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ビジネス、経済、マネーなどに関するニュースを集めたページです。注目業界・企業の最新動向や、世界の金融情勢、株式・為替のトレンドや投資術なども紹介します。

“外見は日本産、中身は中国産”の薬が一般的になった背景は?(イメージ)
医薬品市場で存在感高める中国 “外見は日本産、中身は中国産”の薬が一般的に
 抗アレルギー薬、胃腸薬、降圧剤など多くの患者が服用する薬が今、全国的に「供給不足」に陥っている。「臨床現場では一部の薬の仕入れ量がどんどん減り、入手できなくなりました。現状は代替薬で対応できていますが、今までこんなことはなかった」 ナビタスクリニック川崎の谷本哲也医師はそう語る。最近の報道では、いつもの薬がなく何度も薬が変わったせいで、体調不良を訴える患者のケースも伝えられている。 供給不足となっている薬の多くはジェネリック医薬品(後発医薬品)だ。背景には、近年相次いで発覚した製薬メーカーの不祥事がある。 ジェネリック製造大手「日医工」(富山市)では、2020年2月、製造工程や出荷検査における長年の不正が発覚。「小林化工」(福井県あわら市)では、2020年12月、水虫薬に睡眠導入剤が誤って混入し健康被害が起きていた事実が判明した。両社とも「業務停止命令」処分を受けたことで、商品の出荷再開が遅れる事態となった。 供給不足を招いた要因がもう1つある。コロナ禍で薬の原料である「原薬」や化学物質の供給不足に陥っているという問題だ。 その原因は中国の「ゼロコロナ政策」にある。今年に入っても3月末から上海市で再びロックダウン(都市封鎖)するなどコロナ封じ込めに躍起になっている中国では、物流が滞る事態が常態化している。その影響は日本にも及んでおり、薬の原料が届かず、薬の製造が予定通りに運ばない事例が多数報告されているという。 あまりイメージがないかもしれないが、実は工業製品などと同様に医薬品の世界にも“中国頼み”の現状がある。 2010年代初頭まで、日本の製薬会社の原薬は日本と欧州で生産されたものが大半を占めていた。潮目が変わったのはここ数年のことで、きっかけは前述したジェネリックの世界的な普及・拡大だ。世界シェアは4割 急激な需要拡大に伴って価格競争が激化。「より安価で大量」に供給が可能な中国やインドなどの新興国産の原薬のニーズが高まったのだ。 2014~2016年にかけ、上海のクリニックで日本人駐在員や英語圏の患者の診療を行なっていた一石英一郎医師(国際未病ケア医学研究センター)が当時を振り返る。「当時の上海近郊では世界最大規模の製薬工場が建設中で、『中国は薬で世界一を目指す。大量に安価な薬を作って、全世界に供給する』と宣伝していたのを覚えています」 欧米や日本に比べ工場の建設コストや人件費の面で優位だったことが、世界の医薬品市場における中国の存在感を高めた要因だと考えられる。さらに当局の“緩さ”も中国シフトを加速させた一因だと一石医師は見る。「薬の原料となる物質の化学反応に欠かせない『フッ素化』や『塩素化』などの生産工程では現場作業にリスクが伴うし、大気、水、土壌に化学廃棄物を残す問題も生じる。先進国では問題視されるが、中国は製薬大国になるため、あえて“厄介な部分”を担っていた面があるのでしょう」 いまや、中国の原薬生産における世界シェアは4割に達した。ここ数年、日本でも「原薬」の登録件数は中国企業が首位に立ち続けている。つまり我々が普段飲んでいる薬は“外見は日本産、中身は中国産”のケースが多いということだ。 そもそも「原薬」とは何か。「原薬は薬が作用するための一番大事な有効成分です。多くの薬は化学物質を原料とし、それを合成したり不純物を取り除いたりして原薬が製造されます。その薬の“素”となる原薬が、温度や時間で変化しないよう添加剤を加えて安定化させ、コーティングやカプセルに入れることで、患者さんが普通に飲んでいる薬の形になります」(谷本医師) 日本で使われる原薬の製造方法などを審査しているのが、厚労省所管の独立行政法人「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」である。PMDAはホームページ上で「原薬等登録原簿(マスターファイル)」を公示しており、登録の原薬が国内外のどの業者が製造したものかを確認できる。 PMDAの広報課が説明する。「マスターファイルは医薬品の審査に必要な『原薬の製造方法・管理、品質管理などの情報』について、原薬製造業者のノウハウを保護する目的で作られた制度です。原薬の製造業者はこの制度があることで、日本の製薬会社を通さずにPMDAの審査を受けられます」 公示されているのは登録済みの原薬の一覧だ。日本の製薬メーカーは薬を製造する際にこのリストの原薬を使用、加工して販売する。 同ファイルを見ると、近年の登録は中国の原薬業者が多いことがわかる。本誌・週刊ポストは2020年以降に登録された原薬のうち、中国の業者が登録した薬を抜粋し、別掲の一覧表に示した。この表を見ると、「中国産の薬」が身近な存在であることが窺える。※週刊ポスト2022年6月10・17日号
2022.05.30 11:00
週刊ポスト
かつての王者、TBSラジオの凋落に歯止めはかかるか
かつての王者、TBSラジオが聴取率調査4位に転落の衝撃 凋落に歯止めはかかるか
 TBSラジオが目指す方向はどこか──。『4月度首都圏ラジオ個人聴取率調査』(ビデオリサーチ調べ)が発表され、TOKYO FMが0.7%で半年ぶり2度目の単独トップに輝いた。2位にはニッポン放送とJ-WAVEが0.6%で並んだ。かつての王者であるTBSラジオは0.5%で4位に転落して、業界に衝撃が走っている。ラジオ局関係者がその背景を解説する。「この結果は、必然かもしれません。2018年に就任したTBSラジオの三村孝成社長は『聴取率調査』ではなく、パソコンやスマホで放送を聴ける『radiko』(ラジコ)のデータを重視していますからね。たしかに、そのほうが実数値を測れます。 ただ一方で、ラジオ受信機で聴いている人もたくさんいる。だから本来なら、片方だけではなく、両方に力を入れたほうがいい。しかし、『聴取率調査』に豪華ゲストを呼んだり、プレゼントを上げたりする『スペシャルウィーク』を廃止し、復活する気配もない。あまりにドラスティックな改革に社員やパーソナリティだけでなく、リスナーも困惑した。それが徐々に“TBSラジオ離れ”を促し、4位転落という結果に現れたのではないでしょうか」(以下同) 同局は『大沢悠里のゆうゆうワイド』や『荒川強啓デイキャッチ』などの帯番組が人気で、『聴取率調査』で2001年8月から昨年4月まで119期連続1位を獲得した。「聴取率が良いので、20年近くタイムテーブルをいじる必要がほとんどなかった。ラジオは習慣のメディアと言われ、リスナーはあまり周波数を変えない。そんな理由もあってか、約20年もTBSラジオは1位を続けられました。しかし、パーソナリティの高齢化も進んだことで、近年は帯番組が頻繁に変わっており、改編のたびにリスナーを失っている印象です。年齢によるパーソナリティ交代は仕方ないにしても、バトンの受け継ぎ方が迷走しているように感じます」 2020年6月に土曜午後の『久米宏ラジオなんですけど』が久米本人の意思で終了。同時間帯はバービーの『週末ノオト』に託された。しかし、期待していたような成果が出なかったのか、今春で幕を閉じた。その枠には現在、『井上貴博 土曜日の「あ」』が放送されている。「久米さんからそのまま井上アナに引き継がれていれば、リスナーはあまり離れなかったと思います。2人にはTBSのアナウンサーという共通点があり、世代を超えてバトンを引き継ぐという物語も生まれた。でも、久米さんからバービーではあまりに毛色が違い過ぎて、『ラジオなんですけど』のリスナーの中には、番組から離れてしまった人もいるでしょう。“習慣のメディア”であるラジオは、一度離れたリスナーを取り戻すのは難しいんですよ」 今春にはTBSラジオの顔とも言えた『伊集院光とらじおと』も終了し、『パンサー向井の#ふらっと』が始まっている。「局は伊集院さんを午前ワイドに三顧の礼で迎え、今後も長く続く番組になると思われていた。だからこそ、リスナーにとっても終了の喪失感は大きい。向井さんは火の中の栗を拾う覚悟でしょうし、生粋のラジオ好きですから、そのうち評判を呼ぶと思いますよ。ただ、当面は苦戦するかもしれません。それをTBSラジオが我慢できるかがポイントです」 聴取率調査よりradikoのデータを重視するよう舵を切ったTBSラジオの行く末はいかに。
2022.05.25 17:00
NEWSポストセブン
東京大空襲でも店舗は奇跡的に焼け残った
創業1781年、東京最古の駄菓子屋・上川口屋13代目店主 老舗継続への迷いも
 手頃な価格の駄菓子は、いつの時代も子供たちの味方だ。砂糖、小麦粉といった原料や梱包資材、輸送代は値上げの一途を辿るが、駄菓子業界の大人たちはギリギリの薄利で今日も作り、売り続けている。はたして今後も商いを続けていけるのか。東京最古の駄菓子屋の店主に話を聞いた。「20代の頃は日暮里の駄菓子問屋街へ通って、商品を風呂敷で担いで仕入れてたの」──上川口屋の内山雅代さんはそう語る。 雑司ヶ谷鬼子母神堂の境内で、上川口屋が飴屋として創業したのは1781年(天明元年)。後に駄菓子屋へ宗旨替えしつつ、一族の女性が代々店主を務めてきた。店舗は東京大空襲でも奇跡的に焼け残った。 初代から数えて13代目となる内山さんは60年以上、おこづかいを握って通う子供たちの成長を見守っている。 ただし利益は1か月あたり2万円少々で、後継者に店を継いでもらうべきか迷いがある。「今はコンビニエンスストアにも駄菓子が並んでいるでしょ。若いお母さんがやってくると『あら、コンビニと同じものが売ってるわ』と言って、それで終わってしまうのよ」(内山さん) 江戸時代から続く老舗で、店主とテンポよく会話し、素朴な味わいの駄菓子を選ぶ。このプライスレスな空間は、ぜひ後世へ長く残っていってほしい。取材・文/山本真紀 撮影/古川章※週刊ポスト2022年5月27日号
