国内

JAは世界有数の機関投資家にして強力な集票マシーン 

 農協(農業協同組合、通称JA)の職員総数は約26万人。正組合員(農業従事者)が約490万人だから、20人の農家に対して1人の職員という割合だ。

 主な事業は農家の生産サポートや農産物の販売をする「販売事業」、組合員の資産を運用するJAバンク等の「銀行事業」、そして組合員の生保・損保などを扱う「共済事業」の3つだが、農協には巨大な「政治団体」としての顔もある。

 農協の本質は、収益の約4割が銀行事業、約5割が共済事業という経営実態が示唆している。JAは組合員などから約84兆円の貯金を集める巨大な金融機関で、そのうち23兆円を融資に回し、余った資金は都道府県の信農連を通じて農林中央金庫に預金される。農林中金は60兆円以上を運用する、世界有数の機関投資家である。
 
 が、ドル箱の金融部門が傾けば農協全体の屋台骨にかかわる。農林中金は2008年のリーマン・ショックで巨額の含み損を抱え、国会で経営責任を追及されたが、傘下の農協から1兆9000億円もの増資を受けて危機をしのいだ。1995年に表面化した住専(住宅金融専門会社)問題の際も、経営悪化した住専が次々に破綻する中、農協系の住専だけは「破綻させると農協が連鎖倒産する」という理由で、税金で救済された。

 特別扱いを受ける理由は、その政治力にある。農協の政治団体「農政連」は2007年の参院選まで自民党の最大の支援組織であり、同年の参院選で擁立した組織内候補は45万票を得て当選。政権交代後は自民と民主の両面作戦に転じ、昨年の参院選では各地で両党の16人の候補者を推薦した。

「地方では農協幹部が自民党議員の後援会長などを務めているケースが多い。選挙となれば農協がそのまま集票マシーンになる」(九州地方選出の国会議員)

 実は、日本の農家の9割近くは農業収入を主たる収入としていない。畢竟(ひっきょう)、農協の顔色を窺う政策は、そうした「片手間で農業をする農家」を助けるものになっていく。

『農協との「30年戦争」』の著者・岡本重明氏が語る。愛知・田原市で農業を営む岡本氏は2001年に「田原町農協(現JA愛知みなみ)」を脱退。農業生産法人「新鮮組」を立ち上げ、独自に取引先を開拓して農産物の生産・販売を行なっている。さらには、海外で農業コンサルタント業を展開し、年商は1億円を超える。

「現在の農業政策は、やる気のない農家を守り、生産性を上げようと努力する農家を妨害している。農協組織はそうした歪みの象徴といえます。日本の農業技術は世界一の水準です。その財産を活かすためにも、農協以外の販路や、外国人の雇用拡大を認めるなど、大胆な規制緩和が必要です」

※週刊ポスト2011年2月11日号

関連キーワード

トピックス

警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
このほど発表された新型ロマンスカーは前面展望を採用した車両デザイン
小田急が発表した新型は「白いロマンスカー」後継だというけれど…展望車復活は確定だが台車と「走る喫茶室」はどうなる?
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
北海道に生息するヒグマ(写真/Getty Images)
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン