使用される大腸内視鏡は径の細いタイプと太いタイプの2種類がある。細いタイプは挿入時や大腸内移動時の痛みが少ない。ただ画質や視野角にやや問題がある。 太い径の内視鏡は先端に超高感度CMOSカメラを搭載した次世代型内視鏡システム。CMOSカメラは少ない光量で長時間にわたり検査可能で、画像も2Kから4Kと高解像度に向上している。 さらに視野角も従来の140度から170度とワイドになり、今まで観察が難しかった大腸粘膜のひだの裏側や腸がカーブしている場所などの検査も可能だ。その結果、早期発見が以前よりも容易になっている。「次世代型内視鏡システムを導入することで、正確に短時間での検査が可能となりました。検査でポリープを発見した場合、1ミリ程度であれば、その場で切除します。ただし、3ミリまでのポリープが、がん化するのは5~10年程度かかるとされ、切除しないこともあります。年齢を重ねると大腸がんの罹患率は上がるので、男女ともに40歳までには一度、大腸内視鏡検査を受けたほうがよいでしょう。心地よく眠っている間に検査は終了します」(浦上准教授) 消化器センターは消化器内科と消化器外科が一緒になっており、手術が必要な症例に対しては連携して対応する。 また土曜日曜も検査が受けられるので、日程の調整がしやすいのもメリットだ。取材・構成/岩城レイ子 イラスト/いかわやすとし※週刊ポスト2022年6月24日号
2022.06.13 16:00
週刊ポスト
肌を傷つけない正しいセルフケアを(イメージ)
美容意識の高い今どきの小・中・高生に教えたい、肌を傷つけないムダ毛処理のポイント
 インターネット、SNSなどで誰でも様々な情報に触れることができる今の時代、美容に対する意識も変化してきた。以前は美容といえば「女性」のイメージが強かったが、最近では性別・年齢問わず美容に関心を寄せる人が増えている。 医療脱毛専門院『リゼクリニック』が現役高校生を対象に行った意識調査(2022年1月)によると、男女ともにもっとも関心が高い美容は「脱毛」で、そのボディケアに「カミソリを使っている」と回答したのは全体の65.5%だった。 小・中学生の間でもボディヘアへの関心は高い。リゼクリニックが小・中学生を対象に行った「体毛事情(脱毛)」の調査(2021年8月)によると、「体毛が気になる」と答えたのは89.7%で、「体毛処理の経験がある」と回答したのは84.8%に上った。処理をするに至った理由は、「自分自身が気になり始めた」が小・中学生ともに1位で、ボディケア方法は高校生同様「カミソリ」が一番多かった。 ボディケアに「カミソリ」を使う若年層が多いが、肌への負担はないのだろうか。女性医療に詳しいジャーナリストの増田美加さんはこう言う。「最近のカミソリは深剃りすることがないよう配慮されたものもあり、安全かつうまく剃りやすい商品が各社から販売されています。フェミニンゾーン用や背中用など、部位に合わせたカミソリもあります。 体毛が濃くなる思春期には、カミソリでお手入れするのがいいかもしれません。第二次性徴が終わり20代以降になると体毛も変化してきますので、医療脱毛を考えている場合はそれからでも遅くないでしょう。 剃毛の仕方は、例えばフェミニンゾーンの場合、まず長い毛をクルクルねじり1cmの長さまでハサミでカットします。そのあとシェービングフォームをつけ、指2本で皮膚を引っ張りながら剃りましょう。シャワーでさっと流した後、シェービングフォームを足してもう一度深剃りするとキレイな仕上がりになります。ワキなど他の部位も、これに準じた方法で剃ることができます」 簡単に情報が手に入る時代背景からか、いま、脱毛に興味関心のある若年層が多いことは前述した調査でも明らかだが、増田さんは「10代ならではの体の変化も大きく関係している」と指摘する。