国内

吉田茂は「英語演説を拒否」GHQの恫喝にも臆しなかった

 かつて日本には「毅然」とした態度を貫き、国際社会から尊敬されるリーダーが存在した。西欧列強に対し、圧倒的不利の中で、実に堂々と、誇りをもって言葉で渡り合ってきた。

 太平洋戦争敗退を受け、日本は占領期を迎えた。日本人の矜持や威厳は著しく失われつつあった。その窮地から国家を導いたのは戦前に外交官を務め、戦後は政府責任者としてGHQと折衝した吉田茂(1878-1967)である。
 
 吉田は憲法改正をまとめ、総理としてサンフランシスコ講和条約、日米安全保障条約を成立させた。国際交渉の歴史に精通する関東学院大学文学部比較文化学科の富岡幸一郎教授の解説。

「無骨な風貌をしているが、言葉遣いは非常に柔軟。朝鮮戦争を機に再軍備を要求するアメリカに対して、軽武装で経済成長を優先させたい吉田は警察予備隊を結成。“それは軍隊じゃないのか”という国内批判に対しては、国会答弁で“戦力なき軍隊だ”と突っぱねた。外交官として時に必要な、人を“はぐらかす術”も身に付けていたのですね」

 吉田はGHQの恫喝にも臆しなかった。1951年、サンフランシスコ平和条約受諾の際、GHQから英文の演説文を渡されたが、「国家の尊厳が失われる」と日本語演説に急遽変更したという。そこで吉田は、平和への誓いを宣言する。

<世界のどこにも将来の世代の人々を世界の惨害から救うため全力を尽くそうという決意が日本以上に強いものはないのであります。われわれはこの人類の大災厄において古い日本が演じた役割を悲痛な気持をもって回顧するものであります。私は古い日本と申しましたが、それは古い日本の残骸の中から新しい日本が生まれたからであります>

※週刊ポスト2010年10月29日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

夜の街にも”台湾有事発言”の煽りが...?(時事通信フォト)
《“訪日控え”で夜の街も大ピンチ?》上野の高級チャイナパブに波及する高市発言の影響「ボトルは『山崎』、20万〜30万円の会計はざら」「お金持ち中国人は余裕があって安心」
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
悠仁さま(2025年11月日、写真/JMPA)
《初めての離島でのご公務》悠仁さま、デフリンピック観戦で紀子さまと伊豆大島へ 「大丈夫!勝つ!」とオリエンテーリングの選手を手話で応援 
女性セブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン