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工藤公康 26歳の時に肝臓が肋骨から飛び出し死にかけていた

トレーニングを続ける工藤公康投手

 プロ通算224勝140敗。現役最多勝の工藤公康投手(47歳)は、今季の所属球団こそ未定だが、現役続行にこだわっている。40代後半で若手とやり合う自信はどこから来るのか、作家・増田晶文氏が工藤投手に迫った――。

 * * *
「僕も、もうダメだと観念しかかった時がありました」

 ピンチは1989年、26歳の時に訪れた。彼は夜毎、憑かれたかのように繁華街を飲み歩くようになる。独身の気軽さに加え、世はバブル経済の伸長期、そのうえ人気選手……。何より工藤には「若さ」があった。それを過信した。

「毎晩のようにブランデーを2本、3本とあけ、そのまま一睡もせずにゲームに出たこともありました」

 不節制は工藤の「若さ」をも凌駕し身体を蝕む。1989年にはわずか4勝のうえ8敗と大きく負け越す。

「肝臓が腫れて肋骨の間からはみ出しそうになっていました。医師には、このままでは死ぬといわれるほど肝数値も最悪でした」

 彼を救ったのが1990年のオフに結ばれた雅子だった。新妻は「本屋から段ボール箱で送られてくる」健康や栄養関係の書物を読破し、身体によいと噂の食材を取り揃えた。そして、情報と食物を徹底的に吟味し、研究を重ねたのだ。

「ご飯とみそ汁、豆類や根菜、小魚を摂る粗食に行き着きました」

 酒量も食事でビールを1、2杯まで減らし、夜の誘いは断固として断った。この習慣は今も継続中だ。

 1991年、工藤は16勝3敗と蘇る。その後もコンスタントに2桁勝利を重ねた。

「僕は年齢がかさむほどに人間は変わっていくものだと思っています。だけどこれはマイナスの意味じゃない。いい方向で変化すれば、心技体がそれぞれ補完してプラスに動いてくれます」

 ただ、40代後半で若手とやりあうには、それまでの蓄積と工夫がモノをいう。

「ちゃんと練習していない選手は20代後半で悪くなってしまいますね。とはいえ、どんな選手でも30代の前半になると必ずポテンシャルが落ちる。この時期をどう乗り切るかで40代のパフォーマンスは大きく違ってきます」

 それこそが、工藤一流のコンディショニングの出発点となっている。彼は、早くから自分専属のトレーナーを雇い、筑波大など研究機関を訪ねて身体づくりのノウハウを得た。こうしてオーダーメイドのプログラムで肉体を鍛える一方、マッサージやストレッチなどのリラクシングも怠らない。

「それでも左肘の手術をしましたし、満身創痍です。今ではケガを克服するという発想よりも、ケガと付き合いながら、身体をよりベターな状態に近づける方法を探り続けています」

 工藤の左肘は酷使により完全に曲げられない。左肩の関節唇は3分の1を切り取っており、腱板も半分しかない。

撮影■渡辺利博

※週刊ポスト2011年3月11日号

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