「脱毛に興味を持つようになる年代が下がってきているのは確かです。特に女性の場合、月経を迎えると体毛が濃くなっていきますが、最近は小・中学生が『脱毛どうしよう』と話題にしていると聞きます。体毛の濃さには個人差がありますが、脱毛が気になる年頃なのでしょう」 増田さんは、「脱毛する場合、エステサロンとクリニックの違いを理解したうえで契約するようにしましょう」と注意を促す。「本来、レーザー脱毛は医療行為なので医療機関でのみ受けることができます。医療クリニックで使用するレーザー機器は照射エネルギーが高く、少ない回数で確実に減毛することができます。肌トラブルを抱えている方でも、皮膚の治療をすれば、レーザー脱毛を受けられる可能性もあります」 レーザー脱毛は公的医療保険が適用されない自由診療のため、クリニックによって費用は異なる。いずれも決して安い金額ではないが、大切な体のことを考えれば必要な選択かもしれない。【女性医療ジャーナリスト・増田美加さんプロフィール】ますだ・みか/当事者視点に立った女性のヘルスケアや医療情報について執筆、講演を行う。雑誌等の連載のほかテレビ、ラジオにも出演。乳がんサバイバーでもあり、がんやがん検診の啓発活動を行う。『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)、『もう我慢しない! おしもの悩み ~40代からの女の選択』(オークラ出版)、『婦人科がんサバイバーのヘルスケアガイドブック』一部執筆(日本婦人科腫瘍学会、日本産婦人科乳腺医学会、日本女性医学学会編集/診断と治療社)ほか著書多数。http://office-mikamasuda.com/◆取材・文/吉田みく(ライター)
2022.06.10 19:00
NEWSポストセブン
「NBI拡大内視鏡」でどういった治療ができる?
罹患数が年々増える大腸がん「NBI拡大内視鏡」の導入で早期発見が可能に
 NBIという特殊な光で検査する内視鏡も登場、がんであるか良性ポリープか画像での診断が行なえるようになった。また、がんがごく浅いところに留まっている症例では、その範囲が広くても内視鏡治療を実施できる。 かつて日本人に多かった胃がんの罹患数は現在、減少しているのに対し、大腸がんは年々増加中で、年間約15万人と、がんの臓器別発症では罹患数1位となった。他の臓器に、がんが転移した状態であるステージ4での5年生存率は20%程度だが、転移していない段階であれば進行大腸がんであっても適切な治療で7割近くの患者が治るため、いかに早い段階で見つけるかが治療の第一歩となる。 昭和大学江東豊洲病院消化器センターの田邊万葉医師に話を聞いた。「大腸がんは症状が出にくく、ステージ4でも無症状の方がいます。患者さんの中には、慢性の便秘だと思っていたり、便に血が混じってはいたが、ただの痔だと思い放置し、その間にがんが進行してしまったケースも珍しくありません。内視鏡検査での早期発見も可能ですが、検査に対する恥ずかしさや下剤を飲むわずらわしさで敬遠する方が多く、それらが早期発見を妨げている現状もあります」 とはいえ、近年の大腸内視鏡技術の進歩は目覚ましく、挿入技術の向上により、検査時間も短くなっている。診断面ではNBIという特殊な光を照射する拡大内視鏡が登場。この青色の光を放つNBIを当てると、粘膜やポリープの表面に血管が浮かび上がるように見える。良性の場合は血管の模様が整然としているのが見て取れるが、がんでは血管の模様に、かなりの乱れが生じているのがわかるのだ。 NBIによって大腸ポリープの表面構造をより細かく観察でき、がん化したポリープの早期診断や、がんの深度の予想も可能になった。またAIが搭載された内視鏡の開発も進み、これまで以上に正確な診断が期待されている。他に治療においても内視鏡での治療可能範囲が広がった。