2022.05.22 16:00
週刊ポスト
鍵屋製菓の「ふ菓子」生産現場。タレを満遍なくまとった麩が乾燥台に載せられる(撮影/古川 章)
子供の味方「駄菓子」 麩菓子、きなこ棒の工場密着で見えた「手作業のこだわり」
 手頃な価格の駄菓子は、いつの時代も子供たちの味方だ。砂糖、小麦粉といった原料や梱包資材、輸送代は値上げの一途を辿るが、駄菓子業界の大人たちはギリギリの薄利で今日も作り、売り続けている。苦境の中でも職人の手作業にこだわり、専業工場でそれぞれ「麩菓子」「きなこ棒」のみを製造する下町の2軒を訪ねた。「駄菓子」が誕生したのは江戸時代。砂糖が贅沢品であった頃、未精製の黒糖などを原料とし、庶民も入手できる価格で販売された。当時は1文(現在の価値で約20~30円)で買えるため「一文菓子」との別名を持ち、厘、銭、円と貨幣単位が移っても、低い価格設定はそのまま今日に至る。 ここ数十年で大きく変わったのは、作り手の顔ぶれだ。一製品のみ担う職人的な駄菓子工場が、後継者不足や売り上げ低迷で次第に勢いを失い、複数の製品を並行して大量生産しコストダウンを図る大手メーカーへと主流が移りつつある。今回紹介する「麩菓子」「きなこ棒」を製造する2軒は、そんな中でも奮闘する専業工場だ。麩菓子(鍵屋製菓) 毎朝7時から本格稼働に入る鍵屋製菓。出来立ての麩菓子が、夕方4時までベルトコンベア上に延々と連なる。麩菓子は衝撃に弱く、コンベア上ですでに割れているものも。欠けの生じていない麩菓子のみ選別したのち、梱包担当のスタッフ6人はひたすら袋詰め作業に没頭する。 1日の生産量は約4万本。嵩のある菓子だけに、麩菓子の詰められた段ボールは倉庫スペースで山をなすが、問屋のトラックが横付けされた瞬間、あっという間に空っぽとなった。 24年前に父の跡を継ぐべく入社した根本和浩さん曰く、「新規の問屋から取り引きをお願いされるが、工場にはこれ以上マシンを追加できず、生産数に限界があって受け入れ難い」。 小麦の価格高騰で値上げの日は着々と近づいているが、壊れた麩菓子を工場で安く直売するなど無駄を省く努力は怠らない。きなこ棒(どりこ飴本舗 西島製菓) 鍵屋製菓と同じく東京・錦糸町に工場を構える西島製菓が扱うのは、きなこ棒のみ。水、黒糖、水飴、きな粉と材料はシンプルだが、生産には熟練の技が必要だ。代表の西島誠さんは、材料を混ぜるたび粘度の変わるペーストに合わせ、ペーストを円筒形に押し出す機械の圧力をつきっきりで調整している。 きなこ棒といえば当たり棒の存在が欠かせない。食べ終わった後、つまようじの先が赤いと当たり。駄菓子屋でそのようじを渡せば、もう1本無料でもらえる。1箱45本入りのうち、当たりは5本。原材料や梱包資材は年々値上がりし、過去には価格を据え置いたまま当たりの数を減らす苦渋の決断もした。「店頭で当たりを引くと、誰もがうれしくなる。そこがまた、駄菓子の醍醐味じゃないでしょうか。だからこれ以上、当たりは減らせません」(西島さん)その他の「ロングセラー駄菓子」 駄菓子のお手頃価格は、企業努力の賜物だ。その他のロングセラー駄菓子7品を紹介しよう(価格は、東京「上川口屋」の店頭価格。すべて税込)・ココアシガレット 44円/オリオン──昭和26年発売、ハッカも香る砂糖菓子・甘いか太郎 33円/菓道──メンタイ風味、キムチ味の2種あり・中野の都こんぶ 54円/中野物産──昆布問屋の丁稚をしていた社長が開発・コトブキラムネ 140円/鈴木鉱泉──容器はペットボトルに替わって軽量化・すもも漬け 54円/中野産業──漬け汁の甘酢まで 飲み干すのがお約束・キングドーナツ 54円/丸中製菓──しっとりとした食感と腹持ちのよさで人気・どんどん焼 ソース味 33円/菓道──もんじゃ焼きをベースにしたスナック取材・文/山本真紀 撮影/五十嵐美弥※週刊ポスト2022年5月27日号
2022.05.21 16:00
週刊ポスト
ラーム・エマニュエル駐日米国大使公式Twitterより。阪急電車の座席の乗り心地をとても気に入った様子
駐日米国大使が賞賛した阪急電鉄「ふかふかの座席」の秘密
 鉄道車両やバス、航空機などの座席シートには、耐久性だけでなく肌触りが滑らかで座り心地がよいことが求められる。その条件をそなえた「モケット」と呼ばれる布地の一種が鉄道車両に使われている。駐日米国大使に”Love the really plush seats!”「ふかふかの座席」と賞賛された阪急電鉄の座席について、ライターの小川裕夫氏が、なぜ「ふかふか」なのかの秘密に迫った。 * * * ラーム・エマニュエル駐日米国大使が5月11、12日に大阪府と兵庫県を訪問。大使は、両県の移動に阪急電鉄を利用。阪急のふかふかのシートに感嘆し、「ハンキューベリマッチ」と上機嫌にダジャレをツイート。これがバズったのだ。 エマニュエル駐日米国大使は、今年2月にも神奈川県横須賀市にある在日米海軍横須賀基地を視察するために京急電鉄に乗車している。その際、大使は夫人同伴で通勤電車に乗車した。SPが警護していたとはいえ、アメリカの大使が特別列車ではなく、一般乗客と混乗の電車に乗ったことは大きな話題になった。 こうしたことからも、エマニュエル駐日米国大使が鉄道ファンであることは窺える。では、大使が感嘆した阪急電車のふかふかシートとは一体どんなものなのか?「阪急電鉄は、お客様が快適にご乗車できますように座席には工夫を凝らしています。座席は快適性を追求し、盃ばねと呼ばれる弾力性に優れた円錐形のばねを組み込んだ金枠、それに帆布生地、フェルト生地、スポンジクッション、ゴールデンオリーブ色のアンゴラ山羊の毛を使用した表地といった5層構造になっています」と話すのは阪急電鉄広報部の担当者だ。 担当者が口にしたゴールデンオリーブと呼ばれる鮮やかな緑色は、阪急が長年にわたって座席に使用している伝統色。阪急電鉄広報部によると、「いつから使い続けているのか不明」とのことだが、1960年に登場した2000系から使用されるようになったと言われている。 伝統色を使い続けていることからも、阪急が座席に対して特別なこだわりを持っていることは窺える。しかし、それだけでは阪急のシートがどれだけ快適なのかはわからない。「ゴールデンオリーブの表地に使用している山羊の毛は、起毛の復元力が高く、汚れにくく、毛抜けも少なく、感触がいいのが特徴です。起毛の長さは0.5ミリメートル単位で調整して、手触りがよいと感じる現在の長さに決めました」(阪急電鉄広報部) また、阪急は高品質なシートを設置するだけではなく「埃などが起毛につきやすいため、ブラシ付きの掃除機で丁寧に清掃しています」(阪急電鉄広報部)とメンテナンスにも細心の注意を払っている。阪急はモヘア100パーセントのモケット 座席に快適性を追求する鉄道会社は、阪急だけではない。日本国内の鉄道会社は座席の快適性を高める工夫に余念がない。ふかふかな座席を実現するため、鉄道各社は織物メーカーと協力してモケットと呼ばれる織物には特に力を入れる。 モケットとは、化学繊維やウールなどのパイルを織り出し、布の片面に模様をつくる織物のことをいう。モケットは乗客の肌に直接触れる部分でもある。肌触りは座り心地にも連動する。それだけに、手を抜けない。「モケットの素材には、ポリエステルやナイロン、モヘアなどが使われます。鉄道各社の方針や観光列車or通勤列車といった用途によってもモケットの素材に何を使うのか変わってきます。そのため、一概に比べることは難しいのですが、阪急はもっとも高価な素材であるモヘアを100パーセント使用したモケットです」と教えてくれたのは、鉄道車両のモケットを開発・製造する日本シールの竹野林太郎さんだ。 日本シールは今年で創業100年を迎える繊維製品メーカーの老舗で、東海道新幹線の0系をはじめ、多くの鉄道・バスの座席シートを手掛けてきた。 座席の快適性が向上しても、鉄道会社の収益には結びつかない。それでも、多くの鉄道会社はやメーカーは快適性を向上させるために工夫を重ねる。しかし、近年は経営合理化の方針もあり、安い素材を使うような流れになっている。 以前まで、阪急の車両にはモヘアのほかにナイロンを使っているシートもあった。しかし、少しずつモヘアへと切り替え、今はモヘア100パーセントになっている。つまり、阪急は経営合理化で切り捨てられがちな座席の快適性を高めているのだ。それ以外にも、阪急の座席には秘密があると竹野さんは言う。「鉄道車両の座席に使われるモケットのパイル長は、おおよそ2.7から3.0が一般的です。パイル長が長くなればなるほど、ふかふかな感触になります。阪急のモケットは、4.7~4.8ミリメートルぐらいと、通常よりも1.5倍も長いのです」(竹野さん) 鉄道ファンには、乗ることに楽しみを見出す乗り鉄、撮ることに熱中する撮り鉄などがいる。近年、これらは細分化している。乗り鉄の一形態として、各列車の座席を比べる座席鉄という鉄道ファンという分類も出てきた。 座席鉄にも好みがあり、どの座席がベストなのかは各々で判断がわかれる。それでも、おおむね新幹線のグリーン車や豪華な観光列車の座席を快適とする傾向にあるようだ。 鉄道ファンでなければ、いちいちシートの快適性を気にすることはないかもしれない。まして、乗り比べなどはしない。それでも、潜在的に快適な座席に座りたいという欲求はあるはずだ。 日本シールはコロナ禍で鉄道車両の新造が減少したことを受け、モケットを使用したグッズ制作にも事業を多角化した。現在、日本シールは鉄道各社のモケットでカバン・ペンケース・サイフといったグッズをネット販売している。これらのグッズは鉄道ファンや沿線住民を中心に好評を得ているが、一連のグッズ販売によって普段は座席の快適性を気にしなかった利用者から「いつも乗っている電車のシートって、こんなに手触りがいいんだな」と再確認してもらえるという、副次的な効果を生んだ。 阪急ほどではないにしても、全国の鉄道各社は運賃のみで乗車できる列車に上質な座席を用意している。大使のツイートを機に、改めて自分が使っている列車の座席に目を向けてみたら、それが実感できるだろう。
2022.05.18 07:00
NEWSポストセブン
元内閣情報調査室トップが日テレに(時事通信フォト)
「日テレに“天下り”」 元内調トップで安倍氏側近、北村滋・元内閣情報官の転身で波紋
 安倍政権時代に「官邸のアイヒマン」と呼ばれた大物警察官僚の北村滋氏が日本テレビホールディングス(HD)と子会社の日本テレビ放送網の監査役に天下り予定であることが波紋を広げている。日本テレビHDが役員異動として発表した。就任は6月29日になる。 北村氏といえば、警察庁でスパイや国際テロ対策などを担当する外事畑を歩き、第1次安倍内閣では首相秘書官を務めた。その後、兵庫県警本部長や外事情報部長などを歴任して民主党政権末期に内閣情報調査室トップの内閣情報官に就任し、第2次安倍内閣が発足するとそのまま留任、足かけ8年にわたり内閣情報官として内調を仕切った。「官邸のアイヒマン」の異名は、この内閣情報官時代に内調の情報力を駆使して数々の官邸がらみのスキャンダルの“火消し”に動いた手法に対し、それを警戒するメディア側がそう呼び始めた経緯がある。 その一つが安倍政権を揺るがせた加計学園問題だ。同学園の獣医学部新設計画をめぐっては、内閣府から「総理のご意向」と伝えられたという文部科学省の経緯確認文書の真偽が争点となり、前川喜平・元文科事務次官の「文書は本物」という証言で官邸は窮地に追い込まれた。 そのタイミングで読売新聞が前川氏の「出会い系バー通い」をスクープし、証言者の前川氏はスキャンダルにさらされた。 当時、この「出会い系バー通い」は警察が情報をつかみ、北村氏が仕切る内閣情報調査室ルートで官邸にあげられ、官邸からリークされたものとの見方が様々なメディアで報じられ、北村氏の情報収集力の高さを物語る“伝説”のひとつとなっている。 北村氏は安倍晋三・元首相や菅義偉・前首相の信頼が厚く、2019年には安全保障の司令塔を担う国家安全保障局長に抜擢。菅前政権まで務めた。国家安全保障局長時代には当時のトランプ米大統領、プーチン・ロシア大統領と相次いでサシの会談をするなど官僚としては異例の外交手腕を見せたことでも知られる。文字通り安倍―菅長期政権を陰で支えた「官邸官僚」の1人だ。 一方の読売・日本テレビグループはこれまで大物財務官僚の天下りを受け入れてきたことで知られる。 真砂靖・元財務事務次官は退官後、日本テレビHD社外取締役などを務め、現在は読売新聞グループ本社監査役。増税路線で知られた勝栄二郎・元財務事務次官は読売新聞東京本社非常勤監査役を務めたが、この6 月には北村氏と同時に日本テレビHDと日本テレビ放送網の取締役に就任する予定だ。 しかし、同じ大物官僚の天下りを受け入れるにしても、国の財政を所管してきた財務官僚と警察官僚とでは意味が違う。ましてや「政府の情報機関」の“伝説のトップ”が大メディアの監査役に就任することは日本テレビの報道にどんな影響を与えるのか。 メディア界には、「日テレの御用メディア化が一段と進むのではないか」(ベテラン政治記者)と衝撃を与え、岸田文雄・首相サイドは「安倍元総理へのメディアへの影響力が強まるのではないか」と警戒している。 日テレに取材すると、「個別の人事につきましてはお答えしておりません」(広報部)とのことだった。
2022.05.17 16:00
NEWSポストセブン
「日本はいずれ存在しなくなるだろう」の真意は?(写真/AFP=時事)
イーロン・マスク氏「日本はいずれ存在しなくなるだろう」“衝撃予言”の真意
 米電気自動車大手テスラのCEOを務めるイーロン・マスク氏が5月7日、ツイッターで「当たり前のことを言うようだけど、出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう」と投稿。突然「日本」が名指しされたことが波紋を広げ、「日本消滅」がトレンド入りして、ニュースやワイドショーでも取り上げられた。 テスラ社がヒト型ロボット「オプティマス」の開発を進めていることから、「(人手不足を補うための)自社のロボットビジネスを拡大するための発言なのでは」とする声や「マスク氏は火星移住が最終目標だから、早く地球に人を溢れさせたいのでは」といった憶測が飛び交った。 マスク氏の「日本消滅発言」の真意は一体どこにあるのか。本人への取材経験もあるジャーナリスト・大西康之氏は「極めてマスク氏らしい発言」と冷静に読み解く。「マスク氏は自身がアスペルガー症候群だと明かしていますが、とにかく思いついたことをそのまま言うところがあるようです。現実的に考えたらいろんな要素があってその通りにはいかないよ、ということでも理論上成立すれば真面目に語る。 これまでにも、環境破壊が進めば人類は地球に住めなくなるからと、ガソリン車をやめてEV車を開発したり、さらにその先も見据えて、火星移住計画に取り組んだりしてきた。今回の発言も、出生率が死亡率を上回らない限り日本が消滅するというロジックは間違っていないよね、というだけのことでしょう」 とはいえ、人口減少の問題に直面している国は日本だけではない。「名指し」されたことをポジティブに捉え、「マスク氏は日本に期待して鼓舞しているんだ」といった声もネットにはみられたが、大西氏はもっとシンプルな読み方をする。「日本に対して特別な思いがあるからというよりは、日本が先進国の中でも特に少子高齢化が進み、人口減少社会の先頭を行っているからでしょう。このままいくと最初に日本が滅び、それはいずれ地球レベルで起きることなのだという、全人類の未来への警鐘であり、彼なりの大真面目なメッセージだと考えられます」 ビジネスの世界でマスク氏は、実現不可能と思われる未来を“予言”し、次々と現実のものにしてきた。今回については、現実とならないことを願いたいが……。※週刊ポスト2022年5月27日号
2022.05.17 07:00
週刊ポスト
(イメージ)
少子化の加速は深刻 大前研一氏「背景にある『戸籍』を見直すべき」と提言
 日本をはじめ、韓国や中国も、深刻な少子化問題を抱えている。韓国は合計特殊出生率が0.81にまで落ち込み、中国は以前の「1人っ子政策」から「3人っ子政策」へ方向転換したが、その効果はまだ見えていない。アジア各国で経済アドバイザーを務め、国家戦略に参画してきた大前研一氏は、その背景には、それぞれの国の社会制度や文化があると指摘する。 * * * 中国は1979年以降、爆発する人口を抑制するために半ばパニックになりながら、1組の夫婦につき子供は1人だけという「1人っ子政策」を実施してきました。しかし、それが行き過ぎてしまい、今度は日本よりも早く少子高齢化が進む可能性が出てきて、慌てて軌道修正し始めています(図表1参照)。 まず、2016年から地域を限って2人まで産んでいいとする「2人っ子政策」に転換しました。それで、1年だけ反転する気配が見られましたが、そのあとまた減り続けています。そこで慌てて今度は2人の制限も解除して、2021年からは3人目の出産も容認しましたが、まだ下がってきています。最新の数字では、2021年の出生数は1062万人で、1949年の建国以来最少となり、合計特殊出生率も1.1〜1.2と日本より低くなると報じられています(日本経済新聞2022年1月18日付)。 その結果どうなるかというと、女性が強くなります。統計上は、男女比が2%しか違わないのですが、適齢期で男性のほうが余ってしまっているとなると、年収はいくらで、どんなマンションを所有しているか、といった評価の対象となります。また今は、アリババグループ傘下のアントグループ(螞蟻集団)が普及させた個人の信用サービス「芝麻(ゴマ)信用」というものがあり、このスコアが750点以上ないと女性をデートにも誘えないなどと言われています。出生率が最低レベル0.81となった韓国 一方の韓国は、前述したように、合計特殊出生率がOECDの中でも最低の0.81まで下がってしまい、2020年には、生まれた人のほうが死んだ人より少なくなり、初めて人口減少に転じました(図表2参照)。 韓国は、日本と同じように結婚してから子供を産むという社会通念が根強く残り、結婚せずに出産する未婚の出生率は2.2%です。OECDの平均が41.5%なのに対して、韓国と日本だけが2%台にとどまり、婚姻数の減少と相まって減少傾向が続いています。 また韓国の場合は、とくにエリート社会という傾向が強く、良い学校に行って、良い会社に就職できないと、社会的に恵まれないという社会でもあるため、どうしても結婚や出産をためらう人が増える──それが大きな問題になっています。 もう1点、女性に対する蔑視・偏見が日本より強いということが挙げられます。たとえば韓国は結婚の橋渡しをする「仲人」の存在がまだ大きい(日本ではすでに減少)のですが、その仲人が女性の結婚条件(年齢は25歳までなど)を厳しくつけるケースが多いようです。そういった韓国固有の文化も、少子化対策を難しくしている一因と考えられます。未婚率の増加が少子化に直結 拙著『経済参謀』でも政府が取り組むべき課題の筆頭として少子化問題を取り上げましたが、日本の場合には、結婚した夫婦は平均して2人の子供をつくっています(図表3参照)。つまり、結婚したら子供は2人ぐらい産みたいと考える夫婦が多く、理想の家族像を聞くと、4人と答える人が多いのです。 ただ、それもだんだんと難しくなってきていて、そもそも結婚しない人が増えている上、晩婚化も進んでいるため、女性が高齢出産になると、1人産んだ後、2人目を産むのがさらに難しくなってしまいます。 では、どうすれば、この問題を解決できるのか? ここで、各国の婚外子の割合を見ていただくと、いかに日本と韓国が異常かということがわかると思います(図表4参照)。 アイスランドは、生まれてくる子供の実に70.5%が結婚していない夫婦から生まれています。フランスは60.4%、スウェーデンは54.5%、オランダは51.9%、そして先ほどのハンガリーは43.9%となっていて、OECDの平均は41.5%です。 アメリカでさえ39.6%、ドイツは33.9%ということで、3人に1人以上は婚外子です。世界的に見れば、結婚していることが子供を持つ前提とは限らないということになります。逆に、日本や韓国はそれが大前提になっていることが最大の問題というわけです。 そうなってしまう原因の1つが「戸籍」です。法律上、結婚しなければ夫婦で戸籍を作れず、未婚の夫婦から生まれてくる子供は「戸籍に入れてもらえなくて可哀想だ」となってしまう。それで、籍に入らないんだったら堕胎しましょう、という話になるか、そもそも子供を作るのはやめましょう、となってしまいます。 では、その戸籍の根拠とは何でしょうか? 日本国憲法には戸籍についての言及はなく、第24条に「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」となっています。 民法の第739条に「婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる」とあります。明治憲法制定以前の明治4年に制定された旧戸籍法によって、戸籍(いわゆる壬申戸籍)が作られて以来、現在まで続く戸籍法の規定に私たちは縛られてきました。それが、日本の少子化の最大の要因になっているわけです。 したがって、戸籍制度を撤廃すべきというのが私の主張ですが、その前に、とりあえず現状で、若者たちの結婚への意欲を削いでしまっているような日本社会の制度や文化について考えてみたいと思います。親に“パラサイト”する成人 まず、成人してからも親と同居する子供が多いことが挙げられます(図表5参照)。たとえばヨーロッパのほうは、成人したら親元から独立して生計を立てるのが当然だと考えられているので、いつまでも親元にいたら、あの人は大人になっても1人で生きていけないのかと不思議がられます。 ところが日本では、親と同居するほうが経済的合理性が高いと考えられています。これも不思議な話なのですが、われわれの時代には、地方から集団就職で都会に出てきた人も多いので、当然、田舎の親とは別々に暮らしました。しかし、その後の世代になると、親が都会にいるため、子供もそのまま都会で就職して、親と同居し続けるというケースが非常に増えてしまったわけです。そうなると、ますます結婚・出産へと向かうハードルは高くなってしまいます。 日本(や韓国)の場合はとくに先ほどの戸籍の問題などがあるので、もっと積極的に結婚を促進するような仕組みを考えないといけません。極端なことを言えば、30歳を過ぎてからも親と同居している人には税金をかけるといった議論が出てくるかもしれません。それから、賃貸にした場合の家賃の相場を調べて、子供に負担させるやり方もある。もちろん、実際問題としてそういったことを実施するのは困難でしょうけれども、どうにかして今の状況を変えないと、経済的合理性という理屈に守られて、成人した子供が親と同居して“パラサイト”している限りは、結婚や出産のきっかけすら生まれません。 それに対して、ヨーロッパのほうは、親元を離れて1人で生活するのは当然のこととされています。ただ、やはり独立して生計を立てようとすれば、それなりにお金がかかりますから、1人暮らしではなく、仲間3〜4人で一緒に生活コストをシェアしましょうということになります。そうなると、そこに男と女がいれば、恋人同士になることもありますし、さらに関係が深まれば、子供ができることもあるでしょう。 もしその2人が結婚していなくても、生まれてきた子供を登録すれば、立派な国民として迎えられます。あるいは、1人の女性から父親が違う2人目、3人目の子供が生まれることもあるでしょうし、1人の男性が複数の女性に子供を産んでもらうこともあります。 いずれにしても、結婚を前提としないで子供を産むケースが非常に多いのです。その場合でも、子育てと仕事の両立を国が全面的に支援するということでやっているわけです。 こうした国々の少子化対策を見ながら、日本でも結婚や出産を促進するような仕組みや施策に取り組んでいかなくてはいけないと思います。※大前研一『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』(小学館)より一部抜粋・再構成
2022.05.14 07:00
NEWSポストセブン
岸田首相と野田少子化相。国家存亡の危機にどう対処するか(時事通信フォト)
2021年の出生数「75万人ショック」に大前研一氏「国家の継続が危うい」と警鐘
 新型コロナ禍前の2019年に出生数が86万人へと大幅減少したことが「86万人ショック」と報じられたが、2021年には新型コロナ禍の影響を受けて、従来の予測よりも18年も早く出生数が75万人に減少する「75万人ショック」に見舞われた。ますます加速する少子化問題にどう対するか? 海外での少子化対策にも詳しい大前研一氏が解説する。 * * * 男女・年齢別の人口構成を表わす人口ピラミッドというものがあります(図表1参照)。この人口動態だけは、戦争や大災害でもない限りだいたい将来がわかります。 これが2010年、2030年と来て、2050年となると、日本で一番人口の多いピーク年齢が80歳ということになります。さらに、2065年にはもう若い世代がほとんどいないので、それこそ自衛隊、消防、警察といった国や地域の支え手が全く集まらず、工場だって人手不足で成り立たないという状況になると予想されます。こうした深刻な近未来が見えているのに、政府や行政は構造改革と呼べる政策に何も取り組んでいません。 ここで、日本の生産年齢人口に注目してみます。これまでは「15〜64歳」が生産年齢と言われていましたが、実際には15歳から働き始める人は少なく、大学まで進学する人が多くなっています。そこで、22歳までは生産人口に入れないほうが現状に合っていると考えられます。 その一方で、中高年に目をやると、新しい法律(改正高年齢者雇用安定法)によって、希望する社員は70歳まで定年を引き上げられるようになりました。というわけで、生産年齢を「22〜70歳」として計算し直すと、2015年時点の数字で、とりあえず261万人ぐらいの生産人口の増加が見込まれます(図表2参照)。ただし、これも2025年時点の推計だと143万人程度の増加になって、70歳まで引き上げた効果というのはすぐに小さくなってしまいます。それでも、とりあえずは100万人ぐらいは助かるということになるかと思います。医療から警察・自衛隊の質の低下も この少子化がもたらす影響というのは、まず経済的な影響としては国内市場が小さくなる、つまり“胃袋”が小さくなるということが挙げられます。それから労働供給、働き手が減少します。さらに、社会保障の負担をしなくてはいけない現役世代が減って、代わりに高齢者が増えるので、現役世代の負担が非常に増えます。 そして、経済成長率は当然低下して、税収も減少しますから、国債の乱発、ハイパーインフレのリスクが高まる──という道を歩むことになります。国債を出すのは、人口ボーナス(高齢者や子供よりも生産人口が多い状態)があった時代、つまり田中角栄さんの頃は、将来働く人は増えますから、多少借金してもよかったのですが、今は人口オーナス(人口ボーナスの対義語)の時代で、働く人が減るという時期に、国債を乱発すれば、これを返す人がいなくなってしまいます。 次に社会的な影響としては、いわゆる「消滅可能性都市」が増えていきます。これは2014年に日本創成会議(増田寛也座長)が提言したもので、年齢が39歳以下の若年女性人口が減少し続けている市区町村は子供が増えないので、将来は消えてしまうということで、2040年までに全国1800の市区町村のうち半分は消滅する可能性が高いという凄まじいレポートを書きました。これがますます深刻化するということです。 それから、高齢化率の上昇で地域社会の活力が低下します。さらに、児童数が減少して、学校の統廃合を余儀なくされます。 そして、医療、警察・消防、自衛隊などを含めて、行政サービスの水準が当然下がります。また、社会インフラの維持・更新が困難になります。 これは新刊『経済参謀』でもたびたび強調したことですが、人口が減少するということは、経済的・社会的に考えて、日本の国力が低下するということであり、国家の継続が危うくなる極めて深刻な問題だということです。少子化が深刻な国ほど予算が少ない それでは、海外ではどのような対策を取っているのでしょうか。まず先進国で出生率の高いところ——フランス、スウェーデン、アメリカ、イギリスなどは2に近い数字を維持しています(図表3参照)。 それから、だんだんと下がってきて、1.5を維持するのがやっとというところがドイツ、ハンガリーで、日本とイタリアは1.5を切っています。 そして、アジア諸国はおしなべて1にへばりついてきています。中国はこの2018年時点ではまだ1.7近い数字ですが、直近ではもう日本と同水準の1.3に落ち込み、かつての「1人っ子政策」から「3人っ子政策」へと方針転換を始めています。 また、韓国は1を割ってしまいました。2018年は0.84でしたが、2021年は0.81になっています。OECDの中で一番、世界でも最も低いという状況です。日本と並ぶ人口減少国です。 では、少子化問題に対して各国がどれくらいカネを使っているかということで、家族関係社会支出の対GDP比率を見てみると、OECD平均は2.34%です(図表4参照)。それに対して、日本は1.79%で、最も深刻な国であるはずなのに、予算はあまり使っていません。ちなみに、韓国はもっと使っておらず、1.30%です。実は韓国は、2020年に初めて出生数と死亡数が逆転して、死亡数のほうが多くなったのです(日本はすでに2005年に逆転している)。それで、いよいよ韓国も追い詰められています。 それに対して、ヨーロッパで出生率が高い国々は、GDPに対してフランスが3.6%、ハンガリーが3.47%、スウェーデンが3.40%と、いずれも3%以上使っています。 つまり、「少子化対策をやっています」とみんな言うのですが、やはり出生率を維持できている国に比べると、そうでない国は対策にカネを使っていないのです。 そこで、どんなふうに少子化対策にカネを使っているのかを調べ、日本もより効果的な対策に早急に取り組むべきなのですが、それが遅々として進められていないというのが、今の日本の現実です。少子化対策の4類型 世界各国の少子化対策は、大きく分けて4つの類型があります。まず、そもそも「少子化が起きなかった国」というのがあります。アメリカ、イギリス、オーストラリアなどがその例です。こうした国々は、出生率の低下などがほとんどなく、移民の流入によって人口が増加しています。基本的に、家族政策には不介入で、移民が子供をたくさん産んでくれるという状況です。 たとえば、オーストラリアはかつて「白豪主義」と呼ばれた白人を優先する政策のもとで移民を入れなかった時代には、総人口が1600万人ほどでした。今は3000万人近いですが、人口が増えた要因は、外国から来た移民がさらに子供を産んでいることが大きいと思います。そのため、オーストラリアのGDPの推移を見ると、途上国と同じような形をしています。そういう状況にある国が、この1番目の類型です。 2番目は「少子化が起きたが、政策によって転換した国」で、フランス、スウェーデン、オランダ、ハンガリーなどがそれに相当します。これらの国では、仕事と育児の「両立支援」によって出生率を回復させることを主目的として、それを実行に移しています。日本政府も、これらの国を少子化対策のモデルにしていると言っていますが、私が知る限り、これらの国の少子化対策のレベルには遠く及びません。 3番目には、「少子化が起きたものの、移民でしのいでいる国」です。これらの代表的な例は、ドイツ、イタリア、スペイン、カナダといった国々です。これらの国では、出生率が低下したにもかかわらず、少子化対策がほとんど行なわれずに、移民・難民を受け入れて、結果的にその人たちに人口増加を手伝ってもらう格好になりました。 そして、4番目の「少子化が起きて現在も進行している国」には、アジアの日本、中国、韓国、台湾、タイなどが入ります。これらの国では、少子化対策が効果を上げておらず、移民の受け入れなども進んでいません。この現実に、もっと危機感を持つべきだと思います。※大前研一『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』(小学館)より一部抜粋・再構成
2022.05.07 07:00
NEWSポストセブン
時間指定しているのに不在、再配達という届け先が意外に多い。置き配可能だと助かるのだが……(イメージ、Sipa USA/時事通信フォト)
現場の配送員が明かす「再配達の有料化」がそのうち避けられなくなる理由
 2017年に宅配大手が荷物の総量規制と配送料値上げに踏み切り「宅配クライシス」と呼ばれる状態に陥ったとき、再配達による宅配業務の圧迫がさかんに言われ、再配達は追加料金をとってもよいのではないかと一般顧客から声が上がるほどだった。その後、状況は改善されたかのように見えていたが、水面下では再び危機が迫っている。俳人で著作家の日野百草氏が、新型コロナウイルス感染拡大で利用者が激増した通販大手サイト配送における再配達と置き配の問題についてレポートする。 * * *「時間指定で置き配なしのお客さまが不在というのは本当に困るのです。そのお客様の1個を届けられるか、その積み重ねが食い扶持にも影響します。私たち配送員も人間です。生活があります」 通販サイト大手で個配を請負っていた旧知の配送員の話。現在は別の大手で配送の仕事をしているベテランだが、問題となっている時間指定と不在、そしてコロナ禍に普及した置き配の話を伺う。これはお客様へのお願い、でもあると語る。「時間指定のお客様にはより細やかなサービスで配達しております。在宅していても届け時にトイレ中、とか大切なテレワークの勤務中、とか想定しながら配ります。実際の現場では時間指定、そして不在となると長年の勘が頼りです」 日本ではおよそ300万人が物流に携わっている。その中で運送業(道路貨物運送業就業者)はおよそ180万人、運送会社(貨物自動車運送事業者)も6万社を超える。それぞれに違いがあるのは当然で、今回はあくまでお話をいただいた配送員の方が請け負っていた会社を事例としているが、時間指定と置き配、そして不在通知は個配に共通した問題であり、トラブルの元にもなっていることは確かである。「まず配送手順として時間指定から配送します。そこで不在の持ち帰りが発生すると、そのコースを配りきったあと、もう一度引き返し、再訪問します」時間指定なのに不在、再配達 配送員を悩ませるのは届け先の不在、それも時間指定の配達にも関わらずの不在、である。「1日200個以上を配達しますが、その中で時間指定の不在の方がいると悩ましいです。不在時は置き配可、なら問題ないのですが、勝手に置き配できませんから持って回って再連絡、再配達しかありません。せめて本人不在でも、誰かがそこにいらっしゃればよいのですが」 コロナ禍で一気に普及した置き配。対処は通販会社、運送会社によってさまざまで、不在でも置き配指定ならそのまま置いていく業者もあれば、置き配指定であっても不在なら持ち帰る業者もある。また荷主次第の部分もあって、例えばAmazonやZOZOなら不在でも原則的に置き配できるが、それ以外の荷物は不在なら持ち帰る場合もある。「置き配送手配はしないが時間指定はする、それで不在となると本当に困るんです。いろいろ事情はあるのでしょうが、ただ『忘れてた』と言われてしまうと……それも同じ荷物で何度も『忘れてた』を繰り返すお客様となると、ではこの荷物、どうすればお届けできますか? 本当に届けて欲しいのですか? となってしまいます」 配達員も人間である。荷主(発荷主)と受け取り客(着荷主)との相互契約により、あくまで仕事として請け負っているに過ぎない。「本音のところ『からかって遊んで楽しいのですか?』と、心の中ではエスカレートして来ます」 これまで何度も置き配、時間指定、そして不在票に関する個別トラブルがメディアで報じられてきた。SNSでも炎上案件の常連だ。配達員の事情を理解しない一部の客は、まるで自分の手下か奴隷のように扱う。 「その荷物が届かなかった為に、配達員はガソリン代とセンターとの往復を自腹で負担します。こうした小さな事案が日々、積み重なるのが日本の配達事情です」 配送業者に雇用されている配達員も苦労が絶えないが、請負で仕事をする配達員は再配達となると時間も経費も個人負担で余分にかかる。1日100個、200個どころか300個配ることもあるという宅配業者、ましてその数百個の事情はそれぞれだ。「そうですね、大規模マンションはとにかくお部屋がどこなのか初見(初めての訪問)ではわかりません。デザイン性なのかわかりませんがエレベーターの場所がわからなかったり棟ごとにエレベーターがあったり、入口が数か所でさらに中で分かれる建物などもあります。仮にフロアに40部屋もあれば右回りか逆か、エレベーターは各階停止とか、偶数階のみ停止するとか複雑そのものです」 この辺は昔から語られる宅配の苦労話だが、これで時間指定されて不在、となると堪らないだろう。「アパートやコーポでは表札もなく、部屋番号すら書いてないお客様もいます。そもそも伝票に部屋番号がなかったりもします」受取る側の様々な協力があってこそ AIによって宅配は進化を遂げたが、結局のところ配るのは人間、その人間である配達員の技量に左右される部分も大きいと話す。「一戸建ての場合も住所がわかりにくいとかあるのですが、わからなくてもお客様が『ここだよ!』と外に出て合図してくださったり、電話でも詳しく教えてくれたりしますが、とくに集合住宅の場合は事情があるのでしょうか、消極的です」 あくまで彼の感想だが、荷物を頼み、受け取りたいのはお客のはずである。「本当に届けて欲しいのですか?」はもっともな話。ましてや置き配厳禁の上で時間指定をするほどに荷物が必要、かつ重要なはずなのに。「ほぼ毎回の配送で時間指定に追われます。各コースのスタート時間からその日の担当エリアまで移動、着いたら時間指定をまずさばくのですが、渋滞などで遅れた場合、この到着時に指定時間に食い込んでいることもあります」 これを聞いて、「なんだもっと早く出ればいいだろ」「早めに配っとけよ」というのは早計である。「時間指定の前の時間に配ることはもっともしてはいけない配送です。あくまで時間指定は守らなければなりません。例えば18:00指定だとして、17:45に同じマンションの別の部屋に通常配送があったとしても、18:00~20:00指定の荷物をその時間に届けてはなりません。再度来るか、もう一周回るか、こんな感じです」 大変な仕事である。なにげなく使う時間指定がこれほど大変とは。お客にすれば自分の荷物だけの話だが、配送員にすれば数百個の荷物と数百人の客がいる。「こちらもプロとして誇りを持って日本の物流に携わっているつもりです。理不尽な対応にも慣れています。しかし時間指定で置き配なしの不在、それを再配達依頼で繰り返されると困ると同時に、悲しくなります」 かつて大手フードデリバリーの配達員に同じような話を聞いた際「数多くの苦難を乗り越えてお届けして、バッド評価と300円を頂きます」という切ない言葉が印象的だったが彼らも人間だ。もちろん不届きな配達員もいるだろうが同じくらい、いやそれ以上の不届きな客がいる。本来は荷物を届けたい側と荷物を受け取りたい側で協力すべきなのに、なぜか配達員と客という契約を奴隷か手下、パシリのように使う残念な輩がいる。国土交通省及び厚生労働省も「運送事業者と契約関係にある発荷主がいくら物流改善に取り組んだとしても、着荷主の協力が得られなければ十分な取り組みの効果は得られない」と『荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン』でまとめている。これ自体は事業者間取引を想定したものだが、そっくり個配にも当てはまる正論である。「このままでは値上げされてしまうでしょう。そうならないためにも、受取る側の様々な協力が必要です。そもそもお客様の荷物なのですから」 それにしても時間指定で置き配なし、それでいて不在、あとで連絡を受けて再配達してもまた不在、それを繰り返す客というのはいったい何がしたいのか。「滅多にないと言いたいのですが、よくいらっしゃいます。ご事情おありなのでしょうが、繰り返されると辛いですね。不在票は配達員の手が唯一加わる部分なのですが、あまりにも繰り返される場合、一筆お願いを書くこともあります」 至れり尽くせり、かつて、日本の宅配事業は質の高さとその安全性から世界に誇るシステムとして紹介されてきた。筆者も経験あるが、海外のほとんどは宅配どころか郵便すら適当で、日本の配達員、配達業者のレベルの高さを再確認させられる。日本にもそうではない配達員、配達業者は存在するというのはもっともな話だが、海外のほとんどはそんなレベルを超えている。遅延は当たり前だし荷物の扱いもぞんざい、そもそも届かないまま行方知れず、センターに足を運んでもスタッフみんなで笑って首を振ってみせたりする。日本が世界に遅れを取り始めたと言われて久しいが、物流の現場に関しては日本人の気質によるものか、いまだに世界のトップクラスと思っている。荷物が届くのは当たり前、なんて素晴らしい国なのだ。しかし困ったことに、そんな素晴らしい日本の物流現場が蔑ろにされる、これもまた、日本のロジスティクス軽視という悪い部分なのだが、現場の努力を蔑ろにするような、サービスにあぐらをかくルーズな「神様」が「お客様」として横暴を繰り返す。「時間指定専用のコースと配送員が設定されていればいいのですが、私の元請負先はそうではありませんでした。顧客の確保以上に配達員の確保は重要です。その点、事業者も努力すべきですが、お客様のご協力があってこそだと思います」 宅配に限らず物流業界の慢性的な人手不足はこのコロナ禍、さらに悪化している。筆者は免許制度の度重なる改悪も遠因と考えるが、将来的には2トン以上の自動車に乗れるドライバー数は少子化と新たな免許制度(現行法の普通免許は車両総重量3.5トン、最大積載量2トン未満まで)により大幅に減少するだろう。そこまで先の話でなくとも、もう「誰かが運ぶだろう」という時代は終わりつつある。「お客様にも受取る責任があると思うのです。以前から『再配達の有料化』という話も出ていますが、このままだと本当にそうなりかねないと思います」 事実、一部ネットスーパーは再配達手数料を導入している。スーパーの場合は生鮮食料品があるため配達員だけでなく店も死活問題、受取拒否にはキャンセル手数料も徴収している。まだ一部業者に限られているが、このまま一部の客による『どんな勝手な要求をしようと運んで当然』が繰り返されれば、大手宅配業者や巨大ネット通販も追随する可能性が高い。 物流は荷主、配達員、客の相互協力によって成り立つ。届かなければ困るのは客、勝手に振る舞っても届くとするなら、その便利と当たり前は、誰かの犠牲で成り立っていることを忘れてはならない。 それにしても時間指定で置き配なしの不在を連絡もなしに繰り返したあげくに再配達をすっぽかす客、もはや営業妨害という以外なにものでもない。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。
2022.05.06 07:00
NEWSポストセブン
クリミア地方の小麦畑。2022年は収穫ができるのか流通するのかも不明(SPUTNIK/時事通信フォト)
高騰する輸入小麦を米粉や国産小麦へ切り替え「それ、緊急対策じゃない」と商社マン
 日本最大の製パン企業、山崎製パンが食パンと菓子パンを7月1日から平均7%値上げすると発表した。今年になって二度目の値上げは、原料となる輸入小麦の政府売り渡し価格の引き上げだけが原因ではなく、油脂類、砂糖、包装資材などあらゆるものの価格が上がり企業努力だけではどうにもならなくなったからだ。同じ4月28日に東京外国為替市場では、円相場が1ドル130円台後半に急落、20年ぶりの円安水準を更新した。俳人で著作家の日野百草氏が、輸入小麦をめぐる政府の政策が緊急の対応にならないだろう理由を探った。 * * *「価格の据え置きとか、輸入小麦を米粉やら国産小麦への切り替えなんて今すぐには無理です。これを緊急対策として言ってるとしたら、何を今更です。わかってて言ってるのでしょうが、ちょっとどうかと」 4月26日、政府が物価高騰に関して6兆2000億円規模の緊急対策を決定した。この決定は、生活困窮者への支援を拡大し、原油価格高騰を防ぎ、中小企業対策も拡充、輸入小麦や国産木材、家畜のエサなど原材料やエネルギーへの支援を盛り込んでいる。それを受けての専門商社に務める旧知の商社マンから疑問の電話。「輸入小麦はすでに政府売渡価格の引き上げが決まってました。17%です。海上運賃の高騰と円安、それに戦争ですからね、上がるのは仕方ない」 詳細かつ専門的な部分は本旨ではないため割愛するが、日本の小麦の90%近くは輸入に頼っている。輸入小麦はそのほとんどを政府が一括して買い上げているが3月、価格が17.3%引き上げられて1tあたり7万2530円と発表された。これは過去2番目の高値で、すでに4月から各製粉会社は業務用小麦粉の価格を改定した。しかし政府は今回の緊急対策で9月まで販売価格を据え置くとした。それはありがたい話だが、極めて限定的だ。「直近でもさらに1割以上、上がってます。7月の選挙のために据え置くだけでしょう」 今年は7月(予定)に参議院選挙がある。選挙までもう2ヶ月くらいしかない。今回の緊急対策とやらも同じく発表されたバラマキ(後述)と同様、露骨な選挙目当てということか。そんなことを言っている場合じゃないと思うのだが。「ロシアとウクライナの小麦を頼ってきたEU諸国が日本の分も手を出し始めてます。ただでさえ北米が不作なのに、さらに奪い合いになる」日本中で必要な量なんて賄えない 日本の小麦はアメリカ、カナダ、オーストラリアの3カ国で90%以上を占める。日本はこの30年間上がることのなかった平均賃金と国力の衰退、超大国となった中国の台頭により資源の買い負けと海上貿易の弱体化、そして出遅れた脱コロナ禍、円安、戦争と悪状況の重なり続けたあげくに今回の緊急対策発表となった。筆者はこの半年の間『憂国の商社マンが明かす「日本、買い負け」の現実 肉も魚も油も豆も中国に流れる』『商社マンが明かす世界食料争奪戦の現場 日本がこのままでは「第二の敗戦」も』『ウクライナ侵攻の裏で進む世界食料争奪戦 激安を賛美する日本の危うさ』『悪しき円安と値上げの春 日本の「買い負け」はどこまで続くのか』と一貫して取り上げて来たが、残念ながらすべて現実となってしまった。「たとえばですけど、日本の気候で強力粉は難しい。日本中で必要な量なんて賄えない。科学の進歩に期待という悠長な話なら、それは緊急対策じゃありません」 小麦粉はたんぱく質の含有量によって、パンの原料になる強力粉、うどんや即席麺になる中力粉、お菓子の材料になる薄力粉などに分類される。日本国内で生産される小麦の生産量は増えているが、ほとんどが中力粉で、もっぱら日本麺に使用されているのが現状だ。国産小麦と書かれて販売されているパンも、イメージされる100%国産小麦ではなく、ほとんどが外国産とのブレンドだ。「それなのに輸入小麦を米粉や国産小麦への切り替えを進めるなんて、いや無理でしょ、できたとしても遠い未来ですよ」 日本は気候も面積も小麦の生産にすこぶる向いてない。向いていたらとうの昔に米のように作っているはずで、国内生産は10%強しかない。そもそも農地がまったく足りない。もちろん米農家を小麦農家にしろ、なんて簡単な話でもない。後述するが農家、農業従事者そのものが急速に減っている。現状は国内需要を満たすほどの「国産小麦への切り替え」なんて無理だ。「できたとしても遠い未来ですよ、現場からすれば絶対無理です。少なくともそれ、緊急対策ではありませんよね」 高騰する小麦に関して、政府は輸入小麦を米粉や国産小麦への切り替えを目指すとした。また小麦から米へ、とも。筆者も思う。本気で言ってるのかと。なんだか「やってるふり」のために付け足したみたいだ。「日本の小麦のほとんどは5銘柄が占めています。これを日本が国内需要分、作るって話なんですかね、穀物に関わってる人ならわかる話ですが無理です。ましてすぐになんて、これまでにない農業技術の革新、とか必要なレベルの話です」 国策研究所である理化学研究所すら600人削減する日本でそれができるかはともかく、日本の輸入小麦は主にアメリカのDNS、HRW、WW、カナダの1CW、オーストラリアのASWの5銘柄に集約される。飲食、調理関係の仕事をしている方には馴染みがあるかもしれない。とくにカナダの1CW(ウェスタン・レッド・スプリング)は日本の食パンといえばこの強力粉、というほどに馴染み深い。「先ほども言いましたが、強力粉を日本で作るのは難しいので、国内需要のほとんどは全面的に輸入に頼ってます」 小麦は品質とその安定、そして生産性が大事。先の3カ国のような良質の小麦が豊富に穫れる地域もあれば、生産力はあってもロシアのように品質が低いとされる地域もあるし、日本のように小麦栽培そのものが難しい地域もある。また地域によって強力粉(パン)、準強力粉(ラーメン)、中力粉(うどん)、薄力粉(ケーキ)、デュラム・セモリナ(パスタ)といった特徴もある。※カッコ内はあくまで代表的なものを挙げた。「日本にもあるにはありますが、作付面積からしたら産業と呼べるレベルではありません。関係者は努力してますが、作付面積も小さく、質も安定しませんね」 日本はわずかながら中力粉はつくられている。国産うどんなどはまさにそれ、そのほとんどは雨の少ない瀬戸内の一部や北海道を中心に生産されている。「日本のような高温多湿で雨が多く平地の少ない地域は一番向いてません。米農家からの転作も進めてますが、国民全体の食を支えるにはほど遠いですね」7月の参院選が終わったら市場価格を反映するでしょう 小麦の国内消費量は約640万トン、国産小麦の収穫量は約94万トン、意外と作っているように思えるが日本の気候ではとにかく安定せず、2020年は約8万トン減少している。また一番問題なのが離農や労働力不足により作付面積が増えないことにある。小麦がないなら米を食えばいい、なんて1960年の半分(一人当たり)しか消費していない現代人が言えた話ではない。そもそも農業就業人口そのものが1960年から6分の1に減っている。2000年から現在でも半分以上の農業従事者が消えた。「転作で稼いでいる国内小麦農家もありますが、あくまで小規模農業の話です。素晴らしいことですが、食料安全保障の問題とは別ですね。小麦に限った話ではないですが」 主要穀物(大豆、小麦、トウモロコシ)の90%、主要エネルギー資源(石油、石炭、天然ガス)および鉱物資源(銅、亜鉛、ニッケル、ベースメタル、レアメタル)のほぼ100%を輸入に頼る日本、食料自給率は生産額ベースで67%、カロリーベースで37%(ともに2020年度)、飼料自給率に至っては25%と実のところ、江戸時代にでも戻らなければ日本単独で生きていけないほどに「他人様に売ってもらう」「他人様に食べさせていただく」国になってしまっている。すべては食料安保を蔑ろにしてきた政府の責任だが、今回の緊急対策に小麦をピンポイントに加えたことは、まさに政府の危機感の現れだが、彼は納得いかないと語る。「輸入小麦を米粉、国産小麦への切り替えなんて緊急でできることではありません。何十年かかるかわからない。国内自給率を上げることは大賛成ですが、そういうことじゃないでしょう、政府は9月まで(急騰前の)価格を据え置くと言ってますが、7月の参院選が過ぎたら市場価格を反映するでしょう。小麦は半年ごとの価格改定、どのみち9月には改定なのですから」 まったくその通りで「そういうことじゃない」。緊急に対策しなければならない物価高に対して長期的なビジョンを語るのも変な話だ。現時点で小麦の安定した品質で需要を満たすほどの国内生産は厳しい。米粉に至っては個々人が健康志向で少量使うならともかく、産業として米粉転換などいつの話になるのやら。可能性や技術革新を否定しているのではなく、緊急対策だからこその話をしている。「やはり悪いのは円安なんです。円安が日本を追い詰めているんです。何もかも国外から買わなければいけない国で、売るにも以前ほど魅力のない国になって、市場で日本が買い負けるのを見続けるのってそりゃ怖いですよ」 今回の緊急対策、筆者も「やばい」と思う。安易な政府批判は避けたいが、この事態にこれって、ちょっとなあ……としか言いようがない。ガソリンの補助金を25円から35円に上げる前にトリガー条項の発動と重複課税の見直しだろう。低所得の子育て世帯に5万円配るのもわけがわからない。生活困窮者支援と説明するが生活困窮者の中でなぜピンポイントに「低所得」「子育て世帯」だけ5万円なのか、これに小麦の安定供給対策を加えておよそ6兆2000億円の血税をぶっ込むという。「それで緊急対策があれですからね、ほんとやばいと思います」 国民生活を守り抜く、と岸田首相は説明したが、円は20年ぶりに1ドル130円台をつけた。125円の「黒田ライン」とはなんだったのか。もうすぐ6月の給与明細(自営なら税額通知書)で増税ぶりを目の当たりにすることだろう。物価は上がり、税金は上がり、円は下がる。今回の緊急対策は「高齢者に5000円プレゼント」に代わる、低所得子育て世帯5万円のばらまきばかりが注目されるが、小麦の高騰対策もまた、ガソリンと同様にその場しのぎの「やばい」代物である。そもそも貧しい子持ちや小麦、ガソリンだけの話ではないはずなのに。「円安容認だけでもなんとかして欲しいんですけど。そのほうがよほど緊急対策だと思います。本当に何がしたいんでしょう」【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。
2022.05.05 16:00
NEWSポストセブン
ANA武漢発のチャーター便を指揮、感謝状贈られた空港所長が成田に凱旋異動
ANA武漢発のチャーター便を指揮、感謝状贈られた空港所長が成田に凱旋異動
 新型コロナウイルスの“感染源”とされた中国の武漢市で、現地に残された計828人の日本人とその家族を救ったのが、ANAのチャーター便だ。 2020年1月、武漢市は感染拡大を受けて空港閉鎖を決定。ANAも武漢発着の定期便を運休させたが、在留する日本人を帰国させるため、政府チャーターを5便運航した。ANAのこの英断は賞賛を浴び、茂木敏充外相(当時)が直々に感謝状を贈った。表彰式はチャーター便運航に携わった機長ら5人のスタッフが外務省を訪れ、メディアでも大々的に取り上げられた。 5人の“英雄”たちは、その後どうなったのか。 ANAによれば、「チャーター便運航を受けての昇進などはなく、変わらず業務に励んでいる」(広報部)とのことだが、その中でひとり、凱旋帰国を果たしたスタッフがいた。当時、ANA武漢支店空港所長を務め、チャーター便全5便の搭乗などを指揮した鶴川昌宏氏(54)だ。 鶴川氏は2021年4月付で成田空港勤務となり、現在は成田空港全体の運航に関する統括業務を行なっているという。鶴川氏が語る。「コロナが落ち着いた2020年9月から武漢に戻り業務を再開していたのですが、昨年4月に日本帰任の辞令が出まして。当時、大臣に表彰されたのは身に余る光栄です。私はただ現場にいただけで、多くの仲間が頑張ってくれたおかげですから。一緒に表彰台に上がったメンバーとは、その後なかなか機会がなく会えていないんですけどね」 もっとも、表に出て表彰されたのは5人だが、実際にはチャーター5便を飛ばすのには何百人ものスタッフが関わっていたという。「運航許可を取るために日本・中国の関係各所と調整したスタッフ、空港や機内での感染防止対策の準備に奔走したスタッフ。あの“救出劇”はひとりひとりがそれぞれの持ち場で頑張った結果でした」(広報部) 異国に取り残された同胞を救った英雄は、変わらず謙虚に自分の仕事と向き合っていた。※週刊ポスト2022年5月6・13日号
2022.04.29 07:00
週刊ポスト
シャッターが下りたままの商店街(時事通信フォト)
「人口減少」過去最大に 日本の政治家が少子化問題を解決できない理由
 総務省は先ごろ、昨年10月1日現在の日本の総人口が、前年比で64万4000人減の1億2550万2000人になったと発表した。減少幅は過去最大で、日本の人口減少がますます加速していることを印象づけた。なぜ人口減少=少子化問題は解決の糸口が見いだせないのか。世界的経営コンサルタントとして活躍し、各国の経済アドバイザーを歴任してきた大前研一氏が、この日本が直面する難問について解説する。 * * * 日本の少子化は今、ものすごい勢いで加速しています。いわゆる第一次ベビーブーム(1947〜1949年)というのは、戦争が終わって、兵隊さんたちが戦場から日本に帰ってきて、子供がたくさん生まれたことがきっかけです(図表1参照)。そのあとに、その方々から生まれた子供たちが結婚・出産の適齢期になって、第二次ベビーブーム(1971〜1974年)が起こりました。 そして、今度はその第二次ベビーブーム世代の子供たちが適齢期になったら生まれるだろうと思っていた第三次ベビーブームは、結局到来しませんでした。つまり、この時期にはもう世の中が変わってしまっていたわけです。この時点で政府は、後述するような大胆な少子化対策を実施しておくべきだったと思いますが、結果的にはこの流れを変えることはできないまま、今に至っています。 1人の女性が一生の間に何人の子供を産むかという統計で、「合計特殊出生率」というものがあります。世界的な比較でもこの数字を使っているのですが、日本は2019年の統計で「1.36」となっています。理屈から言えば、子供の親は2人ですから、出生率が「2」以上でないと人口は維持できません。それが、今は1.36ということですので、今後ますます人口減少が進むのは確実ということになります。人口=国力の低下ほど深刻な問題はない さらに、日本の場合には、もう1つ大きな問題が出てきます。 国立社会保障・人口問題研究所は、日本の出生数についての将来推計を発表しています(図表2参照)。ところが2019年、つまり、新型コロナウイルス禍に襲われる前の時点で、「86万人ショック」というのがありました。人口問題研究所の推計に比べて予想以上に早く86万人になってしまったのです。さらに、2020年は84万人、2021年(推計)は75万人と、新型コロナの影響もあって、出生数が激減しました。もともと人口問題研究所の推計では、出生数が75万人になるのは2039年頃と考えられていました。したがって、18年も前倒しで出生数が減ってしまったことになります。 少子化の問題は、この2年で一気に加速したわけです。政治家にとって、これ以上深刻な問題はありません。人口というのは、国力です。人口が減っているということは、GDPも上がらないし、人々の胃袋は増えないし、そもそも警察や消防、自衛隊など、国や地方の社会基盤を支える人材がいなくなるということです。 しかも、介護や看護といった仕事をするのも比較的若い人ですから、この将来の人口が減るという問題以上に重要な問題はないはずですけれども、これに真剣に向き合って有効な解決策を提案している政治家はいません。 政治家が関心を持っているのは、いま目の前の政治アジェンダだけで、そんなことをやっているとあっという間に選挙が来てしまいますから、オリンピックをどうするかとか、新型コロナ対策はどうするかといった話に終始して、本来なら5年10年かけていろいろ準備して進めなければいけない問題に取り組もうというような政治家はいません。今の政治家たちの政策の時間軸というのは、おそらく数か月程度ではないかと思います。 しかし、私が近著『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』で詳述したように、この問題の根本的な解決なしには日本の“老衰”はいつまで経っても止まりません。少子化を加速させる4つの要因 もともとこの問題の背景には「未婚・晩婚化」という著しい傾向が出ていることがありますが、未解決のままとなっています。男性で生涯一度も結婚しない人が24%を超え、女性で一度も結婚しない人も14.9%に達しています。2019年の婚姻件数は59万8965組で、ピークだった1972年と比べると半分近くに減っています。また、初婚の平均年齢が上昇していて、男性は30.1歳、女性が28.3歳となっています。 もう1つ大きな問題として、配偶者がいる女性の出生率が低下しつつあります。もともとは、結婚した女性が産む子供の数は2人というケースが多く、理想の家族構成を聞いても子供2人という答えが多くを占めていました。そのため、有配偶者の出生率は2.0台を維持していたのですが、それが2015年に1.94と2を切るようになりました。 これは結局、結婚していない人が増えているということと、もう1つは晩婚化が進んだことによって高齢出産が増え、年齢的に2人目の子供を産むことができなくなっていると考えられます。 また、男性の長時間労働が慣行となっているため、夫が育児参加する率が低く、女性の「ワンオペ育児」が問題になっています。「ワンオペ」というのはコンビニでの就労などで問題になったように、人手が足りずに店員1人だけで働かされているということですが、女性のワンオペ育児というのは、育児、家事に加えて共働きで働いているというケースも出てきています。そうなると、とてもじゃないけれどやっていられないということで、子供2人なんてどだい無理だとなってしまいます。 3つ目は、出産・育児支援制度の不備が挙げられます。たとえば、OECD平均ではGDPの2.34%を家族問題に使っていますが、日本はその平均を下回っています。加えて待機児童の問題や不妊治療の所得制限などがあって、出産・育児のために国が全面的に支援するという形にはなっていないと言われます。 さらに、もう1つ大きな問題が戸籍制度です。結婚していないカップルの場合、子供が生まれても戸籍に入れられずに「非嫡出子」という扱いになる恐れがあって、妊娠しても結婚していないから子供を産めないとか、産んでも父親の戸籍に入れられないから可哀想だということになります。 かてて加えて、新型コロナ禍によって、結婚の件数も大幅に減っている上、妊娠の届け出というのが、前年に比べて5.1%減っています(2020年1〜10月)。つまり、新型コロナ禍で感染リスクを懸念して、結婚・妊娠・出産を控える動きが目立ってきているというのが4つ目の要因です。 感染リスクという意味では、里帰り出産が難しくなったということも挙げられます。日本の場合には、出産に際して、奥さんのほうの実家に帰って、出産やその後の育児を奥さんの親などに手伝ってもらうという人も多いのですが、新型コロナの影響で、東京や大阪などから地元に帰省するのはやめてほしいと言われるケースがあるそうです。そういった話も、この時期に妊娠・出産を控える方向に影響しています。 それから、子供を産める年齢層の女性たちがいわゆるパートやアルバイトといった非正規雇用で働いている場合、新型コロナ禍での業績悪化でレイオフ(解雇)や一時帰休の対象になって、出産・育児をしているどころではない状況に追い込まれているということもあります。 こうしたマイナスの要因に対して、役人や政治家が有効な対策をとれていないということは非常に大きな問題だと思います。※大前研一『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』(小学館)より一部抜粋・再構成
2022.04.29 07:00
NEWSポストセブン
1990年代に珍しく取材を受けた当時の滝崎武光氏(写真/AFLO)
世界61位の資産家・キーエンス滝崎武光氏 最大の個性は「目立たぬよう徹する姿勢」
 米経済誌『フォーブス』世界長者番付の2022年版において、資産額239億ドル(約2兆9400億円)で61位にランクインしたのが滝崎武光氏(76)である(ファーストリテイリングの柳井正氏が54位、ソフトバンクグループの孫正義氏は74位)。 滝崎氏はセンサーのメーカーであるキーエンスの名誉会長。キーエンスは、1974年に滝崎氏が兵庫県尼崎市に設立した会社で、自動車や精密機器、半導体などの工場で生産工程を自動化するファクトリーオートメーション(FA)にかかわるセンサー類を開発・製造するメーカーである。 過去5年間の社員平均年収は1930万円。業績に連動するため年ごとに差があるが、東証プライム企業のなかでも図抜けて高く、“日本一給料が高い会社”と呼ばれている。 滝崎氏は会社経営に対してストイックな姿勢を示すだけに、本人も目立つことを嫌い、地味に徹している。元『フォーブス日本版』編集長の小野塚秀男氏はいう。「私が『フォーブス』で取材した当時、すでに滝崎さんは成功した経営者で、取材も『億万長者に話を聞く』というテーマだったのですが、結局、私生活については一切話してもらえなかった。一代で億万長者になった人のなかには自己顕示欲の強い人もいますが、滝崎さんは決してそういうタイプではない。ZOZO創業者の前澤友作さんとは正反対の方ですね(笑)」 滝崎氏もある意味で“異端”なのかもしれない。キーエンスの元営業社員で中小企業診断士の立石茂生氏は、こう話す。「大富豪のカリスマ経営者のように思われていますが、決して豪快な人ではなく、むしろ“石橋を叩いて渡る”タイプ。基本的には派手なことは好まず、地道で堅実なことを好む人でした。 私が入社した当時、本社は大阪・高槻市にあり、滝崎さんは車で通勤していたのですが、すでに経営者として成功を収めていたにもかかわらず、国産の一般的なセダンに乗っていた。安い車ではないが、高級車というわけでもない。出張で新幹線を使うときも、グリーン車には乗らなかった。いまもそうなのかはわかりませんが、当時はそうでした」 そんな滝崎氏に関する奇妙な記事が、日本経済新聞(3月25日付朝刊)に出た。キーエンス財団に保有している自社株、745万株、時価3900億円相当を寄付したという内容だ。経済ジャーナリストの有森隆氏はこう言う。「3段見出しの大きな扱いでしたが、日経は前日(3月24日朝刊)にも寄付の件は報じていました。ただし前日に報じた内容が違っていたという訂正が含まれており、それが目立つように配慮した上で改めて正確な内容を報じたのでしょう。前日の記事では保有株を寄付した先を滝崎氏の不動産管理会社としたが、キーエンス財団の誤りだったということでした。 この訂正に滝崎氏のこだわりを見た気がします。 滝崎氏は2016年、この不動産管理会社の株式を長男に贈与したことをめぐって1500億円の申告漏れを指摘されたことがある。寄付先が不動産管理会社だとして変な誤解が広まると困るから、しっかり訂正したかったのではないでしょうか」 キーエンスに聞くと、「個人のことに関しましては、会社としてのコメントは差し控えさせていただきます」(経営情報室)と回答。日経新聞広報室は「同社からのご指摘で誤りが判明したため訂正しました」と答えた。 目立たぬよう徹する姿勢がこの経営者の最大の個性と言えよう。※週刊ポスト2022年4月29日号
2022.04.23 06:00
週刊ポスト
キーエンス独自の社内ルールとは?(イメージ)
キーエンスの独特ルール「上司をさん付け呼び」「部下を飲みに誘うのは禁止」
 米経済誌『フォーブス』世界長者番付の2022年版において、日本人で100位以内に入ったのは3人。ファーストリテイリング(ユニクロ)・柳井正氏(54位)とソフトバンクグループ・孫正義氏(74位)という世界的経営者の間に割って入ったのが、資産額239億ドル(約2兆9400億円)で61位にランクインした滝崎武光氏(76)である。 滝崎氏はセンサーのメーカーであるキーエンスの名誉会長。キーエンスは、1974年に滝崎氏が兵庫県尼崎市に設立した会社で、自動車や精密機器、半導体などの工場で生産工程を自動化するファクトリーオートメーション(FA)にかかわるセンサー類を開発・製造するメーカーだ。 過去5年間の社員平均年収は1930万円。業績に連動するため年ごとに差があるが、東証プライム企業のなかでも図抜けて高く、“日本一給料が高い会社”と呼ばれている。 そんなキーエンスには、独特な社内ルールが存在する。キーエンスの元営業社員で中小企業診断士の立石茂生氏は、こう話す。「上司を肩書きで呼ぶのは禁止で、全員が“さん付け”です。私たち若手も“滝崎さん”と呼んでいました。風通しのいい会社に見えますが、実は“下克上”をしやすくするという理由もある。実力主義の会社なので、いきなり年上の部下、年下の上司になったりしますが、普段から“さん付け”なら抵抗が小さい。 上司が部下を飲みに誘うのも禁止です。会社の人間関係で、馴れ合いや好き嫌いの感情は持つべきではないという方針で、新入社員のときに滝崎さんから『赤ちょうちん談義は何の生産性もないからやめてください』と言われた」 会社が利益を出すために、必要のないものはすべて排除していくという姿勢だ。 滅多にメディアに露出しない滝崎氏が受けた最後のロングインタビューとされる『日経ビジネス』(2003年10月27日号)の記事で、滝崎氏は〈会社として過去を振り返っては絶対にダメです〉と言い、創業記念日を定めず、社史も編纂しない、アフターサービスが必要なくなった時点で過去の製品はすべて廃棄するという旨を述べている。常に未来を見据えよというメッセージである。 素人が財テクや不動産投資で儲けるのは、不労所得になるからやらないと言い、〈頭を使い、汗を流して、いい仕事をしようと〉社員には伝えているという。“合理主義者”と評される所以である。 キーエンス社員の間で語り継がれているエピソードがある。ある日、滝崎氏に営業社員から相談があった。「取引先から『お前の会社は儲けすぎだ』と言われるが、どう答えればいいか」。滝崎氏はこう答えたという。「私は若い頃、オーディオが好きだったが、ソニーの製品を買おうと思っても店側は値引きしてくれない。他社製だと3割くらい値引きするのに。だからといって、ソニーの商品が売れないということはない。本当に高すぎるのなら売れないはず。つまり、なぜ客が、高すぎる、値引きしろと言うかというと、本当にその商品が欲しいからだ。だから、それは商品に対する“誉め言葉”として聞いていればいい」 立石氏は、いかにも滝崎氏らしい返答だと語る。「滝崎さんは理系人間なので、どんなことでも理詰めで考え、反論を事前に想定して、答えを用意している。それで反論してくる人を論破できたら、その考えは正しいとみんなに納得してもらえるわけです」 値引きもしなければ、取引先に対する接待営業も一切禁止。理屈に合わないからだが、よほど自社製品に自信がなければ、できないことでもある。※週刊ポスト2022年4月29日号
2022.04.22 07:00
週刊ポスト

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