芸能

NHK「55歳のハローライフ」から湧いてくる基本的な疑問とは

 大人が愉しめる枠として定評があるNHKの土曜ドラマ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が新作について考察する。

 * * *
 村上龍原作のドラマ『55歳のハローライフ』(NHK土曜午後9時)。ちょっと風変わりな、注目ドラマです。

 同じ集合住宅に暮らし、互いに面識のない夫婦を一回ずつ登場させては展開させていく、全5話のオムニバス。細やかなカメラワーク、美しい映像。凝った構成、たくみに演出された、完成度の高いドラマ。

 主人公たちはみんな、人生の折り返し点を過ぎた中高年たち。舞台はリビング。ベランダには観葉植物。テーブルの上にはコーヒー。ありきたりな日常風景。そこを静かに深く、えぐっていくと……。

 マグマとなって溜まっていたドラマツルギー。人の想いのすれ違いが、物語となって噴出してくるのです。

 第1話『キャンピングカー』は、リリー・フランキーと戸田恵子が演じる夫婦。58歳で早期退職した夫には、会社時代の思考法と人間の関係の作り方が染みついている。

「キャンピングカーを買って旅に出よう」

 夫は「よかれ」と思って一生懸命、夫婦の明日を考えての提案のつもり。それが、妻にとっては、「押しつけ」にしかならない、という現実の哀しさ。

 老後の夢をめぐって夫と妻のすれ違いが鋭く鮮やかに、描き出されていく。リアルでした。見事でした。生活の匂いが漂うドラマに、考えさせられました。

 第2話の『ペットロス』は、松尾スズキと風吹ジュンの夫婦。イヌの存在をめぐって、夫婦のすれ違いを描き出していく。シニア世代の人々が、胸の中に隠し持っている葛藤、愛情への飢え、孤独と模索。感情の振幅。

『55歳のハローライフ』を見ていると、まだまだ暮らしの周辺に描くべきテーマがたくさんあるのだ、ドラマにはやるべき仕事があるのだ、と気付かされます。

 視聴者層の想定もシニア。リタイアして家にいる時間が多くなり、そもそも青春時代からテレビと一緒に生きてきた世代。テレビドラマという媒体が息を吹き返すチャンスのように思えます。

 とても完成度が高いのに、ただ一つ、第1話にも第2話にも共通して「残念な点」がある。中高年になればなるほど、「人は変わることが難しい」という決定的な現実についての、描き方の甘さです。

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