「大腸は粘膜、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の6層構造になっています。粘膜筋板から1ミリまではステージ0~1にあたり、内視鏡で治療可能です。この範囲であれば大きさ10センチを超えるがんでも刃先が1.5ミリの特殊なナイフで焼きながら切除する内視鏡下粘膜剥離術で対応できます」(田邊医師) がんの深達度が深いと診断された症例は、初めから手術が必要な場合がある。ただし、がんの深度が微妙な症例もあり、その場合にはまず、内視鏡で切除し、顕微鏡による病理診断が行なわれ、治療方法が決定される。 このように内視鏡検査もよりよく向上しているので、たとえ軽度な症状であっても専門医での受診をお薦めする。取材・構成/岩城レイ子※週刊ポスト2022年6月10・17日号
2022.06.05 11:00
週刊ポスト
現役高校生が気になる美容第1位は「脱毛」だった(イメージ)
医療脱毛は何歳からOK? 「ムダ毛」が気になる現役高校生に識者がアドバイス
 夏が近づき、半袖など薄着になる機会が増えた。肌を露出することで「ムダ毛」が気になるという人も少なくない。美に対する意識は多様化しており、全員が全員「体毛がないほうが良い」という考え一辺倒ではないだろうが、年頃である現役高校生たちは体毛が特に気になるようだ。 医療脱毛専門院リゼクリニックが高校生の男女200名を対象に行ったアンケート調査(2022年1月)では、現役高校生が「いま最も関心が高い美容」はずばり「脱毛」だった。「自分の体毛が気になる」と答えた高校生は女性100%、男性79%に達する。体毛が気になる理由は「毛が無いほうがキレイ」(54.7%)、「おしゃれを楽しみたい」(35.2%)、「異性の目が気になる」(34.1%)などだった(複数回答)。 高校生たちが普段行っている体毛処理の方法は「カミソリ」が最多(65.5%)で、「毛抜き」や「除毛クリーム」、「電気シェーバー」と続く。また、少数ではあるが「医療脱毛」を行っている高校生もいた(男性2.0%、女性3.0%)。 医療脱毛とは、医師の診察や指導のもと、医療用の機器を用いて行う脱毛方法のこと。施術には医師や看護師などの有資格者があたる(医師が関与しない脱毛を手掛ける美容サロン・脱毛サロンもあり、両者を区別して「エステ脱毛」などと呼ぶ)。身体の成長途上である高校生が医療脱毛を行っても問題はないのだろうか。女性医療に詳しいジャーナリストの増田美加さんに聞いた。「小・中学生の時期から、『脱毛どうしよう』と悩む声は聞きます。ですが、高校生が脱毛をするのにふさわしいタイミングかと言われると微妙です。個人差はありますが、第二次性徴を迎える思春期は体毛が濃くなる時期のため、その最中に脱毛をしても十分な効果を得ることができず、大人になってから脱毛をし直さなくてはいけない場合があるからです。 ですが、体毛のことがきっかけで自身のメンタルやお友達付き合いに支障がでるような場合は、『絶対やってはいけない』というわけではありません。それでも、また体毛が生えてくる可能性があることを理解した上で行いましょう」(増田さん、以下同) 医療脱毛の広告を見ると、「永久脱毛」などと掲げている場合があるが、これは施術すれば「もう生えない」という意味ではないのだろうか?「永久脱毛の定義は『長期的に80%減毛すること』で、1本も生えなくなるという意味ではありません。通常3〜5回の施術で毛が細くなり、密度もまばらになります。色白で毛の色が黒く、生え方がまばらな方ほど少ない回数で済みます。ほとんど生えないようにするには6〜8回程度の施術が必要です」 一方、医療脱毛にかかる費用は、ワキ脱毛で1回5000〜6000円程度、腕全体で1回2万円程度のクリニックもある。前述のアンケートでも少数派であるとおり、高校生がバイト代やお小遣いをやりくりして医療脱毛を受けるのはハードルが高いだろう。