国際情報

中東ドミノ「フェイスブック革命」は表層的と元外務課長補佐

 チュニジアからエジプト、そしてリビアへと飛び火した中東連鎖争乱。フェイスブックなど新メディアがもたらした新しい形の民衆蜂起であると報じられているが、それはあくまで表面的な分析にすぎない。

 外務省の元アジア大洋州局北東アジア課課長補佐で、国際情勢に精通する原田武夫氏が、中東政変の「真実」を語る――。

 * * *
 世界の覇権を握っているのがアメリカであることは疑いのない事実です。しかし、相対的に弱い地域がある。それが北アフリカと中東の地中海沿岸で、ヨーロッパ諸国がいまだに強い影響力を保ち続けているのです。

 そんな状況下で、今回、中東に争乱の連鎖が巻き起こった。チュニジア、エジプト、そしてリビア、バーレーン、イエメン。奇しくも、いずれも英仏をはじめとするヨーロッパ諸国と特につながりが深い国々です。

 かつてこの地域は欧州諸国の植民地だった。それゆえ現在においても、利権の面ではヨーロッパ諸国が米国を凌ぐ利権を得ている。

 とくにフランスは、レバノン、シリア、アルジェリア、チュニジア、モロッコなど、1940~60年代にかけて相次いで独立した諸国の旧宗主国として、これらの国々に対して強い影響力を持っている。

 チュニジアをはじめとするこれら旧植民地はもちろんのことですが、フランスは元イギリス領であるエジプトともつながりが深い。フランスのフィヨン首相は、昨年末から今年にかけてエジプトを訪れた際、ムバラク大統領の自家用ジェットで遺跡巡りをするなど、政府丸抱えの接待を受けていたことが判明しています。

 一方、現在混乱の渦中にあるリビアは、かつての宗主国であるイタリアとの関係が深い。産出する原油の32%がイタリアに輸出されるなど、原油のほとんどはヨーロッパへと流れる。対する米国への輸出はわずか6%に過ぎません。

 米国発の「フェイスブック」に端を発するといわれる一連の民衆蜂起ですが、そうした表層的な理解ではこの争乱の本質は見えません。米国はこの争乱を機に、中東・北アフリカ諸国のヨーロッパ利権を引き剥がそうと既に動いているのです。

 例えば親米国家のはずのエジプトで、米国は反体制派の争乱を容認しました。なぜか――実はムバラク前政権下のエジプト経済にはフランスのラファージュという軍需関連コンツェルンが深く入りこんでいたのですが、今回の政変でムバラク政権が倒れ、スレイマンが副大統領に就任しています。彼はCIA(米中央情報局)のエージェントともいわれる人物で、米国から見れば「協力者」といっていい存在です。

 つまり今回の政変によって米国は、フランスを押しのけ、エジプトとの関係をより強固なものにすることに成功したのです。

※週刊ポスト2011年3月25日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン