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銀行がローンを払えない個人の住宅をすぐ競売にかける理由

 銀行が集めた預金をどれだけ貸し出しているかを示す預貸率(預貸率)がこの10年で90%台から70%台に急減している。その裏には壮絶な「貸し渋り」「貸し剥がし」が行なわれているのだ。そんな現場をレポートする。

 中小企業だけでなく、個人向けの住宅ローンも容赦なく回収される。

 近年、住宅ローンを払えなくなって自宅を失う悲劇が、「不況の影響」としてマスメディアを賑わす。が、そうした事例が増えているのが、本当に「ローンを払えない人が増えたから」なのかは、疑ってかかる必要がある。

 確かに競売に掛けられる個人の住宅は増えている。

 2010年に入って減少したように見えるが、これは返済猶予を認めた中小企業等金融円滑化法が2009年末に施行され、住宅ローンの借り換えや返済期間の延長に銀行が応じるようになって、ローン破綻者が一時的に減ったからである。

 住宅ローンのトラブルの相談を受ける安田コンサルティングオフィスによると、実際には、「返せるのに家を取り上げられた」という事例が相次いでいるという。

 犯罪被害に遭ったAさんも例外ではなかった。

 不況で収入が減り、3500万円の住宅ローンの返済のため、子供は私立をやめて公立学校に通い、妻もパートに出て何とか頑張ってきた。ところが昨年、仕事のトラブルで100万円という大金を奪われる盗難被害に遭ったのだ。

 幸い、4か月後に犯人が逮捕され、カネも戻ったのだが、その間、ローン返済が滞ったことを理由に銀行は競売を申し立て、何度事情を説明しても撤回してくれなかった。そしてEさん一家は家を失った。

 建築業のBさんも、競売で自宅を失った。ローン返済が滞ったので、家を手放すことは覚悟したが、不動産業者が「1600万~1700万円で売れます」というので銀行に競売を待ってくれるよう頼んだが、「任意売却は認めない。競売します」といって譲らない。

 結局、1200万円で落札され、Bさんは追い出されたうえに、ローンだけが700万円も残ったのである。銀行の「競売好き」について、現役のメガバンク中堅幹部がこう告白する。

「任意売却は時間がかかるから嫌なのです。本部からもそういわれます。返済が滞ったら、すぐに保証会社に代位弁済させ、債権を保証会社に渡して銀行の業務はすぐに片付ける。保証会社はもともと融資が業ではないから、機械的に競売手続きを取るだけです。保証会社も銀行のグループ企業なので、不良債権を抱えるより、さっさと処分するほうを選ぶのです」

※週刊ポスト2011年3月18日号

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