脱毛が気になり始めた若い世代に増田さんがすすめるのは「セルフケア」だ。「特に女性は、月経が始まる頃から体毛が濃くなってきます。(濃さの)個人差はありますが、脱毛が気になる年頃ですね。ただ、すぐに医療脱毛を検討するのではなく、まずはセルフケアできるカミソリやシェーバーなどで試してみるのも良いです。安全に使用できるものが各社から販売されています。 もし脱毛を検討するなら、少ない回数できちんと脱毛ができる医療機関を選ぶことをおすすめします。医師の管理のもと麻酔クリームが使えて、痛みを感じずに安心・安全な施術が受けられるからです。一方、脱毛サロンの場合は脱毛レーザーの照射エネルギーが弱いため、回数を重ねる必要があります。 きちんとしたクリニックでは、肌トラブルを抱えた人でも治療をすれば脱毛を行うことができる可能性があります。皮膚科の専門医がいるクリニックであれば、より安心して通えます。その分、費用は割高な傾向にはありますが、医療行為である以上、やけどなどのリスクを考えたらお金には代えられないのではないでしょうか」 高校生が頻繁に利用するSNSでは、「低価格で脱毛ができる」といった広告をよく目にする。飛びつきたくなる金額かもしれないが、増田さんが指摘する「安心・安全」面を慎重に考える必要がありそうだ。【女性医療ジャーナリスト・増田美加さんプロフィール】ますだ・みか/当事者視点に立った女性のヘルスケアや医療情報について執筆、講演を行う。雑誌等の連載のほかテレビ、ラジオにも出演。乳がんサバイバーでもあり、がんやがん検診の啓発活動を行う。『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)、『もう我慢しない! おしもの悩み ~40代からの女の選択』(オークラ出版)、『婦人科がんサバイバーのヘルスケアガイドブック』一部執筆(日本婦人科腫瘍学会、日本産婦人科乳腺医学会、日本女性医学学会編集/診断と治療社)ほか著書多数。http://office-mikamasuda.com/◆取材・文/吉田みく(ライター)
2022.06.03 19:00
NEWSポストセブン
実話を元にした『20歳のソウル』。主演は神尾楓珠
映画『20歳のソウル』 がん発覚から1年半…「生ききった」青年が遺した応援曲と“奇跡”
 千葉県船橋市立船橋高校、通称“市船”(いちふな)には、魂の風が吹いている。 今年、市船野球部は28年ぶりに春季千葉県高校野球大会を制覇。5月22日には春季関東大会に出場し、山村学園(埼玉県) と対戦した。市船が試合をする際、スタンドでとりわけ大きく響いている応援曲は「市船soul」だ。作曲したのは、5年前、がんにより20歳で亡くなった同校OBの浅野大義さん。 浅野さんは正直なところ、市船が第一志望ではなかった。しかしなんとか滑り込んだ市船の吹奏楽部で、生涯の師となる高橋健一先生に出会う。 部活動をする上では、吹奏楽部員なのにソーラン節を踊らされることにも、部員たちと不満のぶつけ合いになるミーティングが頻繁に開催されることにも、疑問を抱いた。もがいた。「何の意味があるのか」とぶつかった。そうした時、いつも高橋先生から教えられたのは、「人間関係」を築くことの大切さ、そして「今しかない時間を大切にする」ことだった。 思春期の浅野さんを、先生の言葉は深く豊かに成長させた。しかし、在学中に作曲の楽しさに目覚め、音大に進むも、浅野さんの身体に胚細胞腫瘍が見つかる。がんだった。 そんな浅野さんが、仲間とともに人生を生き抜いた姿を描いた映画『20歳のソウル』が5月27日から公開されている。浅野さん役を神尾楓珠、吹奏楽部顧問の高橋先生役を佐藤浩市が演じ、福本莉子、佐野晶哉(「Aぇ!group」/関西ジャニーズJr.)、尾野真千子らが共演。音楽を愛した浅野さんの、熱く生きるものがたりを紡いだ秋山純監督に、話を聞いた。「高校野球」がつないだ縁 2017年1月26日。朝日新聞「声」欄が、浅野さんの母・桂子さんからの投稿を取り上げた。浅野さんの告別式に160人以上もの部員、OB、OGが集まって演奏をしてくれたことに触れ、生前、浅野さんが築いた友と恩師との絆に感謝する内容だった。そして同年4月2日付、今度は同紙の「窓」というコーナーで、記者により浅野さんと「市船soul」のストーリーがつづられた。 何気なくその記事を目にした秋山監督には、どうしようもなくこみ上げるものがあった。というのも、監督自身、甲子園を目指す高校生と、それを応援する人たちの絆には並々ならぬ想いがあったためだ。 秋山監督は、新卒入社したテレビ朝日ではスポーツ局に配属。当時、バブル。テレビ局はとりわけ体育会系な業界だった。「右も左も分からない中で、キツくて。入社1年目の夏、自律神経失調症になり、救急車で運ばれたんです。それでもう現場には戻れないと覚悟していたら、先輩が、『熱闘甲子園』のディレクターをやれと。一度倒れている僕にできるのか、と心配する人も多かったんですが、先輩は、過酷だけど得るものも多い番組にチャレンジし、もしそこでダメだったら諦めがつくという考えでした」(秋山監督。以下「」内同) 1981年からスタートした『熱闘甲子園』は、その頃、試合のハイライトを紹介するだけでなく、選手はもちろん、父兄や応援団など、試合にかかわるすべての人を特集するようになっていた。秋山監督は、「いろんな方と触れ合うのが本当に楽しくて、生きていることを実感できた」と振り返る。「高校野球は、“勝った”“負けた”だけではないんですよね。試合の数だけ敗者がいて、勝者は1校。負け方を学ぶところだなと思ったのを覚えています。 球児たちは勝つためにひたむきに努力して、ブラスバンドは大汗を流しながら応援する。みんながものすごい熱量で心をひとつにして、目標に立ち向かう。そして僕も、自分が作った番組を“いいね”と言ってくれる人がいた時、その世界の一員になれたと思えて……。ひと夏を越えると、何か自信がついていました。だから、高校野球は、僕を救ってくれたものなんです」 番組制作にあたっては、球場で刻一刻と変わる状況を前にしつつ、当日オンエアのための構成を考えなくてはいけない。あらかじめ想定したストーリーなんて、あっけなく壊れる。狙い通りにいかなくて当然だ。そのなかで、ブレないメッセージを伝えるためにはどうするか。その後秋山監督はドラマや映画を手がけることになるが、誰かの想いを伝える、という原点は『熱闘甲子園』にあると言う。「試合に出るのも、ものづくりも、自分1人でできることではない。また、何事も柔軟に、臨機応変に、かつスピード感をもって決断していくというのは、すべてあの時叩き込まれました。 高校野球では、9回2アウトからのドラマも当たり前なんですよね。自分の思い描いたようにならない時に、『こうなるはずじゃなかった』と思うんじゃなくて、そうなったことを受け入れなきゃいけないし、じゃあ次はどうしたらいいのか、どういうふうにそれを伝える方法があるのか、常に考え続けなくてはならない」 先に決めつけるのではなく、さまざまな視点から、無数の可能性を探りながら見る。目の前のバッターだけを見ていたら、見えないものがたりがある。「ひとつのセカンドゴロがあったとします。フルスイングでようやく打てた、喜びのセカンドゴロかもしれないし、一回の打席でもう野球をやめようと思っていて、その最後の打席がセカンドゴロだったのかもしれない。すべての背景には、誰かの想いが詰まっているんですよね」神尾楓珠が起こした「奇跡」 映画では、浅野さん――大義の心の動きと、周囲の人々の葛藤が丁寧に織り交ぜられ、見る者に「生きる」とはどういうことかを否応なく突きつける。