ビジネス

ユニクロ「世界同一賃金」システムは現実的でないと大前研一

 ファーストリテイリングの柳井正会長が、4月23日付の朝日新聞に掲載されたインタビュー記事において、全世界で働く正社員すべてと役員の賃金体系を統一する「世界同一賃金」を導入する考えを明らかにした。いまだ波紋を広げ続けるこの「世界同一賃金」について、大前研一氏がその展望を解説する。

 * * *
 ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の「世界同一賃金」発言が波紋を広げている。その内容は、店長候補として採用した全世界の正社員すべてと役員を「グローバル総合職」とし、そのうち役員およびグローバル幹部は世界で同一賃金に、それ以外の社員は給与設計の枠組みを世界で統一する、というものだ。

 これに対するマスコミの反応は賛否両論で、「衣料製造小売業で実現すれば画期的」と称えたり、「社員を酷使して現場を疲弊させるシステム」と批判したり、「ファーストリテイリングはブラック企業か否か」を論評したりしている。だが、グローバル企業の給与はどうあるべきか、という本質的な議論はほとんどない。

 私は経営コンサルタントとして40年間、日本企業のグローバル化を手伝ってきた。その経験からいえば、「世界同一賃金」は、いうほど易しくはない。なぜなら、グローバルに賃金を一律にする場合、まずどこに基準を合わせるかという問題が出てくるからだ。

 世界の平均レベルに合わせると、それよりも給与水準の低い国では喜んで人が集まるが、逆に高い国では優秀な人材が採用できなくなる。

 一方、最も高い国に合わせると、今度は人件費がかさんでしまうし、他の企業や業界から「人をカネで釣る」という批判も浴びる。また、そういう会社に入ってくる人間は仕事のやりがいではなくカネで入ってくるタイプだから、経営そのものが難しくなる。

 そのほかにも様々な問題がある。そもそも、給与体系は国ごとに違う。

 たとえば現在、中国はホワイトカラーの月給が5万円くらいだが、年々、大幅に上がっている。2011-2015年の第12次5か年計画の期間中に国民所得を倍増するという国家目標を達成するため、中国政府の通達によって企業は毎年15%の賃上げを義務付けられているからだ。それに合わせれば、全世界の社員は毎年15%ずつ給料が上がることになるが、そんなことはあり得ない。

 さらには為替の問題もある。たとえば給与をドルベースで「統一」すると、昨年11月から3割も円安になった日本の社員は、その間に何もしなくても、為替のせいで給与が3割も増えてしまうわけで、幹部が一番多い日本で大きな負担となる。逆に、民主党政権時代のような円高になればいくら働いても円ベースでの給料は下がり続ける。

 したがって、柳井さんが目指す世界同一賃金システムは、コンセプトとしては理解できるものの、現実的にはとても実現できない“絵に描いた餅”というのが、30年以上この問題と格闘してきたグローバル企業の内実なのだ。

※週刊ポスト2013年5月31日号

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
日本テレビの杉野真実アナウンサー(本人のインスタグラムより)
【凄いリップサービス】森喜朗元総理が日テレ人気女子アナの結婚披露宴で大放言「ずいぶん政治家も紹介した」
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン