2006年に総理となると、郵政民営化法案の造反議員11人を復党させたことが議論を呼んだ。その後、本間正明税調会長(当時)の『愛人と官舎で同棲』のスクープ記事を皮切りに、閣僚の事務所費問題や「女性は子供を産む機械」などの失言問題が頻発。自らが任命した閣僚らを守ろうとして早急に幕引きすることができず、支持率を大幅に落とす結果となった。
政策では憲法改正に向けた国民投票法案や教育改革などにも力を注いだが、老獪さに欠けていた。人の良さを発揮して各方面に気を回しすぎた結果、ストレスをため込み、自身の健康問題と相まって辞任せざるを得なくなったのだ。
母の洋子が、晋三を「政策は岸信介、性格は安倍晋太郎」と評しているのが言い得て妙だ。確かに父・晋太郎は政治的な“寝技”ができない人で、政治家にしては珍しいほど善良な人だった。そうした父譲りの人の良さを持ったまま、祖父・岸信介のような保守色が強い政策を実現しようとしたところに無理があった。
第二次政権以降の安倍晋三はどうか。アベノミクスを唱えながら、同時に安保関連法案を強行採決させたようなところは、まさに岸信介的だ。岸は安保闘争のとき、大野伴睦らに政権を譲ると念書を書いて取り込んでおきながら、それを反故にするという、“政治的悪党性”のある政治家だった。父の善良さをもったまま、祖父の政治的悪党性を身に付けた。いまや晋三は、岸のクローンになったのだ。