2015年9月、大義にがんが判明。持ち前のポジティブさで一度は乗り越え、2016年7月には、先生から依頼された演奏会用の楽曲の作曲に着手する。しかし同年8月、脳へ転移。 病魔とたたかう間にも、大義は〈自分の命は音楽を作るためにある〉と鍵盤に向かい続けた。楽曲の名は、『JASMINE』。「ジャスミン」はペルシャ語の「ヤースーミン」が語源とされ、〈神様からの贈り物〉という意味がある。大義にとって、贈り物は「今日という1日」のことだった。 大義を演じる神尾は、ピアノはまったくの未経験。しかし秋山監督は実演奏にこだわり、神尾も猛練習を重ねた。映画では、大義が母親(尾野)に、作曲中の『JASMINE』を弾いて聴かせるシーンがあるが、一度きりの本番で、初めてノーミスだったという。「上手いかどうかといわれたら、もしかするとそうではないかもしれない。でも、弾きたい、お母さんに聴かせたいっていう気持ちって、やっぱり実際に演奏しないと出ないと思ったんです。失敗したらそのまま使うつもりでした。それが、大義のそのときの“言葉”だから。何も〈上手くやること〉が正解ではなくて、この場合〈伝えること〉が正解だから」 圧巻の演奏は空気を震わせ、スクリーンを超えて浅野さんの息遣いを感じさせる。神尾が直前まで苦戦し、ほとんど徹夜で練習していたことを知る現場は湧き、ひとつになった瞬間でもあった。「生きる」ではなく、「生ききる」 秋山監督は、撮影前に俳優やスタッフたちと綿密なコミュニケーションをとっておき、本番は「基本一発撮り」だというが、1シーンだけ、テイク20にも及んだ部分がある。脳転移後、肺に再発した大義が、恋人の前で「(死んだら)全部消えてしまう。なんにも、なくなっちゃう。俺が、なくなっちゃう……」と弱さをさらけ出すシーンだ。 それまで「なんで俺ばっかりこんな目に遭うんだよ!!」とやり場のない思いを叫ぶことがあっても、「逃げるな、自分から」と毅然と前を向いていた大義。その彼が初めて見せたむき出しの慟哭は生々しく、また誰しも一度は考えたことでありながら、普段はフタをしている奥底の魂を揺さぶる。「病気に負けないとは言っても、死ぬのが怖いって当たり前の感情じゃないですか。そこを避けて通ったら、きっと何も伝わらない。その、“からっぽになる”ということへの怖さに対して、神尾くんがまだまだ出しきれる感じがあったんです。後から、“もっとできたはずだ”とか、やり残しを作りたくなかったんです」 映画では、『熱闘甲子園』を経験した秋山監督だからこそ、細やかな光が当てられたシーンや人物も多い。例えば、部長の器なのか悩む女子。野球部だが、怪我をして自棄を起こす男子。大義の病に、「一緒に頑張ろう」と最期まで寄り添った医師。この映画は、それぞれがそれぞれの事情を抱えながら、大義を核としてつよくなっていく群像劇でもあるのだ。「今」は「奇跡」の連続だ、と秋山監督は語る。「一日一日を大切に生きるって、言葉で言うのは簡単です。でも、朝目が覚めた時に、今日という日はギフトなんだって、本当に毎日思うようになりました。大義くんの人生に接したら、死ぬことが怖くなくなったって、高橋先生がおっしゃったんです。彼は本当に生ききった、そうか、俺も生ききればいいんだって。僕も大義くんから、そう学びました」 秋山監督に「生ききる」とはどういうことか問うと、「とにかく逃げないで、夢、今目の前にあるもの、そばにいる人にちゃんと向き合うこと」という答えが返ってきた。遺した楽曲そのもの以上に、大義が伝えてくれることは多い。大義は言う。「人はみんな死ぬ。やるべきことは、生ききることだけ。最後の、瞬間まで」■取材・文/吉河未布映画『20歳のソウル』2022年5月27日(金)全国ロードショーhttps://20soul-movie.jp/監督:秋山純キャスト:神尾楓珠/尾野真千子/福本莉子/佐野晶哉(「Aぇ!group」/関西ジャニーズJr.)/前田航基/若林時英/佐藤美咲/宮部のぞみ/松大航也/塙宣之(ナイツ)/菅原永二/池田朱那/石崎なつみ/平泉成/石黒賢(友情出演)/高橋克典/佐藤浩市脚本:中井由梨子原作:中井由梨子「20歳のソウル 奇跡の告別式、一日だけのブラスバンド」(小学館刊)/「20歳のソウル」(幻冬舎文庫)
