国際情報

米国の中東政策は都合良ければ擁護、悪ければ攻撃と大前研一氏

 ISIL(イスラム国)の残虐非道ぶりが世界じゅうで非難され、怖れられている。オバマ大統領も掃討のために地上軍投入を表明し、米国が次にどのような動きをするのかに注目が集まっている。米国の中東政策とは、どんなポリシーの元に遂行されているのか、大前研一氏が解説する。

 * * *
 人質の日本人2人やヨルダン軍パイロットらを殺害したイスラム教スンニ派過激組織「ISIL(イスラム国)」の非道さが世界を震撼させている。アメリカ主導の有志連合軍による空爆は続いているが、未だ事態は沈静化することなく、長期化の様相を呈している。

 そもそも、今の中東・アフリカ各地でイスラム原理主義が猛威を振るうようになった背景にあるのは、アメリカのご都合主義の中東政策だ。

 たとえば、アメリカはイラクを民主主義国家にするという名目でスンニ派の独裁者サダム・フセインを倒したが、民主的な選挙の結果、多数派のシーア派が政権を握り、それにスンニ派やクルド人が反発して国内が不安定化した。そして、そのプロセスで旧フセイン軍の残党らとアルカイダから分派したスンニ派の過激派組織が融合してISILが誕生したとされている。

 アメリカはエジプトにもちょっかいを出している。エジプトでは「アラブの春」でムバラク独裁政権が崩壊した後、民主的選挙でムスリム同胞団が政権を握った。するとアメリカは、ムスリム同胞団はイスラム過激派の源流だなどと言い始め、軍事クーデターを仕掛けて政権を転覆したのである。

 もともとアメリカの中東政策は、内政上重要なユダヤ勢力の支援を受けるためにイスラエルを守ることと石油利権を確保することが主目的で、それを脅かす国をランダムに冷戦後のターゲットにしてきた。

 また、民主主義からほど遠い王国サウジアラビアと友好関係を構築してきたが、オバマ政権がスンニ派のサウジが脅威とみなすシーア派のイランと核協議を進めているため、最近は関係がぎくしゃくしている。

 要するにアメリカに主義主張はなく、自国に都合が良ければ擁護し、都合が悪ければ攻撃するだけなのだ。ISILやイエメンの「アラビア半島のアルカイダ」、ナイジェリアの「ボコ・ハラム」などのテロ組織は、そうしたアメリカの中東政策の綻(ほころ)びから生まれて勢力を拡大しているのである。

 結局、湾岸戦争以降の中東政策の間違いを反省しないアメリカが最大の攪乱(かくらん)要因なのである。にもかかわらず日本はそれに追従して地球儀外交ならぬ“地球規模のバラ撒き外交”を展開し、イスラム国のテロ対象になってしまった。

※週刊ポスト2015年3月6日号

関連記事

トピックス

大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
「What's up? Coachella!」約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了(写真/GettyImages)
Number_iが世界最大級の野外フェス「コーチェラ」で海外初公演を実現 約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了
女性セブン
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
女性セブン
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。  きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。 きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン