芸能

堺雅人「リーガルハイ」 笑えればそれでいいのかと女性作家

 前クールでつかんだ視聴者をどれだけ引っ張れるか。秋ドラマの課題である。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析する。

 * * *
 いよいよ秋ドラマがスタート。前クールは「半沢直樹」「あまちゃん」「Woman」と、これまで試みられることの少なかった斬新な手法のドラマがヒットしたため、後に続く新ドラマはなかなか難しい戦いを強いられるのかもしれません。

「半沢直樹」「あまちゃん」「Woman」。内容も、テーマも、まったく違いました。でも、共通点がありました。

「半沢直樹」は、銀行の不正融資や人事の闇。「あまちゃん」は、東日本大震災。「Woman」は、シングルマザーの苦闘。一言でいえば、どれも「社会的なテーマを扱っていた」ということです。

 時にはおちゃらけたり、人物造形をディフォルメしずぎても、根本のところで社会的なテーマが際立ち、制作側もごまかさずにまじめに向きあった。だからこそ、ドラマがしっかりと「重心」を持ったのではないでしょうか。

 視聴者の方も、ドラマの新領域を発見し新しい魅力に開眼--前クールはそんなドラマ体験だったのではないでしょうか。

「まったくの『想定外』でした。びっくりしています」

 と、「半沢直樹」を演出した福澤克雄氏自身が、その社会的大反響に驚いたと語っていました。

「登場人物に女性が少なく、わかりやすく視聴率を取れるキャラクターもおらず、恋愛もないという『ないないづくし』……セオリーどおりなら、ドラマのメインターゲットと言われる女性は『見ない』ということになりますよね」(東洋経済オンライン2013..8.12)

 ドラマは単なる「娯楽」「作り話」のお楽しみ--そんな「逃げ」を打たなかったドラマが話題を集めた、ということかもしれません

「Woman」におけるシングルマザーの暮らしぶりの描写は、ニュース番組以上に、その過酷さをリアルに届けるツールになっていたのかもしれない。「半沢直樹」が終了した直後、奇しくもみずほ銀行の暴力団員への融資が明るみに出て、「ドラマ世界そのもの」と驚愕した人も多かった。

 もしかしたら、ドラマは「娯楽」という枠を超えて、ワイドショーやニュース、報道番組の分野にまで浸み出し、何かを伝える役割まで担い始めているのでは? あるいは人の生き方、秩序や正義や道徳観といった、「本質」を考える道具になり始めているのかも?

 だとすれば。

 秋のドラマも、社会的テーマときちんと向き合い、逃げずに迫力をもって描ききることができる作品が注目される、ということ。 そんな視点で、秋クールの新ドラマを眺めてみると……「ダンダリン 労働基準監督官」(日本テレビ系水曜午後10時)は、竹内結子と松阪桃李の主演で話題の作品。ブラック企業が問題視される社会の中、「労働基準監督官」というお堅い職業をお堅く貫く女性・段田凛が主人公。

 コメディタッチの中で、どこまで社会的出来事の迫真に到る「重さ」「まじめさ」を保持できるか。そのバランスが今後の見所でありポイントでしょう。ニコリともせずに泥まみれで匍匐前進をやりきる女優・竹内結子の集中力には、期待が持てそうです。

 一方、同時刻にガチンコの「リーガルハイ」(フジテレビ系)。人気ドラマの第二弾で、かつ「半沢直樹」で大ブレイクした堺雅人が主演と、話題性は十分。やはり「法律」「法廷」というど真ん中の社会的テーマと「笑い」とをコラボさせようという意欲作。とはいえ初回の印象は……面白さを意識した演出に走ったのか、証言台の上に弁護士が土足で立ったりスモークをたいたり。「まさか」「やりすぎ」「ありえない感」が突出。ギャグ的要素が立ちすぎて、現実との重なり具合に希薄感が。

「半沢直樹」が評価されたのは、リアリティを細かく作り込み筋書きをかちっと作った上でのカリカチュア。それが上手に効いたのです。「リーガルハイ」のこの調子で、堺雅人の人気の使い回しがどこまで持続するのか。私の杞憂でしょうか。

 ドラマにおいては、コメディタッチやギャグ、過剰な演出はあくまで味付けであり、根幹ではない--そのことをよく知っている制作陣こそが、視聴者の心を掴み、勝利するのでは。

 果たして、明日から始まるキムタク主演「安堂ロイドA.I. knows LOVE?」(TBS系日曜21時)はいかに……。

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