2022.05.28 07:00
NEWSポストセブン
コブや腫瘤が発生する自己免疫疾患をIgG4関連疾患という
コブや腫瘤が発生する「IgG4関連疾患」の提唱で膵臓がん誤診から患者を守る
 全身の様々な臓器に炎症が起こり、コブや腫瘤が発生する自己免疫疾患をIgG4関連疾患という。免疫の異常で発症し、免疫グロブリンIgG4が増加する。過去に膵臓がんと診断された症例で、IgG4関連疾患のひとつである自己免疫性膵炎だったのが判明したことも。結局、必要のない手術が行なわれた。ステロイドで治る良性の病気なので、専門医での確定診断が大切だ。 体に痛みを伴わないコブや腫瘤が発生すると高齢者はまず、がんを疑う。それらの症例の一部に自己免疫疾患のIgG4関連疾患が混ざっているのがわかってきた。このIgG4関連疾患は2000年代になり認識された病気で、それまでは発生臓器ごとに様々な病名が付き、原因不明の疾患とされていたのだ。 IgG4関連疾患は硬膜、下垂体、涙腺、唾液腺、甲状腺、乳腺、肺、膵臓、胆管、胆のう、肝臓、腎臓、前立腺、消化管、リンパ節など全身の臓器に発症する。これらの臓器にリンパ球とIgG4陽性形質細胞が浸潤し、線維化によってコブや腫瘤ができる。 がん・感染症センター都立駒込病院の神澤輝実院長に話を聞いた。「私の専門は胆管と膵臓なのですが、膵臓がんと類似した画像所見を示す自己免疫性膵炎の研究をしている中で、2003年に全身性の自己免疫疾患はIgG4関連疾患であるという新しい概念を提唱しました。その後、医療現場で他臓器の疾患にもIgG4関連疾患が発見され、広く注目されるようになったんです」 IgG4関連疾患の病因は解明されていないが、環境因子と遺伝的要因に免疫反応の異常が重なり発症するのではないかと推察されている。一般に自己免疫疾患の膠原病は若い女性に多いが、この病気は特に高齢男性に発症する。 以前はミクリッツ病と診断されていた両眼の涙腺が腫れる病気もIgG4関連疾患と判明。ただ涙腺や唾液腺の腫れは外からわかるが、体内の臓器での発症は見えないため、腫瘤がかなり大きくなり症状も出て、初めて発見される症例が多い。 他にも自己免疫性下垂体炎、間質性腎炎、後腹膜線維症、大動脈周囲炎などと呼ばれる疾患の一部もIgG4関連疾患である。 なにより危険なのは、膵臓に腫瘤ができる自己免疫性膵炎の6割に黄疸が出て、診断画像も膵臓がんと似ているので、そのように診断されたケースもあったことだ。「IgG4関連疾患を知っていれば、血液検査によりIgG4値を調べることで鑑別が可能です。一部の膵臓がんもIgG4値は上がるのですが、この疾患の場合、9割以上高くなります。膵臓がんで手術した症例のうち、2.5%が自己免疫性膵炎だったとの報告もあります。」(神澤院長) 治療はステロイド剤のプレドニンを1日6錠程度服用する。1~2週間で効果が出始め、2週間ごとに1錠ずつ減らしていく。2か月程度で改善する症例が多いが、再燃防止のために、その後1~3年は少量のステロイドを継続することがある。ステロイドで効果がない、あるいは減薬や薬を止めると再燃するケースが難病指定されている。取材・構成/岩城レイ子 イラスト/いかわやすとし※週刊ポスト2022年6月3日号
2022.05.26 16:00
週刊ポスト

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