しかし冒頭の金銭問題、いったい山中さんに何が起こったのか。
「妻の浪費癖です。私もオタクなので物欲の塊ですが、妻はもっとひどい」
山中さんも好きなアニメは円盤(市販のブルーレイ)で買うし、フィギュア(アニメやゲームのキャラクター人形)も買う。だがそれは収入の、結婚後はお小遣いの範囲内だが、奥さんは違った。
「ソシャゲの課金です。見てくださいこの額」
クレジットカードの明細を見せてもらうと尋常でない金額が記載されていた。
「妻がネトゲユーザーなのは知ってました。私も昔は出入りしていたのでそれは知ってるしオタクなら別にやっててもおかしくない。でも結婚してからは私のお金でソシャゲ三昧になったんです」
ソーシャルゲーム、略してソシャゲとはSNSで提供されるオンラインゲームだ。説明するまでもないが、もはやオタクがどうこうという範疇を越えた国民的コンテンツである。数々の話題作が各社からリリースされ、大々的なテレビCMもお馴染みだろう。
「ジャンルは乙女ゲーです。6桁の請求書が来た時には失神しかけました」
ゲームのなかでプレイヤーがヒロインになり、複数のイケメンキャラクターにちやほやされる恋愛ゲームを「乙女系恋愛ゲーム」という。略して「乙女ゲー」。逆にプレイヤーが複数の美少女キャラクターにちやほやされる恋愛ゲームは「ギャルゲー」である。山中さんの奥さんはその「乙女ゲー」にそうとうハマったようだ。
「それまでは無駄遣いが多いな程度で甘く見てたんですが、とあるゲームにハマってからはありえない金額で課金し始めて、ボーナスどころか給料も吹っ飛んで貯金も一気に減りました」
ソシャゲは一円もかけずに遊ぶこともできるが、希少な限定のキャラクターカードやイベント、アイテム(ゲームで使える道具)などは有料で提供されるのが普通だ。単純に購入できる仕組みのものもあるが、多いのは「ガチャ」と呼ばれるランダムの抽選を経なければならないもの。くじ引きのようなもので、無料でできることもあるが、たいてい、特定対象を手に入れるにはガチャの回数を増やすしかなく、抽選回数を増やすには、ひたすら金を使うしかない。運が良ければ少ない掛け金で済むが、中には1%しか当たりがないものもあり、それなりの額が必要だ。自制心があれば楽しく遊べるが、山中さんの奥さんは違った。
「さすがに激怒しました。それまでも私の給料を湯水のように使ってたのに、今度は生活をおびやかすほどの浪費ですから」