国際情報

落合信彦 金賢姫“国賓”来日は政府の空虚なアドバルーン

金賢姫と落合氏


 日本人として北朝鮮の問題を考える時に、避けて通れないのが拉致被害の問題である。日本国民の生命と安全を脅かすこのテロ行為は、決して許されるものではないし、日本政府が問題の解決に全力を注がなくてはならないのは言うまでもない。だが、今の政府の取っている対応を見ていると、その無能ぶりには呆れさせられるばかりだ。
 象徴的なのが、金賢姫を〝国賓待遇〟で来日させた一件である。落合信彦氏があまりに稚拙な日本外交を批判する。

******************************

 1987年の大韓航空858便爆破事件の犯人である北朝鮮の元工作員・金賢姫が、今年7月に日本に招待された。来日した彼女は拉致被害者家族らと面会したが、滞在期間中は軽井沢にある鳩山由紀夫の別荘に宿泊し、韓国からの送迎はチャーター機。政府は空港のタラップを降りた瞬間から厳重な警護を付け、最後にはヘリコプターで東京上空を遊覧までさせた。この金賢姫の来日のために使われたカネは全て国民の税金にほかならない。

 では、そうまでして招いた金賢姫は、果たして拉致問題に関する新しい情報を持っていたのだろうか。
 答えは明確に「NO」である。

 私はこれまで金賢姫本人を含めて、50人以上の脱北者にインタビュー取材をしてきたが、そもそも今回の金賢姫来日で新情報が得られる見込みは全くなかったと断言できる。

 北朝鮮を脱出した者たちは、韓国に逃れた場合、まず「北のスパイではないか」と疑われ、徹底的な取り調べを受けることになる。ソウル市内にある国家情報院(金賢姫が逮捕された当時は国家安全企画部であった)が脱北の動機や北朝鮮での生活について厳しく尋問し、北から送り込まれた工作員かどうかが判断される。その期間は長い者だと3か月にも及ぶことになる。

 つまり、この段階で脱北者たちが知っている「北朝鮮に関する情報」は諜報機関に根こそぎ聞き出されている。これは、脱北ではなく逮捕された金賢姫のケースも同様である。
 彼女が国情院に話していない情報を日本政府に喋れば、帰国してから「なぜこれまでの取り調べで吐かなかったのか」と締め上げられることになる。金賢姫自身もそのことをよくわかっている。そもそも、23年前に北朝鮮を離れた彼女が拉致被害者に関する新たなエピソードを披露したところで、その信憑性には疑問符が付けられて然るべきではないか。

 金賢姫の来日は、現政権が「拉致問題に力を注いでいる」ということをアピールするための、中身のないアドバルーンに過ぎなかった。被害者の帰国を心から願う拉致被害者家族の方々の〝藁(わら)をも?む〟という心情を弄んだ愚行だったと言えよう。

※SAPIO2010年10月13・20日号

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン