良き梨園の妻の典型なのが、数多の美女と浮名を流した中村勘三郎の妻・好江さんだ。夫の“遊び”に気づきながらも「浮気はダメだが浮体ならいい」と容認した。また坂田藤十郎の妻・扇千景も“開チン事件”(2002年、50歳年下の舞妓との不倫発覚)の際、ある雑誌の取材に「ああ、その方(不倫相手)なら私も贔屓にしております。あの中で一番美人で頭の良い子ですよ。まったく問題じゃありません」と余裕を見せた。
「梨園の妻にとって一番の優先順位は旦那の芸事。その妨げになるようなことは絶対にしない。芝居に磨きがかかるのであれば“どうぞ遊んできてください”とはっぱをかける妻もいる」(前出・梨園関係者)
「歌舞伎の芸には役者の色気は欠かせない」と語るのは作家の小谷野敦氏だ。
「役者から“モテ”のオーラがなくなれば、歌舞伎も廃れてくるはず。だいたい遊びも知らないような役者は見識も狭く、芝居も浅い。そもそも女も寄ってこない魅力のない役者の舞台なんて誰が観たいと思うか」
前出・中川氏は、こう語気を強める。
「役者は舞台が命。舞台で役者として華があって、幕が開いた瞬間に人をゾクっとさせるようなパワーがあれば、法律を犯すのでなければ、あとはもう何をしたっていいんです」
定式幕の裏側では我々の尺度では計ることのできない世界が広がっているが、それも引っくるめて楽しむのが歌舞伎の醍醐味なのである。
※週刊ポスト2016